転職への壁となったのは、入社時にサインさせられた「退職は3ヶ月前に申し出る」という“謎ルール”への誓約書だった。最初は転職活動をためらっていた男性だが、調べてみると「民法上は2週間前に申し出れば良い」と知り、会社のルールに縛られる必要はないと転職活動を開始。無事に大手メーカーから内定をもらい、2か月後に退職することを伝えた。
すると、勤務先の係長たちからすぐに密室の会議室へ呼び出され、待っていたのは怒号の嵐だった。
「お前、うちのルールを知ってるだろうがっ!」
「国のルールより会社の規則の方が正しいんだ!」
「ふざけるな!もう一度転職先と時期を調整してこい!」
デスクを叩いて怒鳴り散らす上司たち。到底まともな話し合いができる空気ではなく、一旦は引き下がったものの、男性は冷静だった。
「法律を無視した理不尽なローカルルールに、なぜ自分が従わなければならないのか。ここで妥協して転職の話が流れてしまえば後悔するのは自分だ」
そう考え直し、翌日に「会社独自のルールに従うつもりはありません」と毅然と伝えた。
「どれだけ怒鳴られようが一切耳を貸さず、残っている有給休暇を使い切って2ヶ月後に辞めることを宣言し、退職届を提出した」
その会社は現在……「他社に吸収合併され、今はもう存在しない」
その日を境に、派遣元の先輩たちからは露骨に冷たい態度をとられ、挨拶すら無視される日々が始まったという。しかし、救いだったのは派遣先の職場環境だった。
「派遣先で毎日一緒に働いていた社員の人たちは、私の事情を知っても嫌な顔ひとつせず、とても優しく接してくれた。退職間際には『また一緒に働こうな!』と声をかけてくれたほどだった。さらに自分が指導していた部下たちも送別会を開いてくれた」
派遣元の先輩たちから最後まで冷遇されたものの、現場の仲間たちの温かい対応のおかげで、「自分のこれまでの仕事への取り組み方や接し方は間違っていなかった」と自信を持つことができたという。
その後、自身が辞めた後の社内の混乱ぶりを元同僚から伝え聞いた男性。さらに10年以上が経過した現在は……。
「あの理不尽な『3ヶ月ルール』を振りかざしていた会社は、時代の波に飲まれて他社に吸収合併され、今はもう存在しない」
当時の決断は間違っていなかったと振り返る男性。「周囲からの風当たりが強い中でも自分の信念を貫いた経験は、今でも私の中で大きな糧となっている」と誇らしげに結んでいた。
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