JFEグループは川崎製鉄と日本鋼管が経営統合し、2003年4月にスタートしました。中核企業は、鉄鋼事業のJFEスチールと、商社事業のJFE商事、エンジニアリング事業のJFEエンジニアリングの3社。持分法適用会社に、造船会社のジャパンマリンユナイテッドがあります。
2023年3月期の売上収益は5兆2688億円。事業別売上収益構成比(調整前)は、鉄鋼事業が65.7%と大半を占め、次いで商社事業が25.6%、エンジニアリング事業は8.7%でした。同事業利益でも鉄鋼事業が65.2%と最大ですが、事業利益率では商社事業が4.3%と、鉄鋼事業の3.8%をやや上回っています。(NEXT DX LEADER編集部)
DX戦略の推進による「競争力の飛躍的向上」を目指す
JFEグループの売上収益は、ここ10期ほど3兆円台で推移してきましたが、2020年3月期の当期純損益が1977億円の赤字、2021年3月期も同219億円の赤字に陥りました。
これは主に、米中貿易摩擦による鉄鋼需要の低迷、中国の粗鋼生産拡大に伴う鉄鉱石価格の高止まり、コロナ禍による資材費・物流費などの物価上昇などによるものです。この結果、第6次中期経営計画(2017~2020年度)は、収益目標値に対し大幅未達に終わりました。
これを受けて、2021年5月に発表された7次中期経営計画では、2021~2024年度を「創立以来最大の変革期」ととらえ、長期の持続的成長のための強靭な経営基盤を確立し、新たなステージへ飛躍するための4年間と位置づけています。
そして「環境的・社会的持続性の確保」と「経済的持続性の確立」を2本柱とし、後者について4つの方針のひとつとして「DX戦略の推進による、競争力の飛躍的向上」を打ち出しています。
2022年3月期に入ると、景気の持ち直しによる鋼材需要の回復や、高騰を続ける主原料価格の変動を早期に販売価格へ反映させる取り組みなどもあり、売上収益が前期比35.3%増で4兆円台となり、当期純利益も2881億円と黒字回復しました。
2023年3月期は、原料価格高騰や為替影響に加え、棚卸資産評価差等の一過性の減益要因により事業利益が前期比43.4%減となったものの、販売価格改善の取り組みや円安による為替影響もあり、売上収益が5兆円台に乗る大幅増収を実現しています。
CPS化の範囲を「全製造プロセス」に広げる
第7次中期経営計画で「DX戦略の推進による、競争力の飛躍的向上」を打ち出したJFEグループは、DXで実現を目指すものとして「革新的な生産性向上」「既存ビジネスの変革」「新規ビジネスの創出」の3つをあげ、あわせてセキュリティ対策とガバナンス強化を推進するとしています。
2021年8月には、グループの「DX戦略説明会」を開催。DXを「創立以来最大の変革のためのカギとなる戦略」と位置づけています。そして、当初は「革新的な生産性向上(内部最適化)」を進めつつ、そこで培った知見をベースに「既存ビジネスの変革」や「新規ビジネスの創出」へ挑戦するとしています。
各事業会社のDX戦略としては、鉄鋼事業(JFEスチール)では「長年蓄積した豊富なデータを最大限に活用し競争優位を確立」するとして、「全製造プロセスCPS化や操業のリモート化・自動化等による生産効率化・労働生産性向上・歩留改善」などを進めるとしています。
CPSとはCyber-Physical Systemの略で、現実(フィジカル)の情報をコンピュータ上の仮想空間(サイバー)に取り込んでAIで解析し、その結果をフィードバックして現実世界での最適解を導き出す手法。すでにCPSによる高炉操業の自動化が行われています。
これは仮想空間上のプロセスモデルにより、8~12時間後の溶銑温度を高精度に予測し、最適なアクションを自動実行するシステム。これまで職人技だった高度な操業技術を継承し、安定操業が実現しました。このシステムの全社展開を進め、労働生産性の向上やCO2削減に向けた、より低還元材比での安定操業を実現するとのことです。
プラントの「デジタルツイン」を構築し安定操業を実現
エンジニアリング事業(JFEエンジニアリング)では、仮想空間でプラント構築&運用をシミュレーションし最適化する「デジタルツイン」による業務改革とともに、防災情報やデータ管理による予防保全といった売り切りに代わる新たな「デジタルサービスの提供」を目指すとしています。
デジタルツインとは、フィジカル空間(現実世界)の物質をサイバー空間(仮想世界)に再現するシステムのこと。前述したCPSに似ていますが、デジタルツインはシミュレーション自体を目的にしているところが異なります。
JFEエンジニアリングは、上下水道やパイプライン、エネルギープラントなどの公共インフラを手掛けており、廃棄食品等を原料として微生物によりメタンガスを発生させガスエンジンで発電する「メタン発酵プラント」もそのひとつです。
科学反応を数式化した理論モデルと、過去の操業データをモデル化したAIを融合させてデジタルツインを構築し、発酵槽内の各原料や微生物の濃度等の状態をシミュレーション。安定かつ効率的な操業を実現しているとのことです。
また、プラントから収集されたデータを手軽に分析できるプラットフォームとして2018年に社内リリースされた「Pla’cello」(プラチェロ)は、開発当初は社外に委託していましたが、現在は100%内製開発に切り替えており、社外向けにも販売しています。
商社事業(JFE商事)では「お客様への革新的な価値提供」として、鉄鋼サプライチェーン分野におけるDXや、ドローンを利用した非破壊検査など、デジタルを活用したソリューションビジネスの提供を行っていくとしています。
RPAロボの開発を2018年度より行っており、累計開発数は545ロボ、削減時間は約5万6000時間/年に到達しています。また、手書き文書をデータ化するAI-OCRの採用も順調で、109帳票に採用され、約1000時間/年の効果時間を創出しています(2022年9月末現在)。
グループ連携で「洋上風力分野」への参入も
事業会社単位を超える取り組みとして、「DX REPORT 2022」には2つの新しいプロジェクトが紹介されています。
ひとつめの「洋上風力分野」(グループ連携×シナジー)について、JFEグループでは、洋上風力発電におけるO&M(運転・維持管理)分野への参入を目指しています。現在は、北海道幌延風力発電所(陸上)で、JFEグループ各社の持つ振動、ひずみ、腐食などに関するデータ解析技術を活用する実証試験を行っています。
ふたつめの「プラント情報と動画の統合管理システム」(商社事業×ビジネス変革・創出)については、JFE商事エレクトロニクスが、製鉄所などのプラント情報や監視カメラの映像などを一括管理できる遠隔監視システム「SDxV(エス・ディー・エックス・ブイ)」を提供しています。
グループ全体かつ幅広い階層で推進している「DX推進人材」の確保・育成への取り組みについても紹介されています。主要三事業ともに、データサイエンティストなどの高度人材の育成と、一般社員の知識や意識の底上げ、現場での「ローコード開発体制の強化」などに取り組んでいるとのことです。