「週末縄文人」の挑戦 都会の30代サラリーマンが竪穴住居を建てるまで | キャリコネニュース - Page 2
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「週末縄文人」の挑戦 都会の30代サラリーマンが竪穴住居を建てるまで

きっかけはコロナだった。2020年、当時20代後半だった縄さんと文さんは、コロナ余波で仕事が減り、時間を持て余していた。2人は同じ会社で働く同期で、一緒にキャンプするほど仲がいい。ある日2人で山に行った時、「時間もあるし何かやりたいね」と話し合った。

都会で暮らす縄さんには危機感があった。もし、ライフラインが遮断されたとしたら、はたして生きていけるだろうか。現代人の自分は、文明に頼らず生き延びる足腰の強さを失っているのではないか――。

そこで文さんに「石けんや発電機なんかの生活必需品を自分たちで作ってみない? 文明が崩壊した設定で」と提案した。すると文さんは言った。「だったら縄文時代からやろうよ。現代の道具は使わず、自然にあるものだけで文明を生み出そう」。

こうして結成された「週末縄文人」。会社が休みの日、文さんの家族が所有する山中の500坪の土地で活動することにした。

文明は火から始まる。2人はまず「きりもみ式」の火起こしに取り組んだ。手に挟んだ木の棒を回転させて火をつけるやり方だ。しかし、何度挑戦しても成功しない。気づけば季節が移り変わっていた。文さんは笑いながら語る。

「何度も失敗し続けると、火の起こし方を思い出せないのは不思議だと思えてくるんですよ。自分たちも昔は縄文人だったはずだ、だって10?20%はDNAを受け継いでいるんだから……って」(※福井新聞の記事を参照)

絶叫しながら火起こしに挑む文さん。しかし無情にも火はつかない(画像はYouTubeのキャプチャ)

やっと成功したのは、挑戦してから3か月後。普通ならば、心が折れてもおかしくない。しかし2人には、成功するまでの試行錯誤が楽しかった。縄さんは言う。

「火起こしに使う木の乾燥が足りなかったんだとか、火きり棒はまっすぐなほうがいいとかわかってくるんです。工夫を積み重ねて成功した瞬間は、めちゃめちゃ気持ちよかったです」

縄さんと文さんが一生、この活動を続けようと思ったのは、この時だった。「縄文人の目でこの世界を見てみたい」という新たな目標も生まれた。

こうして2人は2020年12月、最初の動画をYouTubeにアップする。その後も焚き火小屋、土器、石斧など、さまざまなものに挑戦し、動画を上げていった。

“縄文村”にふさわしい土地を探して

しかし、2人はここで難題にぶちあたる。縄文時代といえば、やはり「竪穴住居」だ。それを建てるとしたら、平らで広く、拓けた土地が必要になる。だが、それまで活動拠点としていた山は、森の中で岩も多く、竪穴住居の建設には適さなかった。

そこで2021年5月半ばに活動を休止し、仕事の合間を縫って新たな土地を探した。現在の活動拠点にたどり着いたのは2022年4 月。広さは以前の4倍にあたる約2000坪だ。2人は「縄文村ができそうな広さ」と語る。Twitterでも話題になったとおり、この借地で彼らは竪穴住居の建設に成功した。その過程で出くわした意外な苦労やリフォームの様子は、ぜひ動画で確認してほしい。

火を起こす時や木を切る時、川の石を拾う時など、何らかの配慮が必要な場合は、役所や関係者に都度相談している。サラリーマンならではのリスク管理だ(画像はYouTubeのキャプチャ)

試行錯誤で生まれた一体感

彼らの活動は、失敗の連続だ。土器作りにはこれまで2回挑戦しているが、煮炊きに使える大きな土器はできていない。鏃(やじり)などに使う黒曜石の加工技術もまだまだ。

「今のスキルは100点中20点くらい。縄文人はすごいです」と2人は語る。

これほどまでに作業が難航するのは、お手本にできる教科書がないからだ。大まかな手順は事前に調べられても、細かいコツは自分たちで探り当てるまでわからない。何しろ彼らには「現代の道具を使わず、自然のものだけで作る」というルールがある。土器作り一つとっても粘土は買わずに作る。もちろん、その過程でブルーシートやザルなどの既製品を使うのはNG。こうなると、難易度は格段に上がる。

