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「内製化はあえてしない」他に類を見ないトリドールのDX戦略

株式会社トリドールホールディングス 執行役員CIO兼CTO BT本部長の磯村 康典さん

あらゆる業界においてDXの気運が高まる一方で、飲食業界のDXを牽引している株式会社トリドールホールディングス(以下、トリドールHD)は、サブスクリプションやBPO(業務プロセスアウトソーシング)を活用する独自のDX路線で「世界を代表するグローバルフードカンパニー」を目指す。

多くの企業が「システムの内製化」「バックオフィス業務の効率化」といった社内におけるデジタル化やナレッジの形成を進めていく一方で、「逆行」とも取られかねないトリドールHDの戦略。どのような道筋を描いているのか、執行役員CIO兼CTO BT本部長の磯村 康典さんに伺った。(文:千葉郁美)

コロナ禍により外食産業は大打撃。「中食」への対応が鍵

――昨今では新型コロナウイルス蔓延による影響もありましたが、飲食業界のDXの実情はいかがでしょうか。

まず先に業界全体の話で言うと、新型コロナウイルスが蔓延したというのは非常に大きいと思います。

外食産業は全般的に非常にダメージを受けましたが、その中でも、業績が堅調な企業はいくつかあります。その企業の特徴は、中食ニーズへの対応がきちんとできている企業なんですよね。例えばハンバーガー業界などは対応が早かった。中食ニーズへの対応は、飲食業界、特に外食産業全般の課題です。

私達も一時は非常に厳しい状態になりましたが、すぐにテイクアウトやデリバリーなどの中食ニーズに対応することで業績を戻してきました。

特にコロナ禍においては「非接触」でのサービス提供ということを求められますので、デジタルデバイスによる対応ができるようにと取り組んできました。

コロナ禍以前からデジタル化に向けた取り組みは始まっていた

――コロナ禍によってデジタル化を推し進める格好になったのでしょうか。

デジタルの活用については、たまたまコロナ禍になったのでネット注文であるとか「非接触」に関わることがクローズアップして目立っているのですが、実は元々、トリドールHDが考えていたDXの中にそういった取り組みが含まれていました。

そもそもトリドールHDがDXに取り組むきっかけになったのは、「グローバルフードカンパニーを目指したい」という大きな目標を持ち、その中で既存のITプラットフォームを使い続けていいのか、業務のやり方を既存のまま継続していいのか、といったことが経営陣の中でも非常に問題視されていたことが一つ。さらに、現場でもITツールやIT部門に対する不満やフラストレーションが溜まっていた。そういった背景がありました。

そこで私がCIOとして着任し、現状把握のために現場へのヒアリングを実施、どのように変えていけばいいのか解決策を考えるのと同時に、「世界を代表する日本発のグローバルフードカンパニー」を実現するために「DX基本方針」をまとめ、DXの取り組みを詳細にまとめたのが「DXビジョン2022」です。

DX基本方針は、経営方針に繋がる非常に重要なポイントです。トリドールHDの強みは3つあり、それは「オープンキッチンがもたらす手づくり実演の熱気」「できたての美味しさの提供」「人の温もりを意識した接客」です。
これらを強みとしてお客様に感動体験を提供し続けていますので、安易にデジタル化するのではなく、必ず残していくべきものです。

一方で、それを支えるバックオフィス業務はテクノロジーを活用して最適化する。また、会社の成長に迅速に対応できる力を備え、事業の継続性を高めるためにも業務プロセスの最適化を徹底していく。この大きな2つを基本方針に掲げています。

これがあることで、社内では「何をDXの対象にして、何を今まで通りに残していくのか」の切り分けが最初にできるので、意見の食い違いが起こりにくい状態を構築できています。そして、この方針を元に「DXビジョン2022」を策定しています。

