建設機械のシェア国内No.1で、世界的にも米キャタピラー社に次ぐ2位のシェアを誇る小松製作所(コマツ)。2000年代初頭から「建設・鉱山 車両事業」へ選択と集中を図り、2024年3月期の連結業績は売上高・営業利益ともに過去最高を更新している。
業界水準を超える成長率(営業利益は前期比23.7%増)、業界トップレベルの営業利益率(15.7%)を実現する会社は、どのような人材採用に注力しているのか。その背景にはどのような経営戦略があるのか。コマツの開発本部の経験者採用について、人事部人事グループ主査の福手悠介さん、同グループの加藤希保さん、開発本部開発人事部TM(チームマネージャー)の関口文男さんに話を聞いた。
「世界中の現場をデジタル化」目指す
――現在どのような人材の経験者採用に注力していますか。
加藤 当社は建設・鉱山機械事業を中核としており、これまで機械・材料系学部出身の「ハード系人材」は新卒採用を中心に行っており、入社後に各種研修やOJTを経て当社製品のハード面を支えています。
一方で、近年はモノとしての商品だけでなく、コトとしての価値を顧客に提供するため、AIやDX、通信等の技術を活用した新しい取り組みが急務となり、ハード系人材とは異なる専門性やスキル、マインドを有する「ソフト系人材」、情報工学系学部の出身者やIT系企業の経験者採用を積極的に行っているところです。
――採用方針はどのような経営戦略から来ているのでしょうか。
福手 2022年4月に発表した中期経営計画「DANTOTSU Value – Together, to “The Next” for sustainable growth」(2022~2024年度)では、「コマツの目指す、ありたい姿」として「安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場をお客さまとともに実現する」を掲げています。
この実現のために「世界中の現場をデジタル化」を目指し、製品の高度化による「ダントツ商品」、稼働の高度化による「ダントツサービス」、現場の高度化による「ダントツソリューション」の3つを進めています。
例えば、製品の高度化「ダントツ商品」では、建設機械の「自動化」「自律化」「電動化」「遠隔操作化」を推進していますが、これを行うためには機械工学だけでなく、情報工学などのソフト系人材が必要になります。
また、現場の高度化「ダントツソリューション」では、無人ダンプ運行システムやスマートコンストラクションといった先進的なソリューションの開発をしていますし、稼働の高度化「ダントツサービス」では、お客さまの現場の見える化や建設機械の予知保全などに貢献するKomtrax用のアプリやソフトを開発しています。このような開発にはソフト系人材が必要です。
「ICTシステム開発センタ」でソフト開発を担当
――「自動化」「自律化」「電動化」「遠隔操作化」で、どのような価値が生まれるのでしょうか。
福手 建設・鉱山機械の無人化や遠隔操作化により、危険な現場で建設機械を利用するお客さまの安全性が高まりますし、生産性も向上します。深刻化する現場の人手不足やオペレーターの高齢化への対策にもなります。
また当社では、製品使用時などに排出されるCO2を2030年までに50%削減 (2010年比)することなどを経営目標として設定し、2021年には温暖化対策と事業成長の両立を目指すチャレンジ目標「2050年カーボンニュートラル宣言」を打ち出しました。
お客さまの現場を含めたカーボンニュートラルに向け、ディーゼルエンジンを電動などに置き換える「モノによる効率の改善」と前述のソリューションを活用した「コトによる効率の改善」に取り組んでいます。
――現在どの部門でどのような求人を出していますか。
関口 研究開発の機能は神奈川県平塚市内の開発本部に集約されており、騒音・熱流体・振動・制御等の研究開発を担う「技術イノベーションセンタ」や、建機のキーコンポーネント・パーツの研究開発を担う「材料技術センタ」などがあります。
