日本調剤のDX:「スマート医療」の提供でコアビジネスを変革 オンライン薬局サービスと遠隔診療を連携 | NEXT DX LEADER

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日本調剤のDX:「スマート医療」の提供でコアビジネスを変革 オンライン薬局サービスと遠隔診療を連携

日本調剤グループ紹介ムービー 2022 より

日本調剤は1980年に札幌で設立され、1987年の東京支店開設を皮切りに全国に事業所を展開。1995年に東京に本社移転し、2004年に東証二部上場、2005年に子会社として日本ジェネリックを設立し、2006年に東証一部に市場変更しています。

報告セグメントは3つで、主要事業の「調剤薬局事業」は日本調剤、「医薬品製造販売事業」は日本ジェネリック、「医療従事者派遣・紹介事業」はメディカルソースが担当。このほか、日本医薬総合研究所が「情報提供・コンサルティング事業」を行っています。(NEXT DX LEADER編集部)

2030年に「グループ売上高1兆円」目指してICT投資

2023年3月期の連結売上高は3133億円、営業利益は75.8億円、営業利益率は2.4%。調剤薬局事業は、セグメント売上高(調整前)全体の85.7%を占め、同セグメント営業利益は146.7億円で、医薬品製造販売事業の赤字13.9億円を埋めています。

日本調剤グループは2018年4月、「2030年に向けた長期ビジョン」を策定。外部環境の変化のひとつとして「医療のICT化」、具体的には「電子お薬手帳の普及」「オンライン服薬指導の開始(普及)」「医療関連情報の一元化(デジタル化)」「電子処方箋の様式検討(普及)」をあげています。

DX戦略(2023年9月)より

DX戦略(2023年9月)より

これを踏まえた「飛躍のための戦略」として、「長期間にわたるICT投資」「バランスのとれた店舗戦略」によって、コアビジネスである「調剤薬局事業の飛躍的拡大」を図りながら、「医薬品製造販売事業」の業容拡大と「医療従事者派遣・紹介事業の取り扱い分野拡大」による収益性を図り「総合ヘルスケアカンパニー」を目指すとしています。

日本調剤のウェブサイト「長期ビジョン」より

日本調剤のウェブサイト「長期ビジョン」より

2030年に向けた成長イメージとして、グループ売上高は1兆円、市場シェアは調剤薬局事業が10%、医薬品製造販売事業が15%、営業利益に占める調剤薬局事業以外の割合が49%と、高い数値目標を掲げています。

2022年4月には新しいグループ理念において、使命として「すべての『生きる』に向き合う」を、グループの目指す姿2030として「誰もが一番に相談したくなるヘルスケアグループへ」を掲げています。

「オンライン診療」を支えるクラウド薬局サービスを構築

日本調剤は2021年8月にDX戦略を策定しました。長期ビジョンとして「デジタルトランスフォーメーション(DX)とサステナビリティを経営戦略に取り込むことにより、ビジネスモデルを進化させ、持続的な成長を実現」をかかげ、デジタルの活用によるビジネスの変革に取り組み、高い目標を達成していくとしています。

具体的なDX戦略として打ち出されているのが5つ。うちコアビジネスの変革に向けた戦略が3つあげられています。

DX戦略(2023年9月)より

DX戦略(2023年9月)より

1つ目は「スマート医療の提供」で、誰もがオンラインによる診療、服薬指導、薬の受け取りまでシームレスに受けられるスマート医療の提供に向けて、具体的に以下の4つの取り組みを行うとしています。

・日本調剤オンライン薬局サービス「NiCOMS」
・オンライン診療サービス(他社提供)と「NiCOMS」との連携
・電子お薬手帳「お薬手帳プラス」
・認証機能付きロッカーを活用したお薬の受け取り

2つ目の「新たな顧客体験の創出」では、リアル店舗とオンラインの融合による新たな顧客体験の創出に取り組み、3つ目の「顧客満足度向上と治療効果の最大化」では、「お薬手帳プラス」を活用したタッチポイント増加により顧客満足度向上と治療効果の最大化を実現するとしています。

