火事から7か月ほど経った頃、職場の喫煙所にいた時のことだ。出入りしていた業者の男性も喫煙所に入ってきた。その男性は父の家の近所に住んでおり、もともと顔見知りだったという。その男性は父に相談を持ちかけてきた。
「ちょっと相談したいことが……。こういうことは、あなたに話したらいいと聞いたので。先日の竹やぶの隣の家の火事、覚えていますか? 実は私、あの火事があった家の裏側に住んでるんです。うちは無事でしたが…」
あの夜以来、娘が「おばあさんが首を絞めに来るから怖い」と言って、自分の部屋で眠れないのだという。中学3年生になったのに、両親の部屋で寝るのだという。男性は「受験もあるので心配で……」と話す。
父は驚いた。自分の所に出てきた焼けただれたおばあさんが、別の所にも現れていたのだ。父は自分のところにも2回ほど同じおばあさんが出てきたことを伝え、男性宅に行き娘さんに会うことにした。
娘さんの部屋は、火事になった家と庭を挟んで隣接していた。話を聞いてみると、「恐ろしいものがベッドの側からやってきてお腹に乗り、首をしめてくる」と同じ体験をしていた。
同じものだと確信した父は、懇意にしている近所のお寺の住職に相談した。父と男性、娘さんと共に住職のお寺を訪れ、一連の出来事を打ち明けたところ、そのおばあさんは、住職のもとにも出てきていたことがわかった。
住職の元に出てきたのは火事から1か月後の半年前。父の時と同じタイミングだ。住職は首を絞められる寸前でお経を唱え、それ以来出てきていないという。共通していたのは、住職も、娘さんも、父も、火事の日に断末魔のような叫び声を聞いていたことだ。
父は数珠と九字で、住職はお経で自衛できたが、娘さんは何もできていない。そのためおばさんは現れ続けているのかもしれない。すぐに住職はお祓いをし、お札を作って娘さんの部屋に貼った。
それ以来、部屋におばあさんが出ることはなくなったという。
「よっぽど何か強い恨みを残していたとしか思えない」
火事のあと、近所ではさまざまな噂が立ったという。というのも、火事で生き残った夫が保険金を受け取り、すぐに若い女性と再婚したからだ。さらに司法解剖した妻の遺体をなかなか引き取りにこなかった。
そのため、あの家に住んでいた年配夫婦は仲が悪く、火事とみせかけて夫が妻を殺した、と噂されていた。妻は足が悪かった。夫は1階の部屋のストーブに灯油缶をかけて火をつけ、2階の窓から前の畑へ飛び降りて助かった。しかし足の悪い妻は飛び降りることも、階下へ降りることもできず亡くなった……。
当時は「保険金殺人だったのでは?」と騒がれたらしい。ただこの夫は火事から1年後、精神病院に入院して自殺した。
父は、「あの旦那に何が起こったのか想像するだけでもおぞましい」と話す。この話を執筆するにあたり改めて父に話を聞いたが、
「あんな出方をするのはなかなかない。しかも悲鳴が聞こえた人の所すべてに出ていた。よっぽど何か強い恨みを残していたとしか思えない」
と振り返る。
さらにそれから10年後。父も結婚して実家を出た。筆者も生まれ、実家から離れた街の小さなアパートの2階に住んでいた。
下の階に新婚夫婦が引っ越して来たのだが、その妻がおばあさんを見た娘さんだった。世の中にはこんな”繋がり”もあるのだ。本当に不思議なことがあるものだ。
※キャリコネニュースでは、“夏の怪談特集”として読者の皆様の心霊体験エピソードを募集しています。投稿はこちらから→https://questant.jp/q/R4NYUZ9W