戦略のキーとなっているのは、小売・EC業界で注目を集めている「OMO」というマーケティング手法だ。OMOは「Online Merges with Offline」の略で、オンラインとオフラインを融合させて顧客体験の向上を図るという意味。同社は昨年発表した2023年までの中期経営計画でも「OMO戦略による顧客接点の拡大」を主軸に据えている。
「コロナ禍で世の中全体のデジタル化が進んだことを受け、店舗で買ってもいいし、オンラインで買ってもいい、という形を実現しようとしてきました」
同社EC事業部長の岡本博氏はこう語る。
この戦略がもっとも色濃く表れているのが、急ピッチで展開している「デジラボ」というシステムだ。現在、約700ある「洋服の青山」店舗のうち250以上の店舗で導入。昨年で100店舗以上の新規導入があった。
デジラボ店の特徴は、タッチパネル式の大型デジタルサイネージが設置されていること。訪れた顧客は、そのパネルを使って1000万点以上の幅広い商品から、自分に適したものを選べる。純粋なECとの違いは、店頭在庫でサイズや品質を確認したり、店員のアドバイスを参考にしたりしながら注文できることだ。
また通常、スーツは裾上げなどの直しのために再来店が必要となるが、デジラボだと商品は後日配送されるので、その手間もない。純粋なネット通販よりも「思っていたのと違った」という状況を減らせるのが利点となる。
アパレルの中でも特に「スーツ」は、この販売手法とのシナジーが強い。
「スーツはカジュアル服よりもフィッティングが問われます。デジラボなら店舗でスタッフの採寸を受けて、その上でECや他の店舗の在庫も選べる。オンラインとオフラインのいいところどりです」
特に効果を発揮するのが、都市部にある店舗だ。通常、スーツ量販店ではサイズ違い・色違いの商品を取り揃えておくため、売り場で150~200坪という、まとまったスペースが必要だった。しかし、デジラボなら、より小さなスペースでもユーザーにより適した商品を提案することが可能となる。実際、2016年にデジラボ導入第一号となった秋葉原電気街口店店 の売り場面積は50坪しかない。
「デジラボがあれば在庫をたくさん置けないような都心の一等地の小さな店舗でも多くの商品を案内することができる。これまでは郊外型の店舗が主流でしたが、ショッピングモールなどにテナントで出店することも可能になりました」
「店舗と同じサービスをオンライン上でいかに実現するか」
デジラボ導入店舗では、店頭在庫が減った分の空きスペースに「オーダースーツ」のコーナーを設置した店もある。
「オーダースーツは生地の見本があればいいので在庫がいりません。サステナブルの観点からも今後伸ばしていきたい分野です」
また、スーツ以外のビジネスカジュアルウェアやレディースもの、エリアの特性にあわせた商品など、多様な商品を充実させることが可能に。「一部地方の店舗では作業服を置いてあるところもあります」という。
上手く回っているように見える同社のOMO戦略だが、まだ課題はある。デジラボでEC購入の疑似体験を提供しているが、売上に占めるEC化率はまだ3%過ぎないのだという。
「ビジネスウェア事業は、今年上期の売上が471億円、そのうちECでの売上は14億円でした。カジュアルウェアを扱っている会社に比べるとECの売上が少ないので、まだまだ伸ばしていきたい」
やはり「スーツ」は、まだまだリアル店舗で購入する人が大多数のようだ。これからEC売上を伸ばすため、どんな改善をしようとしているのだろうか?
「ECサイトそのものについては、チャットサービスやサイジングなどでいかにユーザビリティを上げていけるか。店舗と同じサービスを、オンライン上でいかに実現するかです。ほかにも店舗での取り置きや、店舗在庫の表示も強化したいところ。ECサイトから店舗へ、という流れも作って、最短ルートでいかに届けるかを実現していきたいと思っています」
現場ではユーザー体験をよりよいものにするためのアイデアが、次々と生まれているようだ。ECサイトとリアル店舗の融合は、今後も加速していくことになりそうだ。