中外製薬のDX:デジタル活用で「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品 毎年上市」の実現目指す | NEXT DX LEADER

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中外製薬のDX:デジタル活用で「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品 毎年上市」の実現目指す

【予告編】中外製薬が本気で取り組む「中外流RPAの極意」 より

中外製薬は、1925年創業の医薬品輸入販売会社を源流とする大手医薬品メーカーです。2002年にスイス・ロシュ社との戦略的提携(形式的にはロシュグループ傘下入り)を行い、ロシュ導入品を国内で独占販売するほか、自社製商品をロシュのネットワークを通じてグローバルに販売し、薬価ベースで国内3位の規模を誇ります。

DXの取り組みは早く、2019年7月にデジタル戦略推進部とITソリューション部を新設し(現在はDXユニットに再編)、2020年3月に「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表しました。2022年6月には「DX銘柄2022」において「DXグランプリ2022」に選定されています。(NEXT DX LEADER編集部)

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

売上が右肩上がりに急成長、利益率も高水準

中外製薬の業績はここ数期、急速に伸びています。2016年12月期に4917億円だった売上収益(IFRS)は、2021年12月期には2倍超の9997億円となり、2022年12月期には前期比26.0%増の1兆2599億円へと一気に増えました。

営業利益率も右肩上がで、2016年12月の15.6%から、2022年12月期には42.2%にまで上昇。この水準は、塩野義製薬の32.9%を上回り、業界最大手である武田薬品の12.9%、アステラス製薬の12.0%、第一三共の7.0%などを大きく引き離しています。

中外製薬ウェブサイト「他社との比較でわかる中外製薬」より

中外製薬ウェブサイト「他社との比較でわかる中外製薬」より

中外製薬の売上収益の内訳は、ロイヤルティ等収入およびその他の営業収入によるものが11.0%で、製商品売上高が89.0%を占めています。

製商品売上高の構成比は、37.0%が「海外」、38.4%が「国内のスペシャリティ領域」、24.6%が「国内のオンコロジー(がん)領域」の売上高です。スペシャリティ領域とはがん以外の領域で、主に中外製薬が戦略的に注力するリウマチ、血友病、眼科、神経領域の製品を指します。

2022年12月期は、新型コロナウイルス感染症に対し世界初の製造販売承認を取得した抗体カクテル療法ロナプリープと、血友病治療薬のヘムライブラ(自社創製品の海外販売)、関節リウマチ治療薬のアクテムラ(同)がそれぞれ1000億円超の売上をあげ、大幅増収に貢献しています。

「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」で取り組みテーマ示す

中外製薬は2021年2月、今後10年間の目標を「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品 毎年上市(市場リリース)」の2本柱とした成長戦略「TOP I (トップアイ)2030」(2021年~2030年)を策定しました。

Key Drivers(主要な推進要因)として「RED(Research & Early Development)SHIFT」「Open Innovation」とともに「DX」を位置づけ、創薬、開発、製薬などにおける5つの改革を掲げていますが、中でも注目されるのが成長基盤の課題にあげられた「CHUGAI DIGITAL VISION 2030の実現」です。

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

2020年3月に公開された「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」では、「デジタル基盤の強化」「すべてのバリューチェーン効率化」「デジタルを活用した革新的な新薬創出(DxD3=DX for Drug Discovery and Development)」という3つの戦略を掲げています。

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

特に「革新的な新薬創出」については、以下のような具体的テーマが示されています。

「AIを活用した新薬創出」では、医薬品候補分子探索や薬物動態予測、病理画像解析による薬効・安全性の評価や自然言語処理を用いた論文検索の領域において、機械学習やディープラーニング等のAI技術を活用することで、創薬プロセスの一部を大胆に短縮するとともに、医薬品開発の成功確率を大幅に改善することが見込まれています。

「デジタルバイオマーカーへの取り組み」では、スマートフォンやウェアラブルデバイスから得られるデータを用いて、病気の有無や治療による変化を客観的に可視化することで、日常診療および医薬品の研究開発に活用することが期待されています。

「リアルワールドデータの利活用」では、日常の実臨床の中で得られる医療データ(RWD)を、試験計画の効率化・高度化に活用したり、希少疾患はじめ患者数が少ない疾患などRCT(ランダム化比較試験)の実施が難しいケースでの有効性・安全性の証明に役立てたりすることを目指しています。

