東京ガスグループのDX:デジタル技術で「ビジネスモデル」を変革 お客さま設備から電力調達する仕組み構築も | NEXT DX LEADER

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東京ガスグループのDX:デジタル技術で「ビジネスモデル」を変革 お客さま設備から電力調達する仕組み構築も

東京ガスグループ 中期経営計画 イントロダクションムービー より

東京ガス(正式社名は東京瓦斯)は、1885年に渋沢栄一によって設立された東京瓦斯会社を祖とする会社です。現在は首都圏を中心とする一都六県に都市ガス供給を行うとともに、北米や豪州、東南アジア、欧州で、資源開発事業や再生可能エネルギー事業、LNGインフラ事業などの海外事業を拡大しています。

2016年4月からは電力供給事業に参入する一方、2017年4月のガス小売全面自由化による競争激化にも見舞われています。2021年3月期からは、ガス・電力供給・関連事業の「エネルギー・ソリューション」、他社のガスを自社の導管で受け入れ送出するガス託送事業の「ネットワーク」、海外でのエネルギー開発・インフラ整備事業の「海外」、不動産賃貸の「都市ビジネス」にセグメントを再編しました。(NEXT DX LEADER編集部)

「2022年度(2023年3月期)決算説明会」(2023年4月26日)より

「2022年度(2023年3月期)決算説明会」(2023年4月26日)より

過去最高業績更新も「お客さま数」「再エネ」伸び悩み

東京ガスの売上高は、ガス小売全面自由化やコロナ禍などの影響を受け、ここ数期は2兆円を割り込んでいました。しかし2022年3月期には緊急事態宣言の解除などを受けて、2兆1,549億円に回復しました。

2023年3月期は、円安と資源高、米シェールガス事業会社の連結子会社化などにより、売上高3兆2896億円、営業利益4214億円、経常利益4088億円、純利益2809億円と、いずれも過去最高を更新しています。

この期の売上高構成比は、エネルギー・ソリューションが83.6%と大半を占め、ガス・電気の売上割合は7:3。次いで、ネットワークが10.2%、海外4.4%、都市ビジネス1.7%となっています。

前中期計画(2020-2022年度)は、KGIであるセグメント利益(営業利益+持分法損益)が1400億円を大きく超える4170億円を達成。ROE、ROAなどの財務指標や、天然ガス取扱量、海外セグメント利益、コスト改革などの目標もクリアしています。

一方で、「お客さまアカウント数」は、ガス・電気では順調に推移したもののサービス・ソリューションの件数が伸び悩み。「CO2削減貢献」「再エネ取扱量」も、お客さま先での機器・設備稼働減や、市況変化・競争激化などにより伸び悩んでいます。

「2022年度(2023年3月期)決算説明会」(2023年4月26日)より

「2022年度(2023年3月期)決算説明会」(2023年4月26日)より

2024年3月期の業績予想は、都市ガスの単価低下や販売量低下などにより、売上高は前期比11.9%の2兆8970億円、当期純利益は同64.4%減の1000億円に落ち込む見通しです。

新しい中期経営計画で「DX主要3施策」掲げる

東京ガスグループでは、経営ビジョン「Compass 2030」(2019年11月発表)達成に向けた取り組みのセカンドステージとして、「ビジネスモデルを変革する」新たな中期経営計画「Compass Transformation 23-25」(2023年2月発表)を策定しています。

「統合報告書2023」(2023年7月31日現在)より

「統合報告書2023」(2023年7月31日現在)より

そして、3つの主要戦略として「エネルギー安定供給と脱炭素化の両立」「ソリューションの本格展開」「変化に強いしなやかな企業体質の実現」をあげています。

「統合報告書2023」(2023年7月31日現在)より

「統合報告書2023」(2023年7月31日現在)より

いずれもデジタル技術の活用が必要な戦略ですが、特に主要戦略3の「変化に強いしなやかな企業体質の実現」において、以下の「DX主要3施策」を明記し、これを推進してビジネスモデル変革を果たすとしています。

  1. 需給調整と利益創出の両立に資するデジタル取引プラットフォーム構築
  2. 顧客管理システム基盤の一元化・共通化によるCX向上
  3. スタッフ業務標準化・集約、業務プロセス・パフォーマンスの可視化による生産性向上
「2023-2025年度 中期経営計画」(2023年2月22日)より