現在最も求人に力を入れているのが「ICTシステム開発センタ」です。ここではエンジン・車体の電子制御やICT施工、そして建設・鉱山機械の「自動化」「自律化」「電動化」「遠隔操作化」を実現するための研究開発を行っています。
これは一例ですが、建設・鉱山機械における制御ソフト開発の部門で人材を募集しています。具体的には、情報通信ソフト開発、組み込みソフトやシステム全体の制御ソフト開発、画像認識に関する開発、建設・鉱山機械の車両制御に関する研究開発などの業務に携わってもらいます。
また、機械情報を遠隔で確認できる稼働管理システム「Komtrax」の開発も行ってもらいます。このシステムは、建設・鉱山機械の稼働状況の可視化や、作業時間や管理工数の削減、機械停止・保守点検時のアラートによるメンテナンス管理のサポートを可能にするものです。位置情報もわかり、機械の盗難防止にも寄与しています。
なお、経験者採用で求める具体的な人材像としては、実務経験3年以上のエンジニアを募集しており、必須経験は、C++/Windows/Linux/RTOSなどでのソフト開発経験、無線LAN、CAN/LINなどの情報通信ソフト開発経験、GNSS、IMUなどの制御ソフト開発経験、画像認識に関する開発経験のいずれかです。前職は機械メーカー出身者以外でも構いません。
ハードとソフト双方に興味関心を持つ人材を募集
――他にはどんな求人の例がありますか。
関口 建機向け電子コンポーネントの回路設計では、車載コントローラやモニタ、通信機器等の回路設計を行います。ICTシステム開発センタでは、当社の電子コンポーネントの9割を設計開発しており、非常に重要でやりがいのある仕事だと思います。
デジタル、アナログを問わず、回路設計の経験のある方を募集しています。なお、センタ内には先行研究から改良設計を含めて幅広い業務がありますので、ご経験に応じて業務をお任せすることになります。
――経験者採用を進めるということは、開発の内製化を強化する意味も込められているのでしょうか。
関口 特にそのような意図ではありません。当社ではこれまでも、技術のコアとなる部分の開発は原則として社内で行ってきました。
一方、アウトソーシング等の外部リソースの活用を否定しているわけではなく、多くの国内外の企業と共に開発をする体制を採っています。今後も海外を含めた多くのパートナー企業とともに開発を進めていく予定です。
――日本の伝統的なメーカーで経験者採用を行う場合、近年では高騰するデジタル人材の報酬と既存社員の給与テーブルとの間にギャップが生じる場合があるようです。
福手 報酬水準については、必要な人材の確保や採用競争力の観点等も含め総合的に判断し、適切な水準設定に努めています。 また、当社は日本発のグローバル企業として、グローバルな視点でハードとソフト双方に興味、関心を持っている人材を採用したいと考えています。
このような当社のものづくりに対する考え方をPRし、その考え方に共感していただいた方にアプローチすることで、入社後のミスマッチを減らしたいと考えています。
2023年5月に「新開発棟」が完成したばかり
――開発本部では働きやすい環境づくりの取り組みを行っていますか。
福手 新開発棟「Shonan Innovation Lab」は2023年3月に竣工したばかりで、最新の設備を備えています。オフィスエリアとテストエリアを同一フロアに設置し、テストを実施しやすい環境を整えました。
パートナー企業が常駐できるスペースも確保し、セキュリティに配慮しながら密なコミュニケーションを促進できます。他にも女性支援室や礼拝室の設置などのダイバーシティへの取り組みや、設備・スペースの充実化、執務室のフリーアドレス化など、柔軟なワークスタイルに応える環境を整備して、多様で優秀な人材の確保を促進しています。
また、CO2排出量削減にも配慮しており、最新の空調方式の採用と気密・断熱性の向上による省エネに加え、太陽光発電を活用した創エネにも取り組んでいます。新開発棟以外にも社内食堂も2022年にリニューアルし、デッキテラスや売店を完備しました。また、日替わりメニューの提供やパンの販売も行っています。このように会社として常に働きやすい環境づくりに取り組んでいます。