「スマレジ」上場から5年もベンチャーど真ん中 エンジニア出身の新代表が語る「エンジニアはビジネスマン」の真意 | NEXT DX LEADER

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「スマレジ」上場から5年もベンチャーど真ん中 エンジニア出身の新代表が語る「エンジニアはビジネスマン」の真意

スマレジ 代表取締役CEO 宮﨑龍平さん

スマレジ 代表取締役CEO 宮﨑龍平さん

2024年7月、大阪市に本社を置くスマレジの代表取締役CEOに、前取締役CTOの宮﨑龍平氏が就任しました。前代表もエンジニア出身であり、2005年の創業以来初の代表交代を実施。同社の売上高は、2019年の東証マザーズ(現グロース市場)上場時の19億円弱から、5年間で約4.2倍に伸長し高成長を遂げています。

2021年に策定した長期ビジョン「VISION 2031」では「POS市場国内トップへ」を掲げ、2024年4月から3年間でCAGR(年平均成長率)30%超の成長を目指しています。そんな同社が、いまどのようなポジションで、どんな人材のキャリア採用に注力しているのか、宮﨑代表に話を聞きました。(キャリコネニュース編集部)

高機能を実現する「オープンデータ」で差別化

スマレジ 代表取締役CEO 宮﨑龍平:2007年よりエンジニアとして多数の業務システムの開発を経験し、2011年にスマレジ入社。「スマレジ」立ち上げメンバーとして開発に参加後、2014年にクラウド勤怠管理サービス「スマレジ・タイムカード」の立ち上げを主導。開発部長、取締役CTOを経て、2024年7月より現職。

スマレジ 代表取締役CEO 宮﨑龍平:2007年よりエンジニアとして多数の業務システムの開発を経験し、2011年にスマレジ入社。「スマレジ」立ち上げメンバーとして開発に参加後、2014年にクラウド勤怠管理サービス「スマレジ・タイムカード」の立ち上げを主導。開発部長、取締役CTOを経て、2024年7月より現職。

――御社はどのような事業を行っているのですか。

主にクラウド型POSレジシステム「スマレジ」を提供しています。POSレジとは販売時点管理システムを備えたレジのことで、これをクラウド化することで精算だけでなく、売上管理や在庫管理、顧客管理にも活用できます。

プロダクトはiPadやiPhoneアプリの形で提供し、基本的なレジ機能が無料で使えます。有料プランでは、より高度な顧客管理や在庫管理などにより、複雑な店舗業務の効率化を図ることができます。

また、飲食店の店員さんがオーダーを取るハンディ端末やキッチン伝票出力などを備えた「フードビジネスプラン」や、小売・アパレル店舗で高度な在庫管理が可能な「リテールビジネスプラン」、POSレジ以外にも、アルバイトの勤怠管理や給与計算ができる「スマレジ・タイムカード」やマルチ決済サービス「PAYGATE」などの企画・開発を行っています。

――現在さまざまな会社がクラウド型のPOSレジに参入しています。

クラウドサービス自体はすでに多くの企業で取り入れられていますので、当社の競争力の源泉は、API連携を含む顧客とのデータ共有や、店舗運営全体を支援するビジネスモデルといった、思想やスタンスの部分になるかと思います。

スマレジについて(「FY2025 1Q 決算説明資料」(2024年9月12日)より)

スマレジについて(「FY2025 1Q 決算説明資料」(2024年9月12日)より)

他の大手ではデータを専有する囲い込み戦略を採っていることが多く、基幹システムや給与計算システムとの連携を自社のプロダクト内で完結させ、データの共有や外部との連携を積極的に推進していない傾向があります。

当社は、経営理念である「OPEN DATA, OPEN SCIENCE!」に基づき、APIを通じて顧客が自由に販売データを取り出せる環境を提供し、必要に応じて顧客自身が小規模なアプリを開発できるオープンな戦略を採っています。これにより顧客の主体的なシステム活用を促し、店舗運営の効率化と利便性を高めています。

「ビジネスができるエンジニア組織」目指す

VISION 2031(「第2次中期経営計画」2024年9月12日より)

VISION 2031(「第2次中期経営計画」2024年9月12日より)

――現在注力しているキャリア採用はありますか。

全職種の採用に力を入れていますが、特にサービス開発の要であるエンジニア職には注力しています。求める人材のマインドは「主体性が高い人」です。当社は今年で会社設立20周年、東証マザーズ(現グロース市場)に上場して5年経ちますので、ベンチャー企業を卒業したと見られているところがあるかもしれません。

しかし、現在も3年間で30%成長と高い目標を掲げていますし、中長期経営計画「VISION 2031」では「国内市場トップ」を目指しています。まだまだベンチャーマインドを持って事業を展開していますので、「主体性が高い」とか「変化に強い」方を求めています。

