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フィジカルとデジタルの融合で「新しいヤマト運輸」へ。データ・ドリブン経営で物流業界をリードする

ヤマト運輸 執行役員の中林 紀彦さん

国内大手物流会社のヤマトホールディングス株式会社(以下、ヤマトHD)は、2020年1月に経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表した。その中で、基本戦略のひとつとして「データに基づいた経営への転換」を掲げ、新たなヤマトグループとなるべく邁進する。

昨今、さまざまな業界におけるECビジネスの急激な振興により、物流業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)はより一層加速している。こうした時代の変遷に対し、ヤマトグループが目指す姿とは。ヤマト運輸 執行役員の中林 紀彦さんに話を聞いた。(文:千葉郁美)

経営構造の抜本改革で「新しいヤマト運輸」へ

1919年に創業したヤマトHD傘下のヤマト運輸は、言わずと知れた国内最大手の宅配会社だ。年間に取り扱う宅急便の数はおよそ21億個。営業所は約3700拠点、さらに街の酒屋やコンビニエンスストアなどの「取扱店」は約18万4000軒ある。

「個人向けのクロネコメンバーズ会員は5000万人、法人向けのヤマトビジネスメンバーズ会員は130万社以上あります。5万7000台の車両、豊富な拠点と取扱店など、21億個の膨大な荷物を運ぶためのフィジカルな接点とリソースがあります」(中林さん)

国内の物流業界をリードするヤマト運輸だが、テクノロジーの活用には課題感を持ったという。

「ヤマト運輸が宅配ビジネスを開始して40年を超えますが、ビジネスモデルや物流ネットワークはほぼ変えずに使い続けてきて、システムが老朽化している状況でした。昨今のテクノロジーの進歩に対して、ヤマト運輸は大きくDXしていかねばならないという大きな課題感を持っています。そこで抜本的な構造改革を打ち立て、DX実現に向けて進み始めました」(中林さん)

ヤマト運輸は、次の100年に向けた中長期の経営のグランドデザイン「YAMATO NEXT100」において3つの事業構造改革と3つの基盤構造改革に向けた戦略を打ち立てた。事業構造改革においては、宅急便のデジタル化の加速やECエコシステムの構築、法人向け物流事業の強化など、主要事業により高度なデジタルの仕組みを取り入れていく。

顧客や社会のニーズに応えるデジタルの仕組み

「事業構造改革の戦略には昨今進んでいる産業のEC化に伴ったサービスの開発などがあります。例えば、EC向けの新たな配送商品”EAZY”。対面での受け取り以外に、玄関ドア前やガスメーター、車庫、自転車のかごなど受け取り方法を増やして、簡便で新しい「受け取り体験」を提供することを進めています」(中林さん)

また、他社との協業や提携で新たなサービスの創出も実現した。コンビニエンスストアやドラッグストアなど生活に近しい窓口で、ECで購入した商品の受け取りや返品が簡単にできるサービスなど、ECの利便性を高めるデジタルの仕組み作りにも尽力している。

「荷物の受け取りや返品をより簡便に、ライフスタイルや生活動線の中で体験できる。そういった新しいタッチポイントの展開を進めています」(中林さん)

事業構造改革を支える基盤のひとつ「データ・ドリブン経営への転換」

こうした事業構造改革は、3つ基盤構造改革によって支えられる。ヤマトHDはヤマト運輸とグループ7社を統合、経営体制を刷新し、新しいヤマト運輸へと生まれ変わった。
さらに「データ・ドリブン経営への転換」を打ち立てた。

「データ・ドリブン経営への転換」に向けて300人規模の新たなデジタル組織を立ち上げ、2021年3月期から4年間でデジタル分野に約1000億円を投資し、高い推進力で実行しています。新たな組織の立ち上げに合わせてデータ戦略を立ち上げ、実行しています」(中林さん)

豊富なフィジカルリソースをデータ化、可視化してデータ分析に活用する上で、特に注力するのはデジタルツイン(現実世界の経営環境をデジタル技術によって再現する仮想空間)によるシミュレーションや分析だ。

「デジタルツインによる取り組みの一つには、AIを使った需要と業務量予測があります。人や車といったリソースアロケーションを最適に配置する、新たなサービスの創出につなげていくという取り組みを進めています」(中林さん)

DXを推進する人材を創出する「Yamato Digital Academy」

こうしたテクノロジーによる改革を推進する上では「人」へのアプローチも重要だ。
経営層を含む全社員のデジタルリテラシーの底上げと人材の早期育成を図るべく、デジタル人材の早期育成を図るための教育プログラム「Yamato Digital Academy」(YDA)を2021年4月より本格的にスタートさせた。

YDAは、全社員向け、経営層向け、専門的なDX育成と、対象を分けたカリキュラムが用意されている。

「全社員向けカリキュラム」では、ヤマト運輸の各事業本部、各機能本部、コーポレート部門のリーダーが基礎的なDX研修を受講し、新たな価値創出を担う人材となるべく素養を磨く。

「DX育成カリキュラム」はDX人材の集団であるデジタル機能本部内に向けた専門性の高いものとなり、ITスキル向上はもとより他本部の手がける事業を理解するべく理念研修や全社オペレーション研修なども受講しながら、事業創出力の習得を図る。

「順次グループ各社への展開を図り、3年で1000人規模の受講を予定しています。経営陣を含めた階層ごとのデジタル教育プログラムによって、データ・ドリブン経営の実現により一層邁進していきたいですね」(中林さん)

先の100年に向けて歩み出したヤマトHD。今後生み出すであろう「新たな価値」に期待が高まる。

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