パワハラ、セクハラ、モラハラなど、世の中にはさまざまなハラスメントがある。理不尽な行為に声をあげることは大切だが、ハラスメントに当たらないものも「ハラスメントだ!」と主張する”ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)”も問題視されている。
個別指導塾「ITTO個別指導学院」を運営するWITSは11月21日、「パワハラ体験会」をLA FORET秋葉原(東京都千代田区)で開催。参加者がハラスメントを体験し、どのようなラインを超えるとハラスメントにあたるかを社会保険労務士の鈴木道由氏が解説した。
鈴木氏は、パワハラは大きく「身体的な攻撃」「精神的な攻撃」「人間関係の切り離し」「過大な要求」「過小な要求」「個の侵害」の6つに分類できると説明する。イベントではロールプレイやミニゲームを通してこれらのパワハラを体験する。
参加者は「株式会社パワー証券」の新入社員で、新人研修を受けているという設定だ。室内にはノルマの達成・未達をグラフ化した「パワー証券11月成績」や、「どんな時もスマイル」と書かれた掛け軸が飾られている。なおパワー証券は「超体育会系・パワハラが横行・離職率100%」だという。
「髪を切れ!」発言がパワハラになるケース
「目標宣言パワハラ」では、”今日の目標”を大声で発表する。その際、声の大きさも計測され、参加者9人のうち音量が小さかった3人は”クビポイント”が与えられる。新入社員役が「○○でーす。がんばりまーす」と少し気の抜けた話し方をすると、社長は
「やり直し!」
「髪を切りなさい君は!ボサボサの頭して、いい年ぶっこいてそんな頭してるんじゃないよ!」
と大声を出す。ここ最近金髪にしている筆者は「髪を染めなさい!」と注意された。ほかの新入社員も「くさいんだよ!」「ババア!」「アゴはどうしたんだ!どこに置いてきたんだ!」など言われていた。鈴木氏はこれらの社長の発言はパワハラの「精神的な攻撃」に該当すると語った。
「大声で目標を言わせる、声のデシベルを測るのはハラスメントではないと思っています。『髪を切れ』『くさい』『ババア』『あごがない』のほか、個人を詮索するなど業務に全く関係のない侮辱発言をするのはパワハラになる可能性が高い発言です」
しかし、「業務に起因すること、社会的マナーに違反すること、例えば『笑顔がない』『ヘラヘラするな』などは罵倒するように聞こえても業務によってはパワハラに当たらないのではないかと思います」と見解を示した。
「髪の長さや色は業種によって変わります。ただファッション業界など、多くの人が染髪をしている中で特定人物だけに『髪を切れ』などというのはパワハラにあたりますね」(鈴木氏)
15分以上個室で説教するのは危険
ディスカッションタイムではこの発言がパワハラに当たるか否かを参加者で話し合った。お題の「30歳にもなってこんなこともできないのか?」は、年齢と業務は関係がないためパワハラにあたる。ただ、
「『お前何年目だよ』『この仕事何年やってんだよ』と今までやってきた仕事に対していうのはパワハラに当たらない可能性が出てきます。今までAという仕事をやっていたのに突然専門職Bをやらされるようになったのであれば別ですが」
と話す。
伝える方も重要だ。同僚の前で見せしめのように罵倒するとパワハラだが、「今後このようなミスを起こさないようにしよう」など社員間共有を兼ねる場合はその限りではない。また上司が部下を”詰める”職場もあるが、業務に起因することでも継続的に詰めているのであればパワハラに当たる可能性が高い。
「毎朝専務が特定の社員を呼んで『何でお前できないの?』『いつ辞めんの?』と30分くらい怒鳴りつけるのはパワハラです。端的に注意するのは指導上必要ですが、15分以上個室で追い詰めると違う話(業務外の話)も出てきてしまう」
この”継続”がポイントになってくるといい、
「”継続”の定義は個人によって判断が割れます。判断の基準として被災者が精神的な障害を負った場合、労災認定は下りるのか、慰謝料はいくら払うかとなった時に、発症が業務に起因しているか否かがすごく問われます」
と語った。会社がどうしても指導をしたい場合は説教ではなく、書面で伝えたほうが証拠も残って安全だという。
ハラスメントのラインは「これは業務に関係があることか否か」
イベントはロールプレイと社労士の解説が交互に行われた。ほかにも不可能なノルマを与える「過大要求」、社長の理不尽な怒りや上司からの飲み会の誘いを断る「パワハラかわし」などが行われた。
飲み会については、執拗に誘われることはパワハラではないとしている。一方、部署で1人だけ誘わないといったことは「人間関係の切り離し」にあたり、パワハラとなる。飲み会に行かなかったことで報復として仕事を過度に与えることなども当然パワハラになる。
参加して、ハラスメントのラインは「これは業務に関係があることか否か」が大きいと感じた。筆者が部下を持った時、ハラスメントをしないように気をつけたい。なお、もっとも”クビポイント”が多かった人にはパワハラを防ぐ防弾シールドのような盾が贈られた。