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1000円カットで理容師が経験したこと 腕が良いと逆に怒られる、とにかくスピード重視

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「お前は仕事が上手すぎる!!」

理容師として働く埼玉県の30代男性は、かつての勤務先でそんな理不尽な説教を受けたことがある。理由はまだ若かった男性が料金とサービスのバランスを理解していなかったからだという。(取材・文:広中 務)

「格安カットにはそんなものは必要なかったんです」

男性の実家は戦後間もないころから続く理容店。男性は、その店の三代目だ。将来店を継ぐべく、専門学校を卒業後は様々な店舗で勤務して技術を磨いていた。

「父親はまだ現役です。なので、若いうちに様々な形態の店を回ってノウハウを学ぼうと思ったんです」

最初は業界でも評価の高い店舗に勤務した男性だが、その次に選んだのは真逆の格安ヘアカット店だった。いわゆる“1000円カット”だ。

「決して技術は高くないはずなのに、大勢の人が利用しているのはどうしてなのか不思議に思っていました。だったら、自分も勤めてみればなにかが掴めるんじゃないかと思ったんです」

専門学校でも優秀で自分の腕に自信を持っていた男性だが、入店そうそうから打ちのめされることになる。

「とにかく仕事が遅いと注意されっぱなしでした。この仕事は一人一人の頭の形や髪質などを考えて、要望を聞きながら仕上げていくのが常識だと思ったんですが、格安カットにはそんなものは必要なかったんです」

求められるのはスピードだけ。だから、プロなのかと疑うほど腕が悪くても、仕事が早ければ評価される世界だった。

「時にお客さんが“頼んだのと違う”というトラブルもありますよね。腕が悪くても、そういうクレームをうまく言いくるめる話術があればよかったんです」

「みんながお前のようにカットできるわけじゃない」

とにかく、客は技術など求めていない。低料金で短時間に髪の毛が短くなっていれば満足するわけだ。人間の頭には凹凸があるから、バリカンで雑にカットすれば後頭部で不自然な濃淡が出たりもする。しかし、客のほうもそういうことはあまり気にしていないようだった。

男性は格安カットとは、そういう業種なのだと理解してスピードアップに努力した。

「でも、なまじ腕があるものだから自分が一番上手に仕上げてしまうんです。次第にお客さんに“今日の人は上手いな”とか褒められるようになったんですが、それが原因で何度も説教されました。上手くカットしすぎると、サービスの質が一定でなくなってしまうというんです」

まったく理不尽な話だが「みんながお前のようにカットできるわけじゃない」といわれると、納得するしかなかった。

「結局1年くらい勤務しましたが、周囲からは自己流にこだわって仕事の遅いヤツ扱いでしたね。結局、長く勤めていたら顔剃りとかほかの腕が落ちると思って退職しました」

その後も修業を積んで研鑽した男性はまもなく実家を継ぐ予定だ。

「以前は、格安カットが増えたことで、従来の理容店の先行きが不安と思っていましたが、今ではあれはまったく別の業態だと思っています」

最近は、定期的なカットは通常の理容室で行い、数週間して少し髪が伸びてきたら1000円カットで気になるところだけ切る、なんて使い分けをしている人もいるという。そもそもの役割や求められていることが違うのだ。話を聞いて、改めて従来型理容店の存在意義を感じた。

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