「2023-2025年度 中期経営計画」(2023年2月22日)より

2023年3月の組織変更では、再生エネルギーを含めた脱炭素ソリューションビジネス推進、CO2と水素から製造し都市ガスの原料となるe-methane(合成メタン)のバリューチェーン構築を主な機能とする「グリーントランスフォーメーションカンパニー」を新設しました。

あわせて、デジタルトランスフォーメーションの推進、スタッフ業務改革を主な機能とする「DX推進部」と、デジタル技術活用による新事業・サービスの創出を主な機能とする「事業開発部」を新設しています。

電力分野での「デジタル取引プラットフォーム」を構築

DXの1つ目の柱「デジタル取引プラットフォーム構築」は、主要戦略の1つ目「エネルギー安定供給と脱炭素化の両立」との関連が強く、中計期間中に「バリューチェーン全体でのリスク管理・アセット柔軟活用」と「LNG・電力トレーディングの高度化・拡大」に取り組むとしています。

「2023-2025年度 中期経営計画」(2023年2月22日)より

「2023-2025年度 中期経営計画」(2023年2月22日)より

電力分野での「デジタル取引プラットフォームの構築」で目指すのは「AO&Tの高度化」。AO&TとはAsset Optimization & Tradingの略で「設備最適稼働とトレーディングの一体運用」という意味です。

東京ガスグループでは、自社のアセットだけでなく、蓄電池やPV(太陽光発電)などのお客さま保有の設備や、他社のアセットを一元的に管理し、市場との取引も含む一連のエネルギー需給ポートフォリオを確立することで、各リソースの持つ調整力・環境性等のオプション価値を最適化・収益化し、リスク・機会に対応することを目指すとしています。

このような仕組みを構築することで、例えば電力市場価格の高騰時にバリューチェーン上のお客さま設備からも電力を調達することで安定的で競争力のあるエネルギー供給を実現でき、さらに余剰電力が発生した場合は電力市場でトレーディングして収益化を図ることができるとのことです。

事業の質的成長に向けて英エネルギーテックと提携

DXの2つ目の柱である「顧客管理システム基盤の一元化・共通化によるCX向上」は、主要戦略の2つ目「ソリューションの本格展開」との関連が強く、中計期間中に「エネルギー事業の質的成長」「エネルギーと環境型設備のソリューション化」「リアルの強みを土台に、個々のお客さまに合わせたデジタルマーケティングの実践」に取り組むとしています。

「2023-2025年度 中期経営計画」(2023年2月22日)より

「2023-2025年度 中期経営計画」(2023年2月22日)より

「エネルギー事業の質的成長」で目指すのは、環境性や使用形態などお客さまの多様なニーズに応じた料金メニューやサービス提供体制の構築です。

これを実現するため、2020年12月に英国のエネルギーテック企業であるオクトパスエナジー社と戦略提携を開始し、先進的なデジタル技術を活用してお客さまとのコミュニケーションの強化に取り組んでいます。

オクトパスエナジー社は、保有するデジタル技術(統合ITプラットフォーム)と効率的な顧客対応ノウハウを組み合わせた「新たな顧客体験の創出」を通じ、顧客毎に最適なメニューを安価に提供することを可能にするサービスを開発しています。

新サービスで前中計の積み残し課題を解決

オクトパスエナジー社の独自システムには、顧客情報管理、料金管理、請求書発行などのエネルギーサービスで必須となる機能が一元化されています。これにより、スピード感を持って多様な料金プラン・サービスの創出や、お客さまごとへの対応を行うコンシェルジュ的サービスが可能になります。

TGオクトパスエナジーのウェブサイトより

TGオクトパスエナジーのウェブサイトより

同社は2016年の事業開始から6年で、世界530万超の世帯に再生可能エネルギーを提供。2023年5月現在、英国やドイツ、米国など9か国で事業を展開し、東京ガスは合弁会社「TGオクトパスエナジー」を通じて日本で営業開始しています。

前中期経営計画では「お客さまアカウント数」「CO2削減貢献」「再エネ取扱量」の伸び悩みが問題となっていましたが、オクトパスエナジー社との提携を通じて達成に向けた取り組みが期待されます。

また、前述の「デジタル取引プラットフォーム」の構築にあたっても、これまで培った自社の知見とオクトパスエナジー社のテクノロジーを融合して実現するとのことです。


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YouTube:東京ガスグループ 中期経営計画 イントロダクションムービー

考察記事執筆:NDX編集部

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