「月収8万ガチ底辺動画あげてます」──。そう自称するYouTuber「ダンボールニキ」さん(チャンネル登録者数1万8300人)がにわかに注目を集めている。
ダンボールニキさんは地方都市在住の24歳男性。魚屋で1日7時間、週4日、魚を真空パックで梱包するアルバイトをしている。その傍ら、自らの”フリーター生活”についてYouTubeに投稿している。
動画では自身の働き方や、1か月の生活費や家賃などを紹介。9月から働き始めたバイトの給与明細も公開している。9月分の総支給額は7万8077円で、税金などを払うと手元に残るのは約6万円程度だ。「安い」といいながらも、
「ちゃんと働き続けた自信っていうのも付いたし、『頑張ったな』って自分を褒めてあげることが出来て自己肯定に繋がるんで、この金額でも僕はかなり嬉しいです」
と動画で語っている。「僕はちゃんとフリーターとして働いてるし、休まずちゃんと全部行ってるんですよ。えらいでしょ」「(今後も)週4で休まず、自分が辛くならない自分に優しいシフトで続けていこうと思います」と満足げだ。
コメント欄には「同い年でフリーターで手取り8万円で勝手に親近感沸きながら見させてもらってます」「給料が安くても休まず頑張れた自分に自信がつく 良い言葉や」など、無理せず働く姿や考え方に共感する声が寄せられている。
ダンボールニキさんは正社員からの無職期間を経て、2019年からフリーター兼YouTuberとして活動しているが、一体どんな人物なのか。キャリコネニュースは話を聞いた。
会社員時代は「静かにパニックを起こして手が止まってしまいました」
月収8万円と決して高いといえない収入だが、「それでも楽しい」「ストレスがない」と話すダンボールニキさん。大きな要因は”週4日勤務”のようだ。2連勤すると休日になるようにシフトを組み、「正社員の時と違って『明日行けば休める』って思えて精神的に優しい」と語る。
元々は専門学校卒業後、新卒でゲーム会社に背景グラフィッカーとして正社員として勤めていた。アルバイト期間を含め約1年間働いていたが、”自分はこの仕事に向いていない”と気づいた。
「実は小学生の時も、習い事の絵の教室で先生に背後を通られるだけで描けなくなって、立ち止まられるともう冷や汗ダラダラだったんです。社会人になっても絵を描いてる姿や、自分の前で絵を見られることが苦手で、静かにパニックを起こして手が止まってしまいました」
自身を、刺激に対して非常に敏感で繊細な”HSP気質”だと説明する。こうしたストレスもあってか働きだしてから過敏性腸症候群を患い、「トイレに頻繁にいくので、行き過ぎないようにと我慢して冷や汗かいて仕事していました」という状態だった。
一旦休職したが、「また誰かに絵を見られる環境に行かなきゃいけないのか」という恐怖心は残ったままだった。最終的にメールで退職の意を伝えた。
「社会人としては失格と思われるような行動ですが、当時は会社に連絡しようとするとお腹が痛くなって、動けなくなるぐらいしんどかったんです。メールを打つだけでも精一杯でした」
病院で適応障害と診断された。診断書を貰ったときは「ホッとしました。怠けているわけではないと認めてもらえたような気がしたので」という。
「適応障害と聞くと『労働環境が悪かったのかな』と思われそうですが、僕はそうではなかったです。残業時間は月10時間未満、上司も優しい人でした。自分のキャパシティを超えて働いた結果です」
もう一度正社員になろうとしたけど…「仕事をし続けるにはフリーターしかない」
退職後、それでも”モノづくり”の仕事がしたいと未経験でも正社員になれるエンジニアやプログラマーの面接を受けようとした。しかし、適応障害になってからは「朝起きて支度をして時間通りにどこかへ行く」ということが出来なくなっていた。
「”面接”までたどり着けないんです。家に出る時間に間に合っても財布を忘れる、財布を持っても履歴書を忘れる、履歴書を持ってもポートフォリオを忘れる……ちゃんと行けたのは1回だけ。そのために5回面接をダメにしました。申し訳ないです」
そんな状況で挑んだ面接だが、その最中に”頑張ってる自分”で勝負していることに気づいたという。「結局また途中で辞めてしまいそう」と感じ、憧れではなく”今の自分でもできる仕事”をしようと方向転換した。
「フリーターになると決めたら世間体とかは気にならなくなってました。だって『正社員続けられないんだもん!』『仕事をし続けるにはフリーターしかないんだもん!』って開き直ってました。心の中で(笑)」
YouTubeには2019年から投稿し始めた。
「彼女に”仕事するする詐欺”をしすぎてフラれてしまって、仕事もないし彼女もいないし死にてえなって思ったんですが、『やりたいことをしてから死のう』と思ったんです」
同年、「ニートからフリーターに転職」した。車の画像加工やピッキング、病院の調理補助、スーパーの精肉屋のバイトなど転々としたが、現在の仕事は続いている。月収の約8万円は「必要最低限のお金を稼げるくらいのシフトです。貯金はほぼ出来ていません」と語る。
「祝日でバイトがなくなると貯金を削ることになりますが、特に気にしてません。お金が無くなりそうになれば単発バイト入れれば済む話です。プライベートな時間は動画編集など好きなことができていますし、満足です」
「生きづらい人に『意外とどうにかなるよ、これで良いんだよ』って伝えたい」
正社員の時は「仕事のためにもっと絵の練習をしなきゃ!」と休みの日も気が気ではなかったが、「今は家に心配を持ち込む仕事をしていないので楽です」と語る。この働き方に「ノンストレスで過ごしてるみたいだし、全然底辺でも何でもない」といった声も寄せられている。
「かなり少ない金額で生活していること自体が”底辺な暮らし”と思っていたので、そう言われてハッとしました。この収入でもいかに楽しんでやりくりしてること自体、豊かなのか、そう見えてるのかって驚きました」
自身も、コロナ禍で将来を不安に思ったこともある。なぜ不安になるかを考えた時に「人生は弁当箱と一緒」と思い至ったという。人生が弁当箱だとすると、仕事や結婚・子育てなどのライフイベントはおかずだ。
「みんなできるだけ詰め込もうとしますけど、お弁当箱の大きさは全員違います。僕は子育てが出来る人と比べてサイズが小さかった。今までたくさんのおかずを入れていたけど、今は梅干しを1個だけいれることにしました。梅干し1つ取っても甘いのか酸っぱいかで印象も変わりますし、質素でも目の前にある一つの物事にこだわって楽しもうと思ったんです」
視聴者から「そんな生活でいいの?」「もっと働け」と言われることもある。しかし「目の前の見える景色だけを見て、必死にもがいて、自分だけの人生を一生懸命楽しんで生きていこうと思います」とコメントしている。
「動画を投稿して、僕みたいに生きづらさを感じている人は多いと分かりました。仕方なく辛い環境で働いている人、なんで生きているのか分からなくなってしまった頑張り屋さん、うまく順応できない繊細な人たちに『やりくり次第で少ないお金で好き勝手生きれるし、意外とどうにかなるよ、これで良いんだよ』って伝わるよう動画投稿は続けていきたいです」