パナソニックグループのDX:プロCIOが「PX」の推進主導 IT中核会社社長も兼任しカルチャー変革に挑む | NEXT DX LEADER

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パナソニックグループのDX:プロCIOが「PX」の推進主導 IT中核会社社長も兼任しカルチャー変革に挑む

パナソニックのDXを推進する力 - 情報システム部門 【新たな部門使命】 より

パナソニックは1918年、松下幸之助が大阪市に設立創業した松下電器器具製作所が前身です。1935年に松下電器産業に改組。戦後の高度成長期には、家電や通信機器、電子部品、住設機器や産業機器などに事業領域を広げ、業績を伸ばしました。

2008年には、パナソニックに商号変更。ドメイン制、事業部制を経て、2022年4月からは持株会社パナソニック ホールディングスと9つの事業会社からなる経営体制に変更しています。(NEXT DX LEADER編集部)

「事業ポートフォリオ見直し」の方向づけを2023年度中に実施

パナソニックの報告セグメントは、生活家電等の「くらし事業」、車載システム等の「オートモーティブ」、パソコン等の「コネクト」、産業用電子部品等の「インダストリー」、リチウムイオン電池等の「エナジー」の5つ。このほか、テレビやデジタルカメラ、住宅水回り製品等の「その他」があります。

2023年3月期の連結売上高は8兆3,789億円。セグメント別売上高(その他、消却・調整を除く)の構成比は「くらし事業」が44%、同営業利益でも同事業が43%で最大。営業利益率は最も高い「インダストリー」が約6%で、他の事業は3%台かそれ未満でした。

「2022年度決算概要/2023年度業績見通し」(2023年5月10日)より

「2022年度決算概要/2023年度業績見通し」(2023年5月10日)より

パナソニック ホールディングスは2022年4月に「グループ新中長期戦略」を発表しました。グループが目指す姿に「物と心が共に豊かな理想の社会」を掲げ、実現のため「地球環境問題の解決」「一人ひとりの生涯の健康・安全・快適」に向き合うとしています。

そして、2050年には現時点の全世界CO2総排出量の約1%にあたる3億トン以上の削減インパクトを目指す「Panasonic GREEN IMPACT」を掲げています。

「グループ戦略について」(2023年5月18日)より

「グループ戦略について」(2023年5月18日)より

2030年度までに「地球環境問題の解決」に資する事業を拡大し、「お客様一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」に資する事業との2本柱を確立することを目指し、2023年度中に「グループ共通戦略との適合性」「事業の立地・競争力」の2つの判断軸・基準で事業ポートフォリオの見直しの方向づけを行い、順次実行するとしています。

「グループ戦略について」(2023年5月18日)より

「グループ戦略について」(2023年5月18日)より

「グループ共通戦略との適合性」の視点は2つ。1つは「環境」で、「社会へのCO2削減貢献」「資源の使用削減への貢献」ができる分野。もう1つは「くらし」で、財務規律の順守とともに「多様なお客様接点とデジタル・AI活用で一人ひとりに合った価値提供」ができる分野を強化するとしています。

パナソニックのDX=「PX」の緻密な戦略を策定

グループ新中長期戦略に先立ち、パナソニック ホールディングスは2022年2月に「事業の競争力強化に向けて パナソニックグループのDX」を公開しています。パナソニックグループのDXを「PX=Panasonic Transformation」と呼ぶ緻密な戦略策定や推進を先導しているのは、2021年にパナソニック執行役員CIOに就任した玉置肇氏です。

現在はパナソニック ホールディングス執行役員 グループCIOパナソニック インフォメーションシステムズ 代表取締役社長を兼任する玉置氏は、ファーストリテイリングやアクサ生命保険でDXをリードしてきた経験を有し、日本を代表する「プロフェッショナルCIO」と知られています。

パナソニックグループのDXは、「お客様サービスのDX」「事業オペレーションのDX」の2本柱でデジタル技術活用の取り組みを行うとしています。

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

お客様サービスのDXとしては、“デジタル技術を活用して「くらし」と「しごと」にお役立ちをご提供”するために、以下の取り組みを4つの事業で行っていくとしています。

  • くらし事業:一人ひとりに“ちょうどいい”家電・サービス
  • 現場プロセス事業:Blue Yonderと目指すオートノマスサプライチェーンの実現
  • 車載事業:グループの技術・ノウハウを活かし“クルマ”と“移動体験”の価値向上に貢献
  • モビリティ事業:移動に関わる環境負荷を低減して社会課題の解決に貢献

