アサヒグループホールディングスは、日本人による本格的国産ビールを目指して1889年に創業された大阪麦酒会社が源流の会社です。1892年に「アサヒビール」を発売、戦後は二社分割により朝日麦酒(後にアサヒビールに社名変更)となります。
1987年の「アサヒスーパードライ」発売後、「鮮度」という品質基準を確立。1998年にはビール市場で、2001年にはビール・発泡酒市場でトップシェアを獲得しました。2009年にはオセアニア市場、2011年には東南アジア市場に本格参入。2016年から旧SABMiller社の欧州事業を取得し、グローバルに事業を展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)
事業利益の6割超を海外事業が生み出す
国内のビール事業を中核として成長してきたアサヒグループですが、ここ数年は海外事業が占める割合が大きくなっています。
2022年12月期の売上収益(調整額控除前)の地域別構成比は、日本が51.7%とかろうじて過半数を占めました。一方、同事業利益構成比(同)は、日本の37.0%に対し、オセアニアが36.4%と肉薄。欧州は25.9%、東南アジア・その他は0.7%となっています。
このような状況を踏まえ、2022年1月にアサヒグループホールディングスで担っていた日本国内の事業会社を統括する機能をアサヒグループジャパンとして分社化し、欧州や豪州、東南アジアの統括本部と並列化しています。
アサヒグループは、グループ理念「Asahi Group Philosophy(AGP)」を2019年から施行し、「高付加価値ブランドを核として成長する“グローカルな価値創造企業”を目指す」というビジョンを掲げています。なお、グローカルとは“地球規模の視野で考え、地域で行動すること”を指します。
あわせて、2019年に更新した「中期経営方針」を、2021年3月の経営体制変更(社長交代)後、あらためて2022年2月に長期戦略を含む「中長期経営方針」として更新しています。この中で、注目すべきメガトレンドのひとつとして「進化するテクノロジーとの共存」をあげ、自社の課題として「DXの加速によるビジネスモデルの構築」を掲げています。
DXを「Business Transformation」として位置づけし直す
旧中期経営方針下の「統合報告書2020」(2021年6月発行)では「工場における遠隔監視の検証を開始」「日本の営業拠点を集約し、オフィスのグループシェア化を推進」といった、DXによるオペレーション改善の具体的な事例が紹介されていました。
しかし、新たな中長期戦略方針において、DXは「BX(Business Transformation)」という意味であると、位置づけが見直されています。
デジタルを活用した業務の高度化・効率化の推進に向けて2019年に策定された「ADX(Asahi Digital Transformation)戦略」も、2020年にBXを軸とした「AVC(Asahi Value Creation)戦略」に再構築されました。DXの推進担当部署もITシステム部門から、事業企画部(Future Creation Headquarters)内のValue Creation室およびData&Innovation室に移管されています。
新たなDX戦略では「3つの領域(プロセス・組織・ビジネスモデル)におけるイノベーションを推進」する業務革新の要素が強調されていますが、この背景について「統合報告書2021」(2022年5月発行)には以下のように説明されています。
DXとは、デジタル技術を活用して効率化を進めるだけではなく、新たな価値創出を目指し、デジタル技術やデータを活用してビジネスを変革(トランスフォーメーション)していくことだと捉えています。時には、これまで築いてきたエコシステムや既存のビジネスモデルを壊すことも必要となります。これは経営改革そのものであり、経営がリードしなければ実現できないと考えています。
「ビジネス」「プロセス」「組織」でイノベーションを目指す
新しい「中長期経営方針」下でのDX戦略には抽象的な言葉が多く、具体的なイメージが難しい部分も多いですが、2023年3月28日開催の「第99回定時株主総会招集ご通知」には、3つの領域における取り組みが比較的分かりやすく整理されています。
1つめの「ビジネスイノベーション」では、目指す姿を「一人ひとりの“Well-being”とサステナビリティが両立される社会をつくる」とし、事業ポートフォリオの成長領域を支えることのできる新たなビジネスモデルを各地域で創出していくとしています。
取り組みの方向性は2つ。「パーソナライゼーション」では「新たな消費者データ、多様化・細分化する顧客ニーズの把握と新しい素材や製法による新ビジネスモデルの開発」を行い、「サステナビリティ」ではコミュニティ再構築支援や不適切飲酒の課題解決の取り組みを行うとしています。
2つめの「プロセスイノベーション」では、目指す姿を「“グローカル”の価値を最大化し、生産性と柔軟性を両立する仕組みをつくる」とし、グローカル基盤と柔軟性を持ったシステム基盤の構築により、生産性を飛躍的に向上させ、環境負荷の目標を達成していくとしています。
取り組みの方向性は2つ。「生産性を向上するグローカル基盤」として「グローバル調達プラットフォーム」「グローバルデータマネジメント」「環境負荷の予測と見える化」の構築を行います。また、「柔軟性を持ったシステム基盤」として、新たなビジネスモデルに対応するEA(Enterprise Architecture:企業全体のシステムを統一的な手法でモデル化し、業務とシステムの最適化を図る手法)を構築するとのころです。
3つめの「組織イノベーション」については、目指す姿を「事業イノベーションを実現する次世代型自律分散組織をつくる」とし、ビジネスイノベーションとプロセスイノベーションを実現するために人材を獲得・育成し、組織の機能を強化していくとしています。
取り組みの方向性は4つ。「デジタルネイティブ組織」への変革は、得られたデータを総合的に分析し、未来予測・意思決定・企画立案などに役立てるデータドリブンな判断・意思決定を行える組織とすること。「インキュベーション機能の強化」では、新たなビジネス創出の組織基盤を構築すること。
「アジャイル型働き方の組み込み」は、ソフト開発における素早い開発を重視する方法を取り入れた働き方を追求。これらに加えて、上記を実現する「人材獲得、外部連携」を行うとしています。
顧客を理解し接点を増やす「グループCDP基盤」を構築中
なお2020年8月に「DX銘柄2020」に選定された際のプレスリリースには、システム構築事例として「グループ顧客データ分析基盤最適化プロジェクト」が紹介されています。これは上記の「パーソナライゼーション」と「グローバルデータマネジメント」を実現するシステムであり、「組織イノベーション」の取り組みとも関係がありそうです。
このシステムは、オンラインやオフラインで収集した顧客情報を、グループCDP(Customer Data Platform)基盤に蓄積し、分析に基づいて実行した施策によって、顧客への提供価値を高めるプロセスを循環させる、というものです。
2022年12月期の決算説明資料にも、このシステムに関する記述と見られる箇所があります。プロセスイノベーションについて、「全地域統括会社・各組織の個別データ集約によるデータプラットフォームの構築」と「データ品質を維持・向上させるデータマネジメントプロセスの高度化」の領域に3か年で300億円以上の投資を行うとしていますが、これはグループCDP基盤を指しているものと見られます。
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