日本郵船のDX:「無人運航船プロジェクト」に参画 乗組員の操船業務をサポートし安全で効率的な運航可能に | NEXT DX LEADER

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日本郵船のDX:「無人運航船プロジェクト」に参画 乗組員の操船業務をサポートし安全で効率的な運航可能に

これまでを極め、これからを拓く。【日本郵船グループ・中期経営計画紹介映像】 より

日本郵船は1885年、郵便汽船三菱と共同運輸との合併により設立されました。現在は連結売上利益、時価総額で国内首位を誇る総合物流事業会社です。2017年には定期コンテナ船事業を統合する合弁会社OCEAN NETWORK EXPRESS PTE. LTD.(ONE社)を、川崎汽船、商船三井とともに設立し、持分法適用会社としました。

コンテナ船部門のONE社への移管により、2019年3月期からは大幅減収に。しかしその後、ONE社は2兆円を超える純利益をあげて躍進します。この影響もあり、日本郵船の当期純利益は2023年3月期の2期連続で1兆円を超え、過去最高を更新しています。(NEXT DX LEADER編集部)

「定期船事業」が経常利益の8割を生み出す

日本郵船の事業について、有価証券報告書では6つの部門で構成していますが、企業サイトや決算説明会資料ではさらに細かな事業を示しつつ、大きな3つのカテゴリーでまとめています。

◆ライナー&ロジスティクス事業(定期船事業/航空運送事業/物流事業)
ライナーは「定期船(便)」、ロジスティックスは「物流」を指します。航空運送事業は連結子会社の日本貨物航空(NCA)の事業です。

◆不定期専用船事業(ドライバルク事業部門/エネルギー事業部門/自動車事業部門)
ドライバルクとは、タンカー(液体)やコンテナ(箱)とは異なり、梱包されずに輸送される鉄鉱石、石炭、木材チップなどの「ばら積み乾貨物」を指します。

◆その他事業(不動産事業/その他の事業)
その他の事業は、石油製品や舶用機器販売、船舶代理店業、レストラン観光業、クルーズ業などを行う連結子会社の事業です。

2023年3月期 通期決算説明会(2023年5月9日)より

2023年3月期 通期決算説明会(2023年5月9日)より

2023年3月期の事業セグメント別売上高構成比(除く消去・全社)は、ライナー&ロジスティクス事業が1兆2,812億円で46.4%(うち定期船事業が1,905億円)、不定期専用船事業が1兆2,408億円で45.0%、その他事業が2,378億円で8.6%でした。

経常利益構成比は、ライナー&ロジスティクス事業が9,075億円(うち定期船事業が7,342億円)で黒字部分の81.1%を占め、不定期専用船事業が2,122億円で18.9%。その他事業は、不動産事業は13億円の黒字でしたが、その他の事業は22億円の赤字でした。

なお、定期船事業の経常利益が売上高を上回っているのは、持分法適用会社のONE社から利益を取り込んでいるためです。

経営戦略「ABCDE-X」でDXを位置づけ

日本郵船は2023年3月、新しい中期経営計画「Sail Green, Drive Transformations 2026」を発表しました。

将来の安定的な株主リターンにつながる投資対象に対し、2026年度までに総額1.2兆円規模の投資を計画。中核事業(コアコンピタンス)に5,600億円、新しい技術・サービスに4,600億円、新規事業に1,000億円、新規の市場・顧客に300億円を投入するとしています。

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

投資額の半数以上を投下する中核事業の対象としては、「事業領域:Sea(海運)」「事業対象:Cargo(貨物)」「お客様・社会:Global Network(国際的ネットワーク)」「事業資産:Ship(船舶)」をあげています。

また、新しいVisionとして「総合物流企業の枠を超え、中核事業の深化と新規事業の成長で、未来に必要な価値を共創します」を掲げ、経営戦略「ABCDE-X」を打ち出しています。

「ABCDE-X」とは、AX(両利きの経営)/BX(事業変革)/CX(人材・組織・グループ経営変革)/DX(デジタルトランスフォーメーション)/EX(エネルギートランスフォーメーション)をまとめたものです。