例えば「“ちょうどいい”家電・サービス」では、パナソニックのセンシング技術やIoTを活用。家電をアプリで連携して自分仕様にアップデートできる「マイスペック」調理家電や、家電の動作状況などを「音声プッシュ通知」するサービス、スマホのGPSで帰宅を検出し自動運転するエアコンなどがあげられています。

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「オートノマスサプライチェーン」とは、サプライチェーンの混乱を、AIエンジンを活用して自律的に予測、解決させる仕組みのこと。パナソニックは2021年9月に世界トップクラスのサプライチェーン・ソフトウェア専門企業「Blue Yonder」を買収し、自社のセンシング技術などと組み合わせ、企業間をまたぐサプライチェーン全体の最適化・高度化を実現するソリューションを構築します。

「IT」「オペレーティング・モデル」「カルチャー」の3階層を変革

事業オペレーションのDXでは、以下の2つの柱で「事業専鋭化」を後押しし、業務オペレーションの効率化を実現するとしています。

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

ひとつめは、「Customer Experience(顧客体験)/Operational Excellence(業務の質・効率の向上)」の追求です。

SCM(サプライチェーンマネジメント)のプロセスである「設計・調達」「製造」「マーケ・販売・物流」と、SCMを支える「経営」「経理・人事・総務」において、DXによって解決すべき課題が整理されています。

例えば、設計プロセスでは開発コスト低減・LT(リードタイム)短縮を目指した「設計DXによるモノづくり品質向上と圧倒的LT短縮」(設計)、物流プロセスではお客様の付加価値向上を目指した「“共同配送”“共同物流”による最適化」といった課題があげられています。

ふたつめは、Employee Experience(従業員体験)の追求で、「アジャイルに」「スピーディに」「コスト対効果高く」という方向性が示されています。

あわせて、事業オペレーションのDXを推進する「変革のフレームワーク」として、ピラミッド型の3階層のフレームワークを示しています。

  • ITの変革:インフラストラクチャーと業務情報システムの刷新/プロセスとサービスのデジタル化など
  • オペレーティング・モデルの変革:組織構造、デリバリーの仕組み/協力会社との関係/コストの最適化など
  • カルチャーの変革:DEI〔Diversity, Equity & Inclusion〕の推進/オープンでフラットな職場/サイロからの脱却/内向きの仕事の排除

ITの変革では「レガシーの脱却(モダナイゼーション)」「データドリブン基盤の構築」「クラウド活用(ベストハイブリッド)」「SCM最適化」の4つの変革を推進し、業務のオペレーション力を高めて事業競争力の強化を目指します。

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

オペレーティング・モデルの変革では、前出の「アジャイルに/スピーディに/コスト対効果高く」を目指し、経営レベルでは「デシジョンボードで変革を牽引」、現場レベルでは「組織・体制を変える」、プロセスレベルでは「ITサプライチェーンを変える」といった取り組みを行います。

具体的には、組織変革プログラムとして、グループ全体でコンセンサスを形成し、PX活動を牽引する最高意思決定機関「CIOフォーラム」の立ち上げや、PXをリードするIT中核会社(パナソニック インフォメーションシステムズ)の価値最大化に向けたカルチャー、働き方の変革などがあげられています。

また、主な変革プログラムとして「人材マネジメント刷新」「ITコスト構造、商流刷新」「グローバルベンダーガバナンス」「Agile変革」があげられており、各プログラムが既存課題への対応にとどまることなく、PX組織変革全体でありたい姿につながるよう目指すとしています。

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「パナソニックグループのDX」(2022年2月)より

「内向き仕事からの脱却」で無駄な仕事を徹底排除

3層目の「カルチャーの変革」については、オープンでフラットな環境を作り上げ、風通しがよい組織文化がITの隅々に浸透するように、リーダー自らが率先垂範の精神で変革を進めていくとしています。

具体的には、「One Panasonic IT(全員の力を結集)」「オープンでフラットなカルチャー(多様性を重んじる職場に)」「ゼロ・トレランス(誰もが尊厳を持ち、安心して働ける職場に)」「内向きの仕事のやり方からの脱却(無駄な仕事の徹底排除)」といった取り組みの方向性が示されています。

これらのPX活動は、グループCEOの楠見雄規氏がオーナーとなり、グループCIOの玉置氏が推進リーダーを務める「CIOフォーラム」で全体統括を行っています。そして、PXステアリングコミッティのメンバーであるグループ各社のCIOが各事業会社でPXを推進し、各社のIT責任者や業務責任者がコミュニケーションを取る「PX戦略整合会」の場も設けられています。


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考察記事執筆:NDX編集部

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