アビストのDX:自動車関連メーカーにAIやARを用いた「設計支援ソリューション」提供 デジタルでものづくりに貢献
株式会社アビスト2023年9月期投資家向け決算説明会 よりアビストは2006年、旧日本ビジネス開発よりエンジニアリング事業本部を事業譲受してJBSエンジニアリングとして設立、翌2007年に現在の社名に変更しました。2013年に東証JASDAQ上場、2014年に東証二部へ市場変更、2015年に東証一部に指定替えしています。
アビストの売上高はここ数期横ばいで推移する一方、エンジニア人件費の高騰や非主要事業の赤字などにより、営業利益が2018年9月期をピークに右肩下がりで減っています。2023年9月期の売上高は95億0877万円、営業利益は7億1796万円、営業利益率は7.6%となっています。(文責:NEXT DX LEADER編集部)
工業設計の業務請負や技術者派遣が主力事業
企業サイトによると、アビストは「設計開発に特化した技術者集団」として、100社を超える企業と取引。決算説明資料には取引額上位に、トヨタ自動車やスタンレー電気、日野自動車、小糸製作所など自動車関連の有名企業が並んでいます。
アビストの2023年9月期の売上高は「設計開発アウトソーシング事業」が98%とほぼすべてを占め、営業利益率は17.7%。業務内容は工業設計の請負や技術者派遣等で、売上の内訳は「請負業務(受託型/常駐型)」が56.8%、「派遣業務」が43.2%です。
残り2%を「3Dプリント事業」「美容・健康商品製造販売事業」「不動産賃貸事業」があげていますが、3Dプリント事業は2023年6月に廃止が決定しています。
売上高の3分の2を占めるコア技術領域の内訳は、6割超を占める第1領域として「自動車用ランプ、内装、ボデー設計開発」、約3割を占める第2領域として「電装部品、機能部品、HV・EV関連設計開発」、数%の第3領域として「シャシー部品、空調部品設計開発」があります。
アビストは2021年11月、2024年9月期まで3期間の「中期経営計画」を策定。期間中に売上高114億円、営業利益率11.8%を達成する目標を掲げました。主力事業の課題として、若手技術者の育成と、即戦力となる中途採用の積極化を打ち出しています。
しかし、変化する事業環境の変化に対処するため、2022年10月に社長交代。同年11月に全社戦略および開発投資を見直し、2027年9月期までに売上高125億円、営業利益率10.4%を目指す「計画変更」を発表しています。
変更後の中期経営計画(2022年10月~2027年9月)では、目指すべき企業像を「デジタルソリューション企業」とし、中計期間中に達成すべき中期ビジョンとして「設計を基軸にしたデジタルソリューションを提供」、中計以降に達成すべき長期ビジョンとして「デジタルでものづくりに貢献する企業」を掲げています。
中期経営計画の4つの基本戦略には「既存事業の更なる発展や付加価値の創造」に加え、「解析事業の拡大」「顧客向けDXソリューションの複数展開」「オフショア開発を含めたグローバル展開」を打ち出し、これら新領域を2023年9月期の12.5億円から2027年には2倍の25億円にまで倍増させるとしています。
3D-CADによる「ものづくりの高度化」に注力
アビストは2023年8月、「DXの取り組み」を発表し、この中でDX戦略の内容を明かしています。
受託・請負・派遣の「コア事業」においては、独自のデジタル技術による「設計効率化ツール」を用いたサービスを提供するとしており、中期経営計画では「顧客向けDXソリューション」の開発事例として、「設計ソリューション」と「AIソリューション」が紹介されています。
設計ソリューションの例としては、図面や資料の自動作成機能を備える「断面図自動作成ツール」と「データ自動集計ツール」、設計検討支援機能を備える「配光自動設計ツール」と「部品搭載軌跡確認ツール」、設計チェック支援機能を備える「図面差分検知ツール」と「仕様確認表自動作成ツール」が紹介されています。
AIソリューションの例としては、「設備稼働や品質の異常検知」「許可証自動転記ツール」「休退職予測ツール」「画像直線検知」の機能を備えるツールが紹介されています。
企業サイトによると、アビストは1998年から3D-CADによるものづくりの高度化、システム開発の推進に取り組んでおり、AR(拡張現実)技術による「空間把握・形状認識」や3D技術による「設計支援」、AI技術による「異常検知・予測」の領域で、データの高度利用を目指しています。
空間認識・ARソリューション業務支援では、ARデバイスを利用して、実物にホログラムを重ねて表示し形状や組み合わせを確認したり、必要情報やコンテンツをホログラムとして表示したり、離れた場所や複数人で同じホログラムを共有したりするソリューションを提供しています。
設計支援ソリューションでは、さまざまな設計データをOCRで読み込んでDB化や分類を行い、修正前後などの図面を形状認識により比較して差異を提示。CADや各種設計ツールによる業務の自動化や最適化を行うソリューションを提供しています。
「タレントマネジメントシステム」を活用した技術者提案も
2023年4月のプレスリリースによると、アビスト社員が経験した不具合対策や部品開発、開発時不具合等の経験ノウハウをデータベースに蓄積。3D-CADデータや図面をチェックし、リスクのある部位を検知して警告表示する「自動DR(品質テスト、デザインレビュー)システム」を、自然言語処理分野に注力するpluszero社と共同で開発しています。
この自動DRシステムを活用することで、将来的には3D-CAD設計の初期案を自動生成することが可能になり、設計全体の生産性向上が可能になるとのことです。
異常検知・予測ソリューションでは、設備稼働データによる予知保全や品質予測、測定データによる異常検知、車両走行データによる異常状態検出といったソリューションを提供しています。
コア事業におけるDX戦略では、「タレントマネジメントシステム」を活用した技術者提案を行うとしています。タレントマネジメントシステムとは一般的に、個人情報やスキル、経験値などの社員情報をデータ化し、一元管理して活用する仕組みを指します。
派遣・請負事業においては、スタッフのスキルや経験、キャリア目標などをシステム上で管理し、クライアントのニーズに合った人材を迅速に提案し、適切なマッチングを実現できるようになることが考えられます。労働・契約コンプライアンスを含む効率的な人材管理も実現可能となり、コア事業の付加価値を高め、リスクを低減させるDXとしてふさわしいと考えられます。
人材確保のためのDXとしては、社内研修、e-Learning、QAシステムによるノウハウ共有のほか、勤怠・業務データや自己診断アンケートをもとに開発した「休退職予測ツール」を活用した社員サポートを行うということです。
事務業務におけるDXとしては、2023年までに統合基幹業務システムの全面更改を実施するとしています。