クラウドとサブスクリプションで業務システムを実現「内製化はあえてしない」

――「DXビジョン2022」では、バックオフィスの業務プロセス最適化に向けた3つの取り組みを掲げておられます。
バックオフィス業務のデジタル化は、あらゆる企業が取り組みを強化している分野ではありますが、その多くは「内製化を目指す」というスタイルです。
一方で御社の取り組みは「業務システムはクラウドとサブスクリプションの組み合わせで実現する」「オペレーション業務を社内で行わずに業務プロセスアウトソーシング(BPO)センターに集約する」という方向性を示されました。
「内製化をあえてしない」という方向に舵を切った、そこにはどのような背景があるのでしょうか。

大きい要素としては少子高齢化や人口減少という社会の大きな課題がありますが、トリドールのビジネスに関心を持ち、能力を発揮してくれる人間はどんな人だろうか、と考えました。
飲食業への興味関心の高い人、あとは上場企業における事業展開など、ビジネスへの興味関心の深い人、こういった人たちは集まってきてくれると思っています。

一方で、ITのエンジニアで優秀な人が入ってくるかというと、現実的にはなかなか難しいのではないかと思います。私自身が若い頃エンジニアだったので、ITのスキルを持つ人材はキャリアアップやスキルアップに繋がるようなIT企業に入る、あるいは挑戦できるようなITベンチャーに参画することを目指すだろうと思ったんです。

そういったことから、エンジニアを中に抱えるのはやめよう、むしろパートナーの優秀なエンジニアの力を活用して、我々のビジネスを支えてもらうというのが基本的な考えです。

――IT人材の確保は多くの企業が抱える課題となっていますね。

これはアウトソーシングにおいても実は一緒です。
例えば経理や人事などのバックオフィス業務を担う人の中でもスキルを高めようとしている優秀な人材や、社会保険労務士といった専門性の高い業務を持つ人たちというのは、やはり社労士事務所や会計士事務所のような専門の士業のところに集まりやすい、あるいはそれを大きく展開しているBPOの会社に集まりやすいものです。

こうした部分も自社で雇用して体制を作っていくことにパワーを使うより、BPOでやってもらう。そうすることで、我々は前述のように感動体験を提供する店舗運営に集中しようと。コア業務に集中できる体制を作る、というのが基本的な考え方です。

――「DXビジョン2022」で掲げている取り組みは現時点では、どのように進捗されているのでしょうか。

この取り組みは3つのフェーズに分けて取り組んでいます。2020年4月までには、社内ネットワークをオンプレミスからクラウドへの移行が完了し、SaaSやBPOが中心となるフェーズを目指して進んでいます。思い描いていたように進めることができていると思います。

既存ビジネスをさらに深化させ、グローバルフードカンパニーを目指す

――また、DXを推進する上ではコア業務を支える部分のデジタル化を含めた「DX推進プロジェクト」として3つの経営テーマと6つのプロジェクトを策定され、取り組みも進めておられるかと存じます。今後の取り組みにおいてはどのような課題解決に注力していくのでしょうか。

昨今、優先して注力してきたのは中食ニーズへの取り組みです。これを一丁目一番地でやってきましたね。コロナ禍による影響が優先順位を上げたと言っていいかと思います。

本来であれば「グローバルフードカンパニーを目指す」ということで、グローバルプラットフォームの構築は非常に重要なことです。また、お店を支えているのは人なので、その人材を支えていくプラットフォームの構築というのもやはり重要です。

サプライチェーンも同じでして、例えば丸亀製麺をグローバル展開したとしたら、食材の調達は集中的にやらなきゃいけない、世界に送り込まなければいけないですよね。

そういった意味でも「既存ビジネスモデルの深化」に向けたプロジェクトは、グローバルフードカンパニーを目指す意味では非常に重要な基盤になるところです。

そして、デジタル技術環境の整備は、どちらかといえば「やらなければならないこと」ですね。「既存ビジネスモデルの深化」を図るためのプラットフォームとしてSaaSと、バックオフィスのBPO・デジタル化は、プラットフォームとして作っておかないと変化に対応できないと考えています。「世界を代表する日本発のグローバルフードカンパニー」を目指して、基盤構築の取り組みは、完了に向けて着々と駒を進めています。

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