働き手の「働きたい時間」と雇用主の「働いてほしい時間」をマッチングする新しい領域“スキマバイトサービス”を開拓するタイミー(Timee)。2024年7月26日には、会社設立から7年で東証グロース市場への上場を果たしています。
認知度が高まる中、利用者が急増していますが、いま勢いのあるこの会社では、どのような取り組みを行っており、キャリア採用では、どのようなポジションでどのような人材を求めているのか。その内情を、同社セールス採用担当の久保慶介さんに聞きました。(構成・文:水野香央里)
「人手が足りない」から1分で募集開始できるアプリ
――御社の沿革について教えてもらえますか。
2017年8月、代表の小川嶺(りょう)が20歳のときに前身の会社を設立し、その後、社名をタイミーに変更し、2018年8月に“働きたい時間”と“働いてほしい時間”をマッチングするスキマバイトアプリ「タイミー」の提供を開始しています。
サービスのリリースから約6年が経ち、スキマバイトサービスにおける働き手の利用率・リピート率にてNo.1スキマバイトプラットフォームへと成長しました。2024年4月末現在で、登録ワーカー(働き手)数は約770万人、登録クライアント(雇用主)数は約25.4万拠点となりました。
現在は国内に7支社6営業拠点を配置し、日本全国の事業者や働き手を開拓しています。直近の売上高は、2022年度の62億円から、2023年度に161億円へと大きく伸長しました。2024年10月期は、売上高は前期比70.7%増の275億円、営業利益は同109.0%増の40億円を見込んでいます。
――「タイミー」がどのようなサービスなのか、あらためて教えていただけますか。
働き手(ワーカー)の「働きたい時間」と雇用主(クライアント)の「働いてほしい時間」をマッチングするサービスです。スマホアプリだけで仕事探しから応募まで完結でき、いま働ける仕事をすぐに見つけられるのが特徴です。
「タイミー」を利用するワーカーさんは、履歴書の提出が不要で面接もありません。アプリで本人確認をしておけば、案件に申し込んですぐに働きに行けるので、応募から働き始めまでの工程をギュッと短縮できる仕組みになっています。
給与を受け取るまでの時間が大幅に短縮されることも「タイミー」の特徴の1つです。当社が立て替え払いすることで即日入金、早ければ仕事を終えて最寄り駅に着くころには銀行口座に入金されます。「タイミーなら毎日が給料日」という世界観は、ワーカーさんから高く評価されている部分でもあります。
雇用主であるクライアントとしても「タイミー」を使えば、来て欲しい時間や求めるスキルを設定するだけで、条件に合ったワーカーさんを自動でマッチングできます。「人手が足りない」から1分で募集を開始し、急な欠員や繁忙期にも対応できます。
現在のクライアントは、物流業界での単純・簡易作業や、飲食・小売業界が多くを占めていますが、最近ではホテルなどの宿泊業界や介護・保育業界での利用も伸びています。
職業を登録しているワーカーさんの2024年4月末時点の内訳では、学生が16%を占めていますが、パート・アルバイト・契約/派遣社員が33%、正社員も21%おり、本業を持った方のスキマ時間の副業によく活用されています。
ワーカーさんの年代は、20代が28%と最も多いものの、30代が20%、40代が23%、50%が19%と幅広い年代にご利用いただいており、最近ではシニア世代の利用も増えています。
コンサル色が強い「カスタマーサクセス」の仕事
――現在どのようなキャリア採用に注力していますか。
2024年7月に上場したばかりで、企画系からエンジニア、バックオフィスも含め幅広い職種で採用を進めています。採用ボリュームとして最も大きいのは、カスタマーサクセスという営業職のポジションです。「タイミー」を利用いただいているクライアントのお困りごとを聴き取り、解決策を提案する仕事です。
「タイミー」は導入費用や維持費用なしで利用できる成果報酬型のサービスですので、いかに多く継続的に利用してもらえるかが当社の収益につながります。クライアントのサポートは、当社にとって非常に重要な仕事となります。
――具体的にはどのような仕事になるのでしょうか。
単にサービスの利用促進や問い合わせ対応だけでなく、クライアントとワーカーさんにとっての成功を見据えた、コンサルティング色の強い取り組みを行っています。
