『光る君へ』骨太の大河ドラマだった まだ活躍しそうだった直秀が9話にして悲劇的な死 | キャリコネニュース - Page 2
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『光る君へ』骨太の大河ドラマだった まだ活躍しそうだった直秀が9話にして悲劇的な死

かくして道長の命で、散楽のメンバーが“遠くの国”に流罪となったわけである。が、罪人扱いである散楽連中合計7人の流刑先を選定するところまでは、道長は指定していなかった。
嫌な予感がするね~!

もう完全に今回のサブタイトルにある「遠くの国」って黄泉じゃないか、と物騒な考えがよぎってしまう。道長の雑な要求によって、散楽団7人の処遇を預かる役人たちは、余計な仕事を増やされてしまった形となる。

どうも平安時代は貴族と庶民とではかなり命の重みに違いもあったようなので、直秀たちのような賊の処遇を、それも7人分も行うというのは役人にすれば面倒な仕事を押し付けられたようなものだった。

……直秀らは繋がれたまま、1人の役人に先導されてただただ山道を往く。ほどなくして役人のすぐ後ろを歩いていた直秀は、行先を訪ねる。返ってきた言葉は「鳥辺野」であった。

鳥辺野とは、平安京時代の三大葬送地である。たとえば道長もその終焉の地として、ここで埋葬されており、とにかく生きている人間が向かう先としては考えられない場所だったようだ。自分が向かう先を告げられた直秀は、元々聡明な男であったこともあり、そのまま自分の命運を悟ることとなる。

また、この時散楽のメンバーの中で先頭を歩いていたのが直秀であったため、恐らくは彼が真っ先に、遠くへ……。

一方で道長は、まひろ(演:吉高由里子)と共に京を出る散楽団の見送りをするために早朝から合流していた。が、本来出立するはずの時間に散楽のメンバーが現れない。そこで役人に詰め寄り、行先が鳥辺野であると知られるわけだが、この時の道長の表情が素晴らしかった。

自分が貴族と言う立場であることを無意識に当たり前のものと感じ、安直に流罪を要求したことで、役人らの手間を増やしたこと。そしてこの手間を疎んだ役人によって、散楽団に命の危機が迫っていること。

これを一瞬にして悟ったことが、特段のセリフの付け足しも、ナレーションもなくちゃんと伝わる芝居をしていてゾッとした。

道長はここから自分の立場を強く認識することになるか

本作の登場人物というのは立場もそれぞれ異なるが、その多くが各々が出世欲であったり、自分の家格のためであったり、家族を養うためであったり、とにかく懸命に足掻いている。
たとえば道長の父である兼家(演:段田安則)は自分の一族の名声を高めることだけに全身全霊を注いでおり、そのためには帝すら欺こうとする。

その父を傍で見てきた道長はこれまで、必死で暗躍する父を半ば呆れたような目線を送るような男だった。そんな道長にも貴族としての裁量が与えられているものだから、散楽の一団を「鞭打ちではなく遠くの、海が見えるようなところに送らせようかな」と考えて検非違使に賄賂を渡した。

しかしその結果どうなるか、というところまではこの瞬間までちゃんと認識していなかった。これまでのドラマでは、その甘さ、打算のなさが道長の良さであるとして描かれていたんだけど、ここではそんな性質への、強烈なしっぺ返しが待っていたわけだ。

よりによってまひろを巡って妙なライバル関係を構築していたような、それでいて友達でもあるような、何とも良い距離感の直秀を、自分の浅はかな処遇のために窮地に追い込んでしまい、焦る道長。こんな脚本、どうやって生み出すんだろう……!

で、僕としては「直秀ってまだまだ活躍するだろう」と勝手に思い込んでいたし、途中退場だとしても「まだ9話だから、せめて1クール終わる12話までは続投するんじゃないかな」と油断していた。

再び画面に登場した散楽の一団。カラスがたかっていて、もう誰も動かない。直秀はその顔こそ綺麗だったので「まだ生きているんじゃないか」と期待したが、よりによってその死を確定付ける描写が、死後硬直して固まった掌を、道長が力づくで開かせるという凄腕な力技描写。そんな直秀の握っていたものは、ただの土だった。

貴族ではなく、何なら賊という存在でしかない散楽の面々が手にするのは、鳥のように自由に飛び立った先にある海の見える新天地ではなく、ただの土くれ。物凄い皮肉なんだけど、身分が違うことを完全に失念していた道長には、これは強烈な薬になったはず。

鳥になりたかった直秀たちを、道長とまひろは泣きながら素手で土を掘り返し、埋葬する。
その周りには、死肉を啄もうとする鳥が見張るという構図! 

朝から昼、そして夕方にかけて着物も泥だらけになって、汗だくで全員を埋葬した2人。道長はただただ、泥が詰まった爪の目立つぼろぼろの手を合わせ「すまなかった」と泣きながら詫びるしかなく、まひろも大切な存在を失った悲しみに耐えきれず、道長にすがって泣くしかなかったのである。

……おお、なんというシーンなんだろう。大きな合戦や、血みどろの内輪もめがなくても、これはもう完全に大河ドラマだ。

主人公の片割れである道長はこれまで、後の名声とは程遠い人物描写がなされていたが、さすがにこうして立場の違う友人を、自分のせいで虫けらのように殺される様子を目の当たりにしたわけで、人格形成に大きな影響を与えないはずがない。それは即ち、今後のドラマにもその変化がしっかりと反映されるに違いない、ということ。

また、まひろも散楽の仲間たちが全滅したことで心境の変化が生まれ、これまでは父から「お前が男であったなら」と投げかけられるばかりだったところを、これ以降ついに「私が男であったなら」と呟く。こんなことをまひろ本人に言わせるほどの出来事だったわけだ。
まひろもまひろでどんどんキャラに深みが出てくる。

人が長い時間をかけて成長し、志を抱いて大成する様子を見ることができる。これこそが本来の大河ドラマだ。そういう意味ではこの『光る君へ』は、舞台こそ平安時代とそこまで血の匂いはしないし、たまに少女コミックみたいな展開もあって困惑もするんだけど、間違いなく立派な、骨太の大河ドラマと言い切れる。

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