これらの取り組みを実現する仕組みとしては、オンライン診療を支える仕組みとして、クラウド上に「電子処方箋管理サービス」を構築し、これを中心として病院・クリニックや患者、薬局と連携する姿が描かれています。

オンライン化により期待される効果としては「通院負担の軽減」「生活習慣病の早期受診」「医療格差の改善」「受診後の患者フォロー」があげられています。

DX戦略(2023年9月)より

DX戦略(2023年9月)より

これらコアビジネスの変革の取り組みの成果目標として、「お薬手帳プラス会員数」「マイナ保険証利用率」「NiCOMS導入店舗数」をKPIに、「既存店の処方箋枚数」をKGIに設定しています。

「調剤業務の機械化」で業務効率化

新規ビジネスの創出に向けた戦略としては「付加価値情報の提供」をあげ、医薬品情報プラットフォーム「FINDAT」による情報提供、薬局による活用、大学等での教育利用などを勧めるとしています。「FINDAT」の提案件数割合をKPIに、導入件数をKGIとしています。

業務プロセスの変革に向けた戦略としては「業務の効率化・対人業務時間の創出」をあげ、デジタルを活用した業務の効率化のために、以下の取り組みを行うとしています。

・調剤業務の機械化
・薬局管理業務プロセスのデジタル管理化、優良事例の共有
・オンライン資格確認
・学習コンテンツのオンライン化、質疑応答情報のデータベース化
・オンライン決済
・音声入力システム、整体静脈認証

このうち調剤業務の機械化については、調剤ロボットによる調剤業務にあわせ、処方内容のデジタル化および機器とのデータ連携、画像認識機器による監査業務なども含みます。

DX戦略(2023年9月)より

DX戦略(2023年9月)より

これらの取り組みでは、「調剤ロボット導入店舗数」をKPI、「業務削減時間」をKGIとしており、KGIについては2022年4月から2023年3月の1年間で約22.4万時間の削減を果たしているとのことです。

組織・人材・IT環境で「DX推進基盤」を整備

DX推進基盤としては、3つの取り組みを行うとしています。1つ目の「組織体制」の整備では、経営の強力なコミットメントと、事業側とシステム側の両輪の体制により、DXを強力に推進するとしています。

2021年4月には、全社戦略のもとで「薬剤企画部(調剤薬局事業)」を新設し、調剤薬局事業全体のDX推進について、計画立案や予算化、開発依頼、評価、見直し、重複整理のほか、規制緩和の動向や医療版DXに関する情報収集などを行っています。

同じく2021年4月に、DXの一層の推進を図るため、システム第1部、2部を統括する「システム本部」を新設し、事業部門からの要件に沿ったDX関連を含むシステム設計・開発のほか、情報セキュリティ対策やDX基盤の構築・運用などを行っています。

さらに2022年12月には、DXを含む新規投資を全社戦略・事業戦略に沿ったものにするため、新たに「プロジェクト検討会」という会議体を設けています。

2つ目の「DX人材」では、「ICTナレッジ・リテラシー」のみならず、経営の視点をもち医療の規制や制度を理解する「ビジネスナレッジ」や、患者視点で業務プロセスを捉え直す「ペイシェント・パースペクティブ」の3つの知識や視点をもってDXを推進できる人材を採用・育成するとしています。

DX戦略(2023年9月)より

DX戦略(2023年9月)より

3つ目の「IT環境」では、患者や医療機関、地域社会や従業員など、様々なステークホルダーをつないだ「デジタルプラットフォーム」を整備し、新たな価値を創出するとしています。プラットフォームには「電子お薬手帳」や「医薬品情報プラットフォーム」「生体静脈認証」などさまざまなシステムが載るイメージです。

DX戦略(2023年9月)より

DX戦略(2023年9月)より

YouTube:日本調剤グループ紹介ムービー 2022

考察記事執筆:hideo.ujiie

日本調剤グループ紹介ムービー 2022の再生回数推移