一部のクライアントごとに、「タイミー」に掲載するワーカー活用のマニュアル作りをサポートしたり、ワーカーさんが働く現場に問題点がないか視察したりと、泥臭い活動を行っています。クライアントにワーカーさんが働きやすい環境整備を働きかけたりすることもあります。
また、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング。業務革新)の考え方に基づき、必ずしもクライアントのコア社員が行う必要がない業務を切り出して、ワーカーさんに任せる提案もしています。これにより、コア社員の残業時間削減やワークライフバランスといった、多くのクライアントが悩む課題の解決も可能になります。
――前職の経験など必要な条件はありますか。
特に条件は設けていませんが、採用実績として多いのは法人営業の経験者です。法人の担当者を相手にSaaS営業や求人広告営業を行ってきた経験は、当社のカスタマーサクセスとも親和性が高いです。
なお、業務を行ううえでは労務や税務の知識も必要になり、そういった知識を持っている方は歓迎ですが、必要に応じて社内の専門家が同行することもできますので、こちらも必須条件ではありません。
――クライアントの労務面や税務面でのサポートも行っているのですか。
サービスの使いやすさをいくら追求したとしても、法規制はきちんと守らなければなりません。「タイミー」では、求人掲載時に「労働条件通知書」を自動で生成し、QRコードでのチェックイン時に「雇用契約」を自動で締結するようになっています。
また、クライアント側の「タイミー」のシステムには「源泉徴収票」の生成など、労務作業の手間を削減できる機能も各種搭載しています。こういったサービスのサポートを行うためには、労務や税務の基本的な知識が必要になります。
組織貢献を称える「社内表彰制度」が活発
――キャリア採用時の研修はありますか。
入社後は3日間かけて全社的なオリエンテーションを行っています。最初の2日間は業界動向や業務内容、各部署の理解、会社の規則などを学ぶ全体的な研修で、3日目は実際にタイミーを使って働いてもらいます。
カスタマーサクセスについては、さらに5日間、配属前に研修と現場教育(OJT)で構成された特別プログラムを用意しています。ロールプレイングなどを通じて商談を回せる力を身につけてもらう研修です。
――社員定着のためにおこなっている施策はありますか。
従業員が働きやすい環境づくりには力を入れており、GPTWジャパンの2024年度版「働きがい認定企業」に選出されました。「Ticktack(チクタク)制度」という名前でさまざまな福利厚生施策を整備しているところが評価されました。
また、博士号取得のような高度な専門知識の習得を目指すエンジニアを対象とした最大で年間300万円・全額返済不要の「給付型奨学金」や、従業員が毎月の給与から一定金額を拠出して自社株を購入できる「従業員持株会」といったものもあります。
とはいえ、当社としては、まずは会社として成長をし続けることが、当社で働き続けてもらう一番の方法と考えており、ビジョン・ミッションの実現に向けてチーム全員が成長する組織を目指しています。
個人的に面白いと思っているのは、従業員の優れた功績や組織貢献を称える社内表彰制度が非常に活発なことです。当社のバリューに合わせて「理想ファースト賞」や「オールスクラム賞」などが設けられています。
表彰を通じて評価のポイントが全社に共有されるので、会社のビジョンやミッション、バリューをあらためて確認しながら、会社が評価するのはどのような取り組みなのかを理解し、他の社員に展開できるナレッジとして共有する場にもなっており、業務に直接活かすことができています。
全社総会は月2回行われ、そのうち1回は役員から会社の状況や方針、個人の取り組みなどが共有されるので、同じ方向を向いて事業を進めていくことができます。こういったところもベンチャーらしいといいますか、いいところだなと思っています。
理想を描いて泥臭くやり抜ける「素直でいい人」求む
――バリューの話が出ましたが、御社のビジョンやミッションなどは、どのような考えに基づいて作られたのでしょうか。
「一人ひとりの時間を豊かに」という当社のビジョンは、代表の小川によるものです。尊敬していた祖父の急逝などから、「人生の時間は有限」だから今を一生懸命生きていくことが大事だ、という価値観を持つようになったといいます。