研究所におけるロボットや実験自動化機器の活用も

「すべてのバリューチェーン効率化」では、デジタル技術を活用し、バリューチェーンに関わるすべての部署・機能、特に生産・営業プロセスの大幅な効率化を実現するとしています。また、顧客データの統合的な解析を通じ、顧客体験を高める新ソリューション開発にも着手します。

具体的施策としては「バリューチェーンの各プロセスでのAI活用の促進」「研究所におけるラボオートメーションの開発」「リアルタイムな安全性情報提供の高度化」「医療貢献に向けた新たなソリューションの開発」があげられています。

取り組みの例としては、研究所におけるロボットや実験自動化機器の活用に加え、薬剤分子デザイン~化合物管理~ハイスループットスクリーニングや薬効評価~データ解析といった一連の研究プロセスを統合するIT基盤を整備することで、創薬プロセスの大幅な効率化や革新的な新薬創出につなげるとのことです。

また、効率化の基盤として「定型業務の自動化(RPA等)」による大幅な生産性向上が掲げられています。CHUGAI RPA(Reconcider Productive Approach。生産的アプローチの再考)と名付けられたこの取り組みは、2018年にCFO直轄の全社プロジェクトとして始動し、一定の成果を上げてきました。しかし、RPAを活用する組織の積極性に濃淡があり、効果を実感できている従業員が限定的であることから、2021年からRPA推進活動を再スタート。2023年には10万時間以上の業務削減を目指しています。

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「デジタル基盤の強化」では、ロシュグループと連携しながら、社内の各種データの統合や解析基盤構築を通じて、ソフト・ハード両面においてグローバル水準のIT基盤の確立を目指すとしています。

具体的施策としては「Chugai Scientific Infrastructure(CSI)」「Digital Innovation Lab(DIL)の設立・運営」「デジタル人財戦略の強化」があげられています。CSIでは、Amazon Web Servicesを活用し、大容量のデータをセキュアにアクセス、移動、保管するためのIT 基盤を構築しました。

DILでは、社員の自由な発想やチャレンジを形にする仕組みを定常的に設けて新しい価値創出に貢献するしくみとして、アイデア創出から本番展開までのプロセスを包括的に支援するしくみを構築しています。2020年には144件の応募があり、25件が実証実験を行い、数件が本番展開以降を検討。2021年にはDILに207件の応募、25件が実証実験に至っているとのことです。

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

デジタル人財戦略の強化では、データサイエンティストやデータエンジニア、デジタルストラテジスト等の職種を定義し、採用・育成活動を推進します。また、採用強化の一環として、インターンのように、応募者がスキルの親和性やビジネスへの適性等を事前に確認できる取り組みにも力を入れ、外部人財と当社とのマッチングを推進しています。

このようなデジタル人財の育成強化と採用力強化を目指し、「Chugai Digital Academy(CDA)」を構築。体系的かつ最新のデジタル研修と全社デジタルプロジェクトへの戦略的配置、社外での実践的研修・人財交流などを行うとしています。

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

「中外製薬 DXメディアセミナー」(2021年6月25日)より

日本IBMと連携し工場のデジタル基盤を構築

このような取り組みが高く評価され、「DX2020」(経済産業省・東京証券取引所)では医薬品セクターで唯一選定され、「DX銘柄2022」においては特に優れた取り組みを行った企業として、日本瓦斯とともに「DXグランプリ2022」に選定されています。

直近のプレスリリースからも、中外製薬のDX推進が積極的に行われていることがうかがえます。2022年11月には中外製薬グループ浮間工場(東京・北区)で、デジタルプラントの実現に向けて、日本IBMとともに新しい生産オペレーションを支えるデジタル基盤を構築したことが発表されています。

このデジタル基盤は「計画系システム」「遠隔支援システム」「教育系システム」で構成されており、生産計画から作業計画の立案、資格保持者のアサイン、実績データの収集と進捗の可視化が行えるほか、スマホを活用した遠隔確認/支援や、GMP(医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準)の教育と資格認定の連携などが行えるようになっています。

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考察記事執筆:NDX編集部

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