しかし、この試行錯誤のプロセスこそが、彼らの動画の魅力になっている。縄さんと文さんが道具作りに失敗すると、視聴者がコメント欄で「次はこうやってみたら?」と助け船を出す。学芸員や陶芸家など、その道のプロも多い。2人はアドバイスを受け止め、次に活かしていく。まるでみんなで一つの番組を作っているかのようだ。

竪穴住居のリフォームで、壁をパンチして固める文さん。このような独自の工夫も試行錯誤の中から生まれてくる(画像はYouTubeのキャプチャ)

縄さんと文さんの友情も見どころの一つだ。竪穴住居の建設をめぐっては険悪なムードになったが、それ以外の場面では息が合っている2人。お互いに「ないものを補い合っている」と感じている。

縄さんによると、文さんは「作品のクオリティを高めようとする職人肌」。文さんによると、縄さんは「普段からリアクションが面白いだけでなく、現実を見据えて妥協点が探れるサラリーマンとして優秀なタイプ」だという。

大切なのは「2人で最高の週末を過ごすこと」

意外なことに活動以前は、そこまで縄文時代に興味がなかったという2人。そのイメージは、活動を通じて変化したのだろうか。2人に聞くと、「めちゃめちゃ変わりました」という答えが返ってきた。縄さんは、一人一人、一世代一世代の縄文人が失敗を重ねながら、現代の暮らしのベースを築き上げてくれたことに感謝している。

「縄文人の時代には、何を作るにしても、正解がありませんでした。でも試行錯誤しながら技術を磨き、テクノロジーのピラミッドの一番下を積み重ねていった。あの時代には、たくさんのスティーブ・ジョブズがいたんだと思います」

縄さんが大発明だと考えるのは「ヒモ」だ。「2本の繊維をそれぞれ時計回りに撚り、それを逆時計回りに巻くとお互いの反発で締まってヒモになる。最初に考えた人、マジ天才だと思います」(画像はYouTubeのキャプチャ)

アーティスト的な感性を持つ文さんは、土器の文様を左右対称ではなく、あえてアシンメトリーにする美的センスに、縄文人の豊かで深い精神世界を感じ取っている。

「彼らには遊び心があったんじゃないかと思っています。空いている時間に加工しやすい軽石で何か作ってみたり、余っている粘土をこねたり……そういう遊びを通して発明が生まれたかもしれないですよね」

さまざまな技術が開発され、争いも少なく、奥深い時代――2人はいま、縄文時代に深くハマっている。

竪穴住居建設のため、石斧で木を伐る様子。文さんいわく「梅雨時だったので木が水を含んでいて、斧を入れると顔に水がビチャビチャかかるんです。『あ、こいつ生きてるやん』って」。直径10cmに満たない木でも石斧で伐ると10分はかかり、生命力を感じるという(画像はYouTubeのキャプチャ)

現在は「週末縄文人」を名乗る縄さんと文さんだが、ゆくゆくは文明をさらに先に進め、江戸時代までたどりつきたいと考えている。現在2人が使っている唯一の現代の道具は、動画撮影用のカメラだ。江戸時代後半まで進むと、最初のカメラができ、銀塩写真が撮れる。最後にはおじいさんになった2人で記念撮影して終わりたいという。

しかし、2人の歩みは前途多難だ。何しろ縄文時代だけでも1万3000年続いている。さまざまな道具が生まれ、テクノロジーのベースが整った時代でもある。そこをたった2人、1世代でたどろうとしているのだから、苦労も並大抵ではない。視聴者からは「早く服を作ってよ」「次は稲作だね」と期待がかかるが、それに応えられないのが悩みだという。

縄「みなさんからすれば、僕らの歩みはすごく遅いと思うんですよ。ガチで自分たちの力だけで文明を進めようとしているから」

文「でも、僕らにとっていちばん大切なのは、2人で最高の週末を過ごすこと。ペースはゆっくりでも、楽しく活動が続けられる環境を作っていきます。仲間になったつもりで、ゆったり楽しんでください」

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週末縄文人Twitter:
https://twitter.com/wkend_jomonjin
週末縄文人YouTubeチャンネル:
https://www.youtube.com/channel/UCFuur8h3mhkAFmz5xM-LnJA

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