社名やサービス名の「タイミー」が、時間(Time)という要素を持ち合わせているのにも、そのような背景があります。
このビジョン実現のためのミッションが「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」です。誰もが働きたいと思ったときに、しかも働きたいと思った仕事や場所で働けることが当たり前の世界を実現したい、という思いが込められています。
これに加えて、多種多様なバックグラウンドを持つメンバーが迷わずミッションに向かって進めるように設けたバリューとして、4つの行動指針があります。
1つ目は、前提にとらわれずにあるべき姿を逆算して更なる高みを目指す「理想ファースト」。2つ目は、自身の責務を果たしつつチームや会社の成功にも全力を注ぐ「オールスクラム」。3つ目は、できたことは仕組み化して未来のタイミーを強くする「バトンツナギ」。4つ目は、失敗を恐れずに大胆に挑戦して泥臭くやり抜く「やっていき」です。
――キャリア採用においても、ミッションやビジョンへの共感は重要ですね。
私たちが非常に大事にしているものに共感してもらえるかどうかは、同じ熱量で仕事をしていく上でとても大切です。これからもそういった方に入社してもらい、世の中の「はたらく」を一緒に変えていきたいと思っています。
まずはバリューにもあるように、現状に満足せず、理想を描いて挑戦し、泥臭くやり抜き、自分のことだけを考えるのではなく、チーム全体、会社全体で成長していこうという気持ちがあるかどうかを重視しています。
当社のカルチャーに合った人であるかも重要です。役職や年齢の違いはあっても、同じ目標に向かって一丸となって走りながら、互いに意見を言い合い、議論を重ねて次のアウトプットに生かし、お互いに高め合っていくフラットな関係性やコミュニケーションを大切にしています。変化や意見を受け止められる「素直でいい人」に来ていただきたいです。
それから何よりも、私たち社員は「タイミー」というプロダクト、サービスが大好きです。価値を本当に信じていて、真剣にクライアントやワーカーさんの課題を解決しようと向き合っていますので、ここにも共感してもらえる方と働きたいですね。
「大手の競合参入」は市場拡大のチャンス
――今後はどのような展開を考えていますか。
2024年2月に新規事業の「タイミーキャリアプラス」を開始しました。これまでとは違うものさしで正社員登用の実現を目指すサービスですが、こちらの事業にも力を入れていきたいと考えています。
「タイミーキャリアプラス」は、資格や経験等の有無にかかわらず、挑戦したい仕事ができるようになるための機会を提供するサービスです。必要な資格やスキルを有していないために自信をなくし、就業を断念してしまったり、定職に就きたいと考えていてもなかなかその機会に恵まれなかったり、といった働き手の課題を支援し、働き手一人ひとりの可能性を広げたいという思いから、この事業がスタートしました。
「タイミー」は、働いた実績や経験が全てデータとして蓄積されますし、実際に働いた企業からワーカーさんに対する評価が可視化されています。「タイミーキャリアプラス」は、こういったデータを活用して、履歴書や面接ではなく、実際の働きぶりや評価をもとに転職支援を行います。
――事業の将来性に対する見通しはどうでしょうか。
スキマバイトサービスには、市場の急速な拡大を受けて、数々の競合他社が参入を始めていますが、この状況を私たちはポジティブに捉えています。人材サービスの中で圧倒的な知名度を持った企業が参入してくることは、今後この市場がさらに拡大していくことを意味するからです。
当社はこれからもNo.1の座を守り続けていくために、これまで培った独自の開発ノウハウを活用し、新規クライアント獲得の施策展開やワーカーさんとの接点拡大などにより、継続的な事業成長と市場シェアの拡大を図っていきたいと考えています。
少子高齢化に伴い、労働力人口の不足は深刻化しています。例えば、飲食店が人手不足を理由に休業したり閉店したりしていますよね。人手が比較的多い首都圏でさえこういった状況ですから、地方はより深刻です。
「タイミー」は、そのような問題に対してサポートをしていけるサービスだと考えています。社会課題に真正面から向き合うと同時に、働き方の選択肢を広げ、働くことの意義を変えていくことが当社の目指しているところです。