エンジニア職は、エンジニアリングやウェブアプリケーション開発のスキルを持っていることはもちろんですが、その他にも、私が以前より社内で共有している「エンジニアはビジネスマン」「技術は手段」「ユーザードリブン」「絶対汎用化!」といった開発バリューに共感してもらえる方を募集しています。

――それぞれのバリューについて詳しくお聞きできますか。

まず「エンジニアはビジネスマン」については、現在当社では「ビジネスができるエンジニア組織を目指す」を掲げており、ビジネスサイドへの理解や共感、興味を持っているエンジニアを主に採用していることにも由来します。

私たちエンジニアは「技術力で課題を解決するからこそお金をもらえるんだ」という本質を理解する必要があります。昨今最新の技術やトレンドを追いかけることに必死になってしまうエンジニアも多いのですが、そもそも「人の役に立ってお金をもらう」という観点が抜けていることがあるので、社員にはあらためて意識してもらっています。

――「技術は手段」もこれに近い考え方でしょうか。

文字通りエンジニアの技術はあくまで手段であり、顧客の本質的な課題を解決することが目的だということです。顧客が「難波から梅田まで行きたい」と言っているときに、エンジニアがいきなり「最新のフェラーリがすごく速いのでいかがでしょうか」と提案するのは的外れでしょう。

もちろん顧客から「とりあえずフェラーリ乗っていきたいんですわ」と言われたら提供すればいいんですが、技術にこだわりすぎてもいけない。エンジニアは最終的な目的であるユーザーの課題解決に対して何ができるかという視点を持ち、予算などの背景をヒアリングして、場合によってはタクシーや電車を提案することも必要です。

SIerとは異なる「SaaS企業特有の考え方」

スマレジの採用サイト(職種の強みと特徴)より

スマレジの採用サイト(職種の強みと特徴)より

――「ユーザードリブン」もユーザー起点が共通しそうです。

「ユーザードリブン」とは、顧客の意見や要望をよく聞いてプロダクトの機能を開発することですが、気をつけなければならないのは、顧客は欲しいものを具体的に話すことができないということです。顧客の要望を聞きすぎてしまった結果、すごく速い馬車を作ってしまったけれど、実は自動車でよかったということもある。

顧客は現場で苦労しているかもしれませんが、自分の悩みを的確に表現するプロではないんですね。したがってエンジニアは、顧客のことをよく把握したうえで、「なぜそれが必要なんですか?」というやりとりを挟んでみる。そうすることで解決策そのものが大きく変わることがある。それを「ユーザードリブン」という言葉で表現しています。

――「絶対汎用化!」はどういう意味でしょうか。

これは当社というより、SaaS企業特有の考え方です。これまでのSIer型のビジネスは、1人の顧客に対して1つのソリューションを提供する場合、顧客から出された仕様を完璧に実現して、1社から1億円もらうようなモデルでした。

一方、SaaSビジネスは、1万円を1万社からもらうモデルです。それも、1万社の言うことをすべて聞くことはできないので、9,000社が幸せになる機能やシステムをどんどん作ればいいということになります。そういう、個社対応やカスタマイズとは逆の「汎用化」という概念を意識しましょう、ということです。

――ということは、前職がSIerの人は御社に応募する際には少し考えを変えて対応する部分も必要になりますか。

当社にはSIer出身で活躍しているエンジニアも多くいますが、確かに戸惑うところはあるのかもしれませんね。例えば、SIerのモデルは絶対にお客さんがいう100点を実現しなければお金をもらえません。

しかし、SaaSであれば、70点で最初のリリースを行うこともあります。その代わり、顧客の声を聞きながら毎月アップデートして点数を上げていく必要があるし、アップデートにおける柔軟な対応力やスピード感がより重視されます。

SIer出身者にとってのギャップは、特にシステムの不具合を指摘するときに感じるかもしれません。私たちにとって改善は普通のことなので「ここって、こうしておくべきやったんちゃう?」と尋ねることがあるんですが、SIer出身者は、間違いを指摘されたみたいな受け止め方をしてしまうことがあるんですね。

SIerのモデルから考えると、不具合は「やってしまった」「間違えた」とエンジニアにとって汚点になりがちです。しかしSaaSのモデルからすると、もちろん不具合は出さないに越したことはないんですが、完璧はありえないわけです。

「次、どう直していこうか」みたいな展開にするためには、コミュニケーションやマインドセットを変える必要があるかもしれません。「作る前にもっと考えられていたらよかったな」と反省するよりも「どう改善しようか?」と想定外に向き合う力が必要になります。

