筆者の知る限り最高の「名古屋めしガイド」が爆誕してしまった。しかも作ったのは、名古屋大学のお医者さんたち。その上ネットで無料公開されているのだ。思わず名古屋めしを食いたくなる、その内容を紹介したい!(文・昼間たかし)
普段食べてないと知らない現地情報満載
話題のガイドは「The KODELIN Guideー愛知県飲食店のご案内」。一応の名目は今月18日から名古屋で開催される学会に参加する人たちに向けて、近所の飲食店を紹介する内容だ。
しかし、このガイドは、イベントで配られる会場周辺の飲食店紹介とは全く違う!
フルカラー71ページ。最大の売りは「名古屋大学消化器・腫瘍外科スタッフが全店舗、全て実食」して「愛知・名古屋のいい店うまい店」を紹介している点だ。掲載されているのは、名古屋で暮らす人たちが本当にうまいと思っている和洋中や肉料理、酒場やラーメンなど。「名大外科ソウルフード」や「医局医師推薦の店」「医局秘書推薦の店」といったジャンル分けもある。。
「名古屋めし」といわれる、名古屋の食文化は極めて独特だ。八丁味噌をベースにした独特のタレをつけて食べる味噌カツ。激辛の台湾ラーメン、太麺を用いたあんかけスパゲッティなどなど。そして、喫茶店ではゆで卵やトーストを基本に、朝から満腹になれるメニューが提供される「モーニング」がある。こうした独特の食文化を味わおうとすれば、基本的には現地に行かなければならない。
ただ、観光客が、地元民も太鼓判を押すうまい店に出会える可能性は極めて低い。ガイドブックの多くは、観光客向け情報ばかり。ネットの口コミサイトも宣伝・広告が多く、膨大な店の中から「真の当たり」をひくのは至難の業だ。
……そんな問題を解決してくれるのが、このガイドだ。
最初から、普段から食べている人たちの厳選した名店しか、掲載されていないのである。そこに忖度は一切なく、逆に批評はとてつもなく鋭い。
例えば、台湾ラーメンの掲載店を見てみよう。台湾ラーメンはもともと、味仙という店が発祥のもの。ガイドでは、その店の中から元祖である「味仙 今池本店」と「矢場味仙」の2店舗を紹介している。
名古屋市内には「味仙」を名乗る店が多数があるのだが、その中からなぜ、この2店舗を選んだのか? そこにはちゃんとした理由がある。
「味仙 今池本店」は、元祖の味が楽しめる店だ。それに対し「矢場味仙」はのれん分けされた、創業者の5人兄妹の中で長女の経営となっている。兄妹で、それぞれ異なる味わいがあるというのが名古屋では常識だ。
中でも「矢場味仙」はもっとも辛いことが特徴である。しかも、ノーマルよりもさらに辛い「イタリアン」という独自のメニューも存在している。……と、そんな情報を知っているのは、マニアでもなければ、名古屋人だけだろう。なお、ガイドには「是非ノーマルの辛さを味わっていただきたい」と記されている。
さらに、地元を知るからこその情報は続く。台湾ラーメンでは、この有名店だけでなく「厳しい手術や泥酔した飲み会の後、名大外科医の腹を満たしてくれた」店として「ゆきちゃんラーメン 千早本店」を紹介している。ここまでくると、真の地元民しか知らないうまい店である。
他のジャンルも、これと同じぐらいマニアックで、同じぐらい深い選定が行われている。「せっかく名古屋に来たなら、思う存分、おいしい名古屋めしを楽しんでもらいたい」という地元民の誇りとおもてなしの心がぎゅっと凝縮されたガイドなのだ。
それにしても感慨深いのは、このガイドが「第124回日本外科学会定期学術集会」のサイトに掲載されていることだ。おそらくは関係者以外は誰もみないであろうサイトに、本気のガイドがあるなんて誰が信じるだろうか。筆者もSNSで話題になっていなければ、絶対に発見できなかった存在である。
そんなガイドの冒頭では、今回の学会の責任者でもある名古屋大学大学院の小寺泰弘氏が「飲食は消化 器外科の文化である」として「やりすぎ」とも思われるガイドが出来上がった経緯を、格調高くユーモラスに語っている。
これだけの頁数だから、掲載許可から撮影、編集……と相当の労力がかかったに違いない。それを、普段の業務や学会準備で多忙なはずの名古屋大学消化器・腫瘍外科スタッフが中心となって作っている(もちろんプロのライターさんや編集者も協力しているようだが)。その遊び心が面白い。それに、こんなものをつくる心の余裕に、きっと名古屋大学医学部の附属病院は安心して入院できる病院に違いないと、謎の信頼感も湧いてくるのだ。
さて、ガイドの冒頭で挨拶文を綴った小寺氏は、こう記している。
「今夜行く店を決める」用途には不向きな内容も含まれているので、次回以降の名古屋出張でもご活用いただきたい。
次回とはいっても掲載されている店の数は膨大で、魅力的な店が多すぎる。いったい何度出張すればいいんだ……。