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

「基軸戦略」を、既存中核事業の深化と新規成長事業への投資(Ambidexterity)と将来の戦略的成長事業への挑戦(Business Transformation)の2つとし、「支えの戦略」として、多様性・多元性の確保(Corporate Transformation)やデジタル基盤の整備推進(Digital Transformation)、脱炭素戦略の本格化(Energy Transformation)を推進するとしています。

DXの取り組みとしては、既存事業と新規事業の“両利きの経営”を支えることを目指し、「既存中核事業の効率化および競争優位の獲得」「新規ビジネスが生まれる土壌作り」の2つの方向性を示しています。

自律運航船を開発し「無人運航船プロジェクト」に参画中

「既存中核事業の効率化および競争優位の獲得」のためのDXの取り組みとしては、「業務プロセスの刷新(BPR/クラウド、デジタルツールの活用)」「データとテクノロジーを活用したオペレーションの革新(自律運航船の開発/SIMS)」があげられています。

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

自律運航船の開発について、日本郵船では2019年9月、国際海事機関(IMO)が定めた国際ルールに基づく「有人自律運航船」の世界初の実証実験に成功しました。高度な先進技術と陸上オフィスからの遠隔支援により、船上の乗組員の操船業務をサポートし、より安全性や効率性の高い運航を可能にします。

実験で実証した「最適航行プログラム」は、避航操船(他船と衝突を避けるための操船)を実現するしくみ。日本郵船のグループ会社である日本海洋科学(JMS)の交通流シミュレーション用プログラムに、操船経験が豊富な船長・航海士の経験値や感覚値を組み込んだものとのことです。

「NYKグループESGストーリー2022」(2022年3月24日)より

「NYKグループESGストーリー2022」(2022年3月24日)より

2020年3月からは日本財団が進める無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」に参画。2022年2月には商船では初となる輻輳海域を含む沿岸長距離公開の自動運航実証実験に成功。2023年4月には有人自律運航の新システムの石炭専用船「しらなみ」への試験導入を行っています。

また、「SIMS」とはShip Information Management Systemの略で、日本郵船が2008年から導入している船舶パフォーマンスマネジメントシステムを指します。この導入により、毎時の詳細な運航状態や燃費に関するデータを、船陸間でタイムリーに共有できるようになりました。

このシステムにより、船舶情報の見える化はもちろんのこと、高粒度データ収集と陸上サーバでのデータ分析によって機関異常の早期発見を実現し、Remote Diagnostic Center(RDC)による遠隔監視体制を確立。安全運航を支えています。

デジタルアカデミーから新たな企業コラボ誕生も

「新規ビジネスが生まれる土壌作り」としてのDXの取り組みには、「新規事業のアイデア創出(外部人材とオープンなコラボレーション/社内インキュベーションプログラム)」「脱炭素を捉えた新技術の開発(次世代燃料船の開発/カーボンフットプリントの可視化)」があげられています。

DXによる脱炭素の取り組みのひとつに「GHG(二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガス)排出量の削減シミュレーション・オペレーションの高度化」があげられます。日本郵船では地球温暖化防止に向け、運航船舶からのGHG排出量の削減に取り組んでおり、GHG排出量の把握と削減目標の管理をオペレーションするシステムをDXで高度化するものです。

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

「中期経営計画 Sail Green, Drive Transformations 2026」(2023年3月10日)より

また、DXのための基盤整備として「デジタル人材の育成」「自律自走のDX型組織作り」「データの蓄積・活用」「基幹システムの更新」「ITセキュリティのアップデート」といった取り組みが並んでいます。

日本郵船では、2019年9月に「NYKデジタルアカデミー」を創設。真の顧客ニーズを洞察し、主体性をもって革新・改革に取り組むビジネスリーダーを育成しており、2023年7月時点でアカデミー修了生は累計61名になりました。

参加者は約9ヶ月間にわたり、座学と演習に取り組みます。演習では、自力で社外との関係構築を進めて新規事業の創造に取り組み、これまでに実装へとつながった事例もあるとのこと。JAXAや三菱重工と共同で進めている「船舶におけるロケット洋上回収技術研究」はそのひとつです。


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考察記事執筆:NDX編集部

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