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「社内DXコンサルタント」が事業部の垣根を越える。ベネッセホールディングスの全社DX推進の舞台裏

執行役員 CDO 兼 グループDX戦略本部長の橋本 英知さん

幼児からシニアまでの幅広い顧客とそれに合わせたさまざまなビジネスモデルを展開する株式会社ベネッセホールディングス(以下、ベネッセHD)。企業理念である「よく生きる」を実現するべくデジタルテクノロジーの活用による提供価値向上に努め、その取り組みが評価されてDX銘柄2021に選出された。

広い事業領域にさまざまなサービスを展開するベネッセHDが、さらなるDXを推進に向けてどのような戦略で挑むのか。執行役員 CDO 兼 グループDX戦略本部長の橋本英知さんに話を伺った。(文:千葉郁美)

オンラインとオフラインの統合に課題

――幼児教育で多くの利用者数を誇る「こどもチャレンジ」や社会人のオンライン学習「Udemy」、高齢者向けの介護施設の運営など、人の成長や生きることに関わる事業を展開されている御社ですが、教育の業界には少子化が、介護の業界には人材の枯渇が大きな課題になっているかと思います。業界の課題はどのようなことがあるのでしょうか。

教育の領域では少子化による影響のほかにも、経済格差や地域差による教育格差の広がりなども問題視しています。また、学校の教科の枠に囚われない多様な学びの重要性の高まりと、それに対応していくことも課題と言えます。

介護の領域においては高齢化によって事業自体が伸びていく可能性はあるとしても、やはり支える人材の不足が大きな問題です。介護という仕事の厳しさをどうにか改善していかなければいけません。そもそも、人の健康寿命を延ばしていくことが大きな課題です。高齢化が進むにつれ、社会的に取り組むべき課題となってくるのではと考えています。

――昨今では、コロナ禍によってデジタル化を加速させる格好となりました。

我々は長年オフラインの事業をやってきたわけですが、このコロナ禍によって「どうやってオンラインの部分を統合して使いこなしていくか」が一つの大きな課題になりました。

また、そうした情勢の中でベンチャー企業などをはじめ新しいサービスやテクノロジーが出現し、データサイエンスやエンジニアリングを武器にしながら、急激に大きくなっていく会社も多くあります。

我々は、今でこそ大きな企業かもしれませんが、そうした躍進する企業や技術に着目しておかなければならない、そんな危機感を持っています。

――DXの必要性は産業や業界に関わらず高まっているかと思います。御社がDXを推進する上ではどのようなことが課題となっていくのでしょうか。

現実的には組織能力とのギャップが大きい部分があります。弊社は60年以上の長い歴史のある企業で、さまざまなシステムやサービスを開発してきました。過去に作ったシステムやサービスのアーキテクチャ自体が足枷になってしまっている、それらは当然改善をしていかなければならないんですね。「技術的負債」と云われるものに近い課題は抱えています。

また、やはり人材が非常に不足している。人材不足は社内でずっと言われているのですが、その実、どういう人材が何人不足しているのかといったことがあまり定義されないまま進んできたところがあります。人がいないといいながら頑張って採用はするんだけれども、どんな人がどれだけ足りていないのかという部分が明確にできていなかったというところです。

全てが一律である必要はない。事業ごとに適したDXを目指す

――DXを推進する上では、どのような戦略を敷かれているのでしょうか。

ベネッセは幼児、小中高生、大学生や社会人、そしてシニア層までのあらゆる顧客、そしてそれぞれのビジネスモデルという、多様な事業を展開しています。デジタル活用の進展度やディスラプション状況というのは事業によって異なるんですね。
例えば、進研ゼミという通信教育はかなり前からデジタル化が進んでいたのですが、同じ教育事業でも塾のDXはまだまだ進んでいません。どれだけのスピード感を持つべきか、というのも周りを見ながらやっていく必要がある。一律に何かをするということではなく、事業ごとの現状に合わせたやり方をしていかなければと思っています。

また、グループ全体としては組織の能力自体を高めていかなければいけません。事業ごとに異なるビジネスモデルを構築している一方で、「人を重んじ成長支援を行うことで社会に貢献する」という企業としての姿勢は共通に持ち合わせています。人の成長支援をしてライフステージに合わせた事業展開をしている我々は、成長を支援する前に自分達も成長していかなければいけません。

「事業フェイズに合わせたDX推進」「組織のDX能力向上」の両軸でやっていくことで、グループ全体が事業変革できるスピードを上げていこうと考えています。

――まずはグループ内の個々の事業に合わせたDXの推進について、詳しく教えていただけますか。

事業フェイズに合わせたDX推進は、「デジタルシフト」「インテグレーション」「ディスラプション」の3つのフェイズに分けて進行しています。

1つ目のデジタルシフトは段階的な業務プロセスのデジタル化で品質や生産性の向上を実現させていくというフェイズです。
これまで何十年と継続してきたビジネスモデルを新しくすればいいことがあるのか、というと、そうではないこともあるんですね。お客さまにより良いサービスを届けていくことが大切であって、必ずしも一足飛びにする必要がないということです。こうした事業は、今やっていること自体を一部段階的にデジタル化していくという方針で進めていきます。また、生産性の向上によってコストが下がる側面もありますので、これはある意味全ての事業において必要なフェイズだと考えています。