小さな会社で受託開発をやっていた人の強さ

第2次中期経営計画(2024年9月12日)より

第2次中期経営計画(2024年9月12日)より

――SaaSモデルのエンジニアにはどういう経歴の人が強いんでしょうか。

小さな会社で受託開発を1から10までやっていた人は強いなと感じますね。小さな会社ではエンジニアがユーザーヒアリングに入ることが多いのですが、顧客が「Aが欲しい」と言うのでその通りに作ると、「いや、思ってたんとちゃいましたわ」と言い出すこともあるんですね。実は欲しかったのはBでした、みたいな。

そういった経験を重ねると、打ち合わせでAが欲しいと言われても「ほんまにAが欲しいんですか?」「ほんまに欲しいのってBちゃいますか?」といったヒアリングができるようになります。そうすると手戻りがなくなる。そういう意味で、要件定義から実装まで一環して行えるエンジニアは強いです。

彼らがなぜそれをやれるのかというと、顧客を納得させないと納品できないし、検収書をもらえないし、入金もされないと会社が潰れるじゃないですか。そういうところを経験している人は、しっかりしています。

――エンジニア採用では他にどういう人を求めているでしょうか。

ミドルレイヤー以上のエンジニアには「このままテッキー(ハイテク技術者志向)に振り切っても、どうせ次世代に負けていくで」みたいな話はしていますね(笑)。

世の中には本当に技術がとんでもなく好きなエンジニアが山ほどいて、IT業界はいわゆる“ドッグイヤー”と言われるように、時代が移り変わるスピードも他の業界より7倍くらい速いイメージなんです。20代、30代のころに「この領域で俺イケてるぜ」なんて言っていても、40代、50代までキャッチアップし続けるのはなかなか難しいと思います。

各分野のIT技術の進歩は、人間の進化のスピードを超えているとも言えるので、技術的なキャッチアップだけではなく、ちゃんとビジネスを意識することで、エンジニアリングの価値が何倍にもなるし、息長く前線で活躍できますよ、という話をしています。

――仕事の価値の生み出し方が労働時間ではなく成果の質になるようなエンジニアは、どうやって確保すればよいのでしょうか。

再現性のカギは、やはり「ビジネス視点」なんです。当社のエンジニアは計数能力も高く、エンジニアとしては100人に1人くらいのスキルの高さがあるのではないかと思います。しかし、その延長線上で、さらに1000人に1人、1万人に1人のエンジニアを探すのは、かなりの困難が伴います。

それよりも「ビジネスが分かるエンジニア」という付加価値をつければ、その路線で100人に1人の人材になれるわけで、それに100人に1人の計数能力をかけ合わせると、レバレッジが効いて1万人に1人の人材になれる。当社では、計数能力の高い素養のある人材を見つけてきて、ビジネス視点を注入しています。

価値観の浸透に「ウルトラC」はない

大阪オフィス(中央区本町)

大阪オフィス(中央区本町)

――ビジネス観点の注入はどのように行っているのでしょうか。宮﨑さんのそばで働いていれば自然と注入されていく気はするんですが。

おっしゃる通り、僕がまだ現場に出ています。「この改善をすれば生産性が上がる」といった提案に対して、定量的にどのくらい上がるのか質問しますし、「機能追加をします」というときにも、それなぜやるの、誰がどのくらい幸せになるの、といった合理性を問うやりとりは積極的にしています。

そして、ヒアリングが甘かったらもう1回やり直し、と。そういう会話の繰り返しが必要で、難しいことを一発で成し遂げる「ウルトラC」みたいな方法はないですね。

会社では最近、コーポレートアイデンティティを見直しました。「お店を元気に、街を元気に!」をミッションに、「販売データの保有量で日本一」「キャッシュレス化の推進」「中小企業様におけるICT利用の促進」をビジョンに掲げています。

また、従来の行動指針をより具体化し「行けるとこまで行く!」「要件定義ではなく、要求定義」「家族に誇れる仕事を」といったバリューも新たに定義しました。こういう考え方や価値観に共有してくれた人を採用し、実地で経験を積んでもらい、マインドを注入し、そのイズムをもった人材をリーダーや役職者にすることが重要だと考えています。

スマレジの東京オフィス(渋谷区恵比寿)

スマレジの東京オフィス(渋谷区恵比寿)

――やはり価値観への共感は大前提になるのですね。

マネジメントだけでなく、採用においても同様だと感じています。例えば、SaaS業界はここ数年、ブームのように盛り上がっていましたが、一方で、同業他社の中には経営が行き詰まっているところも結構あります。その要因には年収を釣り上げる採用をしていた企業も多かったんじゃないかなと。お金だけを理由に来た人はお金で逃げていくので、目の前の採用と長期的な経営視点のバランスが難しいのは事実だと思います。

個人的には、ミッションに共感し、ビジョンや目標の実現に向けてコツコツやることが結局会社の成長につながると信じているので、価値観への共感を重視した採用を行うとともに、企業や事業の成長に貢献してくれた人にしっかりと還元できる企業でありたいなと考えています。

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考察記事執筆:NDX編集部

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