現在、Webエンジニアとして、楽しく働いている田中さんだが、つい一年半前は仕事もなく、ニート状態で人生の岐路に立っていた。営業職に挑戦しようか、SIerに戻ろうか、いっそ特技の釣りを活かして漁師になろうか……。当時25歳。自らの可能性を模索するタイミングが訪れていたのだ。
大学卒業後に入ったインフラ専門のSIerを1年半で辞め、その後フリー・エンジニアになったものの、次第に「このままでいいのか」と感じるようになり、仕事を請けるのを辞めてしまっていた。
SIerに所属し、受託した案件をチームでこなす、という環境は気に入っていた。みんなで一致団結し、一つのものを作っていくのは何よりも楽しい。サーバやネットワークの物理機器を扱っていたこともとても面白かった。だが特にフリーになってからは、自分の仕事に疑問を感じ始めたという。
ポイントは2つあった。できるだけお客さんが近い距離で仕事がしたかったこと。そして、「自分自身で手を動かす」仕事も続けたいと思っていたことだ。
インフラの受託開発は、「下請け構造」が複雑になりがちだ。一部大手が1次請けとなり、実作業は2次~5次請けが行っていたりする。顧客に近いポジションにいると、案件によってはスケジュール管理が中心となり、自分では手を動かさなくなってしまう。逆にバリバリと手を動かすポジションでは顧客との距離が遠く、裁量も少ない。自分の望む働き方とSIer業界の構造がマッチしていないと感じていたのだ。
「そうだ、Webエンジニアになろう」
3か月ほどのニート期間に考え続けた。そしてたどり着いた結論を、田中さんはこう語る。
「小さなスタートアップで手を動かしながら課題解決していこう。そのために自分はWebエンジニアになる。そう決めました」
Webエンジニアを目指すなら、まずはWeb開発のフレームワーク「Ruby on Rails」に取り組もうと考えた。インフラエンジニア時代はプログラミングをする機会がなかったものの、新人研修でRailsを学んだことを思い出し、独学でチュートリアルを始めた。
しかし勉強をしていると、不安が募ってくる。技術を習得したとしても、未経験のWebエンジニアがスタートアップに就職できるのだろうか。モチベーションが続く自信もない。そこで、不安な点を解消してくれるプログラミングスクールに通おうと決めた。
受講生同士で励まし合える環境があるか。卒業生のポートフォリオのレベルは高いか。就職のサポートはしてくれるか。スタートアップ業界に行った卒業生はいるか――。これらの点を念頭に置きながら探したところ、「RUNTEQ」という小さなスクールが見つかった。【RUNTEQ「無料キャリア相談会」申し込みはこちらから】
インフラ時代の経験がプログラミング学習にも生きた
2020年10月、スクールに入学。実践的な内容で難易度の高いカリキュラムだと聞いていたが、そこまで詰まることなく進めることができた。
「もちろん、わからなくて困ることはありました。けれど悩んで調べてを繰り返すのは、エンジニアの仕事では当たり前。だからか、精神的に追い込まれることはなかったですね」
同校には受講生や卒業生、スタッフが集まるDiscordがあり、エンジニアになった先輩が遊びに来たりもする。夜中に行っても誰かしらいて、朝まで話しこむことも多く、“部室”のような雰囲気だ。技術的な相談をする人ももちろんいるが、田中さんはもっぱら転職活動用のポートフォリオで何を作るかという相談や、自作品へのフィードバックを得るために使った。
田中さんの希望する転職先は、エンジニア2~3人、社長1人程度の小規模なスタートアップ。お客さんとの距離が近い小さな会社がJカーブを描きながら成長する過程に立ち会いたかった。就職サポート担当者や校長を務める菊本さんに相談し、応募先の紹介も受けながら転職活動を進めた。
ポートフォリオ制作にも取り掛かった。スクールのスタッフをはじめとするみんなから何度もダメだしを受けながら、2カ月かけて企画を練り上げ、開発は3週間~1か月でやり遂げた。
この時に作った学習サイト「VIMATE」が転職活動で力を発揮した。エンジニアなら誰もが知っているエディタ「Vim」の使い方がゲーム仕立てて学べるサイトだ。面接では「面白いね!」と言ってくれる面接官も多く、好感触だったという。
転職活動期間は1か月と1週間。23社に応募し、選考に進んだ9社のうち4社から内定を得た。苦戦したのは、やはり「Webエンジニア未経験」という点だ。小さな会社が求めているのは即戦力。未経験の田中さんには分が悪く、応募しても返事さえ来ないこともあった。一方で小さな会社の多くにはインフラ部隊がないため、過去の経験がプラスに作用したこともあったという。
サービスを愛せると、モチベーションも自然とわく
最終的に選んだ会社は、グルメコミュニティを運営する株式会社SARAHだった。2021年4月の入社当時、社員数は10名程度。「小さい会社でユーザー寄り」という田中さんの希望にぴったりだった。
それから1年少し経ったいま、毎日が充実している。担当サービスは、グルメコミュニティに投稿されたレビューをもとに外食市場や顧客ニーズを分析する「FoodDataBank」だ。膨大なデータを加工し、チューニングして提供するデータ寄りの仕事で、挑戦しがいを感じている。新たな機能の開発時にはインフラ知識も必要で、これまでの経験も活かせている。
いちばん変わったのは、自分が手掛けたサービスを「自分たちのものだ」と感じ、愛せるようになったことだ。サービス改善のアイディアも自然と生まれ、新しい技術を学んで活かそうというモチベーションもわいてくる。いわゆる “仕事させられている感”がない。
仕事のスピード感も違う。CTOに技術的な提案をすると前向きに検討を進めることが多いし、カスタマサポートや営業を通じてお客さんからの反応もすぐに届く。階層が複数あるため、どうしても情報伝達や意思決定が遅くなりがちなSIerとの大きな違いだ。
田中さんは、RUNTEQで学んだことが、実務に就いたいまも生きているという。
「RUNTEQでは、校長の菊本さんから『スタートアップとは何か』『どのようにサービス開発をしていくべきか』をイチから教えていただきました。サービスをユーザーの目線で作る “ユーザー志向”の大切さは折にふれ思い出します」
ほんの1年半ほど前、エンジニアとしてのキャリアを続けるかどうかというレベルで悩んでいたことがウソのようだ。
「あの時に決断していなければ、いまどうなっていたか。毎日スケジュール管理だけをして自分では手を動かさないサラリーマンエンジニアになっていたかもしれません。技術が好きでエンジニアリングを極めたいけれど、現在の職場ではそれが難しいと感じている人は、一歩踏み出す勇気を持ってほしいです」
提供:株式会社 スタートアップテクノロジー