
画像はイメージ(AIで作成)
全国から社員が集まる研修の場で、副社長からいきなり名指しで褒められた。その理由は「始末書の出来が素晴らしかったから」――。
関東在住の斉藤さん(仮名、40代男性)は、かつて勤めていたアパレル関係の会社で、「10年間に99枚の始末書を書いた」というツワモノだ。これまでに、本社の指示を無視して在庫を売り切ったときや、台風の日に雨漏りを補修したときに始末書を命じられた話を紹介してきた。
編集部では斉藤さんに取材し、本人が「もっとも笑える思い出」と語るエピソードについて詳しく聞いた。
「その会社では、始末書は業務上の失敗だけでなく、上司の指示に従わなかったときや上司の気分次第でも書かされる『反省文』のようなものでした。しかも1枚につき1万円が半年分まとめて賞与から引かれるおまけつきです」
「ただ、半期の売り上げに応じた報奨金で取り返せたため、『始末書になっても報奨金で挽回できる』と割り切って営業していました」
そんな状況の中、全国から数百名の中堅社員が集まった研修会で、それは起きた。(文:篠原みつき)
「先般は非常に素晴らしい内容の始末書を提出してくれてありがとう」
その日は、丸一日研修を受けていた。カリキュラムの一つである副社長の講義で、メールや書類の書き方といったビジネスマナーがおろそかになっている、という話が始まった。すると、
「そういう意味では素晴らしい社員がいる。〇〇店、斉藤主任!」
突然名指しで呼ばれて「は、はい!」と答えて立ち上がると、副社長はにっこり微笑みながらこう言った。
「先般は非常に素晴らしい内容の始末書を提出してくれてありがとう。キミの始末書は実に見やすく丁寧にまとまっていて本当に素晴らしい始末書だった。あのくらいの内容を書ける社会人であってほしいものだ。なぁ、斉藤主任」
当時の斉藤さんはすでに数十枚の始末書を書かされており、直近で提出した始末書が副社長の目に留まっていたようだ。斉藤さんは「あ、ありがとうございます」と思わずお礼を言ったものの、副社長はさらに言葉を続ける。
「みんなも斉藤主任を見習って、しっかりした文書を書けるようになってほしい。なぁ、斉藤主任」
名前を繰り返された斉藤さんが、「は、はい。ただ、始末書なので、正直、あまりうれしくはないですが……」と答えると、副社長は
「ははは。そうだな!」
と笑った。
「始末書の書き方を教えてほしい」と全国の店舗から問い合わせ殺到
「思わぬ形で、公開処刑となりました」と語る斉藤さん。ところが、この一件にはさらに後日談があった。
「研修後、数日してからでした。始末書の書き方を教えてほしいと、全国津々浦々の店舗から問い合わせを受けるようになってしまい、時には接客中に電話が来て迷惑することも増えたのです」
そこで斉藤さんは始末書のテンプレートを作成し、相談を受けたらそれをメールで送るようにした。ところがしばらくして、こんな理由で始末書の提出を求められる。
「始末書をテンプレにするなんて誠意がこもっていない。しかも、それを各店にメールで教えるとは何たることか」
命じたのは、研修の場で始末書を称えた副社長だったという。
「同じ文面で誠意が感じられないから1枚追加」
なお、“誠意”を理由にした理不尽な指示は、これだけではなかったそう。あるときは「始末書を3枚書け」と言われ、全く同じ文面で3枚提出したところ、
「同じ文面で誠意が感じられないから1枚追加」
と命じられたこともあったそうだ。
次々と始末書を書かされながらも、今となっては「ネタとしては最高」と笑って振り返る斉藤さん。当時は理不尽なルールに憤ったものの、20年以上を経た今では忘れられない思い出になっているようだ。
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