2つ目の「インテグレーション」は、オフラインとオンラインの統合によってお客さま本位のサービスを提供することを目的としています。
昨今の新しい生活様式への変遷などもあり、サービスのオンライン化を進める場合も少なくないと思いますが、「オンラインかオフラインのどちらか」のサービスではなく、お客様からみて利便性の高い状態にしなければいけないと考えています。例えば子どもが校外で学習するときに、自宅での家庭学習と塾のような場所に行って学習するのと、両方ができてその時々で選べる、そういった形は理想的だと思うんですね。
お客様の利便性を最上位に考えたときに、今までオフライン中心でやってきた事業にどうやってオンラインを組み合わせて統合していくかというステージでの活動もあるというところです。

3つ目の「ディスラプション」は、一般的にデジタルトランスフォーメーションと言われる部分、いわゆる既存のビジネスモデルや収益モデルを転換していくというフェイズです。
デジタライズが進み、ディスラプターと言われる新たなサービスが続々と進出してくることが想定され、小さなサービスがどんどんビジネスモデルを変革していく可能性は充分にあります。そういったところとどう対抗するのか、もしくはどうやって一緒にビジネスをするのかを考えていかなければいけません。
また、自分達が新規事業をやろうとした場合に、当然ながら旧来のビジネスモデルでは生産性が悪いので、テクノロジーを使った新たなビジネスモデルで入っていく。例えば、社会人向けの教育コンテンツは従来「教室に集まる」というスタイルが一般的でしたが、弊社ではアメリカの企業と連携して、オンラインの教育サービス「Udemy」の提供を始めました。
我々が旧来やっているビジネスにも今後新たなサービスによって変化が生まれるでしょう。市場の変化を逃さずに見ていこうというフェイズです。

――個々の事業フェイズに合わせた歩調で、着実にDXが進んでいくのではないかと感じます。具体的にはどのように取り組まれているのでしょうか。

事業フェイズに合わせたDX推進においては、「デジタルシフトプロジェクト」と「データ利活用」「ディスラプションのウォッチ」を重点実行施策として取り組んでいます。

まずデジタル人財をホールディングスに一部集結させて、各事業部の現場に派遣する「DXコンサルティング」を実施しています。これは、いわゆるコンサルタントのように、グループ内のさまざまな部門を横断して、難航している案件に入って解決へと導くというスタイルです。
データの利活用についても事業ごとの状況が大きく異なりますので、それぞれに合う形でデータサイエンティストやエンジニアを派遣して推進していこうとしています。

また、前述の通りディスラプションの動向を認識しておくことは重要です。しっかりと見ていきながら、どう連携していくのかを検討しています。

弊社も古い会社でどうしても内向きになりがちと言いますか、小さなベンチャーが何か魅力的なことをやっていると「あそこが出来るならうちでもできるだろう」と思ってしまいがちです。では現実的に全部できているかというと全然やれていなかったりする。我々もそういった部分で成長して、ベンチャー企業などとも積極的に組んでいこうと、考え方を変えないといけないと思っています。

人が能力を発揮できる基盤変革を。充実の研修プログラムで人財育成にも注力

――組織力の向上もDXを加速させる上では重要な取り組みになるかと思います。

組織力を高めるには、社外を含めた人の能力を発揮できることが重要になってくると考えています。また、人が働くためにはそれを支援するシステムやセキュリティ、インフラなども整備をしていく必要があります。

オンプレミス中心でやっていたことをクラウドへと移行する、SaaSのサービスや外部の連携をしやすくするなど、さまざまな基盤変革を進めて人の能力が発揮できる環境の構築を進めています。

――DXの担い手になる人財という観点ではいかがでしょうか。

DX人財の開発や育成も注力している部分です。
社内の研修プログラムには全社員が参加できるITの基礎的な研修があります。ITと関係のない仕事をしていたとしても、要望がわからないと仕事にならないですよね。共通言語を使えるようになってほしいという思いがあります。そのほか、DX職種別に初級、中上級など難易度を分けた研修プログラムもあります。上級者には社外の資格取得を支援する仕組みもあります。

2021年からは、全社員に国家試験の「ITパスポート」と同等レベルの自社で作成したテストを受検してもらっています。自分がどのくらいのスキルレベルにあり、何をもっと勉強しなければいけないのかをフィードバックから認知してもらい、向上意欲と挑戦を促していきたいですね。

※ベネッセのDXへの取り組みはこちらから詳しくご覧いただけます。

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