帝人のDX:「マテリアル」「ヘルスケア」「繊維」の各事業でデジタル技術を高度活用した事業を積極展開 | NEXT DX LEADER

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帝人のDX:「マテリアル」「ヘルスケア」「繊維」の各事業でデジタル技術を高度活用した事業を積極展開

テイジン/イントロダクションビデオ(会社紹介) より

帝人は1918年、化学繊維レーヨンを生産する帝国人造絹絲として設立された会社です。現在は、高機能・複合成形材料を製造販売する「マテリアル事業」、医薬品・医療機器等を製造販売する「ヘルスケア事業」、繊維製品・ポリエステル繊維等を製造販売する「繊維・製品事業」、企業向けITサービスや電子コミック配信サービス等の「IT事業」の4事業を展開しています。

合成繊維メーカーのイメージが強いですが、2023年3月期のセグメント別売上高構成比は、マテリアルが最も大きく44.8%、繊維・製品が31.6%、ヘルスケアが15.0%、ITが5.7%。ただし同営業損益は、マテリアルがマイナス204億円で2年連続の赤字。黒字額はヘルスケアが最も大きく235億円、次いで繊維・製品の100億円、ITの81億円となっています。(NEXT DX LEADER編集部)

「中期経営計画2017-2019」からDXを大きく位置づけ

帝人はここ数期、売上高が右肩上がりで伸びており、2023年3月期には前期比10%増で1兆円の大台に乗せました。一方で営業利益は前期比7割減となり、営業利益率は1.3%にまで悪化。さらに減損損失の計上で、当期純損益は177億円の赤字となっています。

統合報告書2022(2022年3月期)より

統合報告書2022(2022年3月期)より

主な要因は、マテリアル事業における、米国拠点での設備故障や欧州拠点での工場火災による生産への影響のほか、米欧での労働力不足による生産性悪化、中国でのロックダウンと経済減速による工場稼働率の低下等が挙げられています。

これにより「中期経営計画2020-2022」で掲げた財務目標値はすべて未達となり、2023年2月に「帝人グループ収益性改善に向けた改革」を公表し、新中期経営計画は2025年3月期中の公表に延期されています。

中期経営計画でDXが大きく位置づけられているのは「中期経営計画2017-2019」で、事業ポートフォリオ改革として「ICT技術基盤」を構築し、これを介して既存事業の成長や新規事業の創出を図るとしています。

中期経営計画2017-2019(2017年2月6日)より

中期経営計画2017-2019(2017年2月6日)より

「中期経営計画2020-2022」では、DXは大きく取り上げられていませんが、イノベーション創出の重点施策として “「デジタル・IT技術」×「ビジネスモデル・業務プロセス」” を掲げ、2020年4月からイノベーション推進組織を設置し、革新的製品・サービスを拡充するとしています。

中期経営計画2020-2022(2020年2月)より

中期経営計画2020-2022(2020年2月)より

一方、2023年4月からの組織改編により、全社的なスマート化を推進する「スマートテクノロジーセンター」を経営企画管掌配下に移管し「DX推進部」と名称が変更されるなど、DXの取り組みが活性化する兆しも見られます。

ヘルスケア事業では「地域包括ケアシステム」の基盤強化

「中期経営計画2017-2019」の中で、DXの取り組みは「経営システム基盤強化」として整理されています。事業横断での地域別戦略を促進する「グローバル戦略管掌」の新設にあわせ、全社横断でのスマートプロジェクトを推進する「情報戦略管掌」を設けています(なお「情報戦略管掌」は2023年4月より廃止)。

また、中期施策と目標として以下の3つのテーマを掲げ、プラットフォーム構築中心に100億円規模の資源を投入するとしています。

  • ヘルスケアサービス展開:情報プラットフォームを基盤とした様々なサービス展開/コンタクトセンターAI化
  • スマート・プラント化:工程ロボット化/生産プロセスの可視化・生産性向上
  • 業務プロセス革新:業務デジタル化・データベース化/次世代情報インフラ・ツール整備

中期経営計画2017-2019(2017年2月6日)より

中期経営計画2017-2019(2017年2月6日)より

ヘルスケア事業では、データプラットフォームを構築し、「地域包括ケアシステム」の基盤を強化していくとしています。例えば、「HOT見張り番Web」というサービスでは、在宅酸素療法(HOT)で使われる酸素濃縮装置の使用日数や運転時間、チューブ折れ回数などを医療機関がウェブ上で閲覧できる環境を提供しています。

中期経営計画2020-2022(2020年2月)

中期経営計画2020-2022(2020年2月)

また、患者のバイタルデータを経時的に管理し、患者情報をパソコンやスマホを使って医療や介護の多職種間で共有することで、地域包括ケアシステムの運用を支える「バイタルリンク」というサービスも提供しています。

このほか、一定の震度以上の地震が起こると被災地域の患者を即座に特定し支援する「災害対応支援マップシステム D-MAP」や、製品別のコールセンターやカスタマーセンター(HOT対応は24時間365日)を設置するなど、トータルサポート体制での収益モデル変革を図っています。

スマートセンシング事業は帝人フロンティアへ移管し強化

「スマート・プラント化」について、帝人は「RFID物品管理システム」を外販してきました。RFIDとは、ID情報を埋め込んだICタグ(RFタグ)と、電磁波による近距離の無線通信を用いて、非接触で情報をやりとりする技術を指します。

「Recoシリーズ」として展開しているサービスには、様々な場所に設置可能で常時監視が実現できる「レコピック」と、対象物のみを正確に検知しリアルタイムにデータを登録できる「レコファインダー」があります。

例えば工場において、レコピックを用いることで、棚番地管理や作業進捗管理、カンバン管理、在庫管理、人物位置管理、入出庫管理などを行うことができます。また医療機関においては、レコファインダーを用いることで、手術材料の正確な管理を行い、在庫管理や保険請求との連携を行っています。

導入事例は「工場」「医療」「小売・流通」「図書館」など。帝人のこれらの技術は、公表はされていないものの、自社における「生産性向上のための情報インフラ整備、機能・作業デジタル化」といった取り組みにも活用されていると見られます。

また帝人は、内閣府が主導する国家プロジェクト「スマート物流サービス」に参画。医療機関で使用される医療材料に関する物流データの一元的な管理、共同院外倉庫の設置およびRFIDの活用による業務効率化の仕組み構築を実現し、2023年1月から本格稼働しています。

共同倉庫を用いた医療材料物流効率化の仕組みを構築(2023年1月17日)

共同倉庫を用いた医療材料物流効率化の仕組みを構築(2023年1月17日)

なお、最近の報道によると、RFIDソリューションを手掛けるスマートセンシング事業は、帝人本体から、グループ内の繊維・製品事業を担うメーカー兼商社の帝人フロンティアへ移管し、主力事業の衣料繊維や産業資材との事業シナジーを創出していく方針とのこと。

今後は新体制で、新規の顧客や用途を開拓し、2030年には現在の売上高を約10倍の50億円まで増やすことを目指しています。

新素材開発を促進する「MI」の取り組みを加速

売上高が最も大きいマテリアル事業においては、2020年7月に日立製作所との協創を開始すると発表しています。テーマは「帝人の新素材の研究開発におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)」で、データ利活用による素材開発の高度化を目指しています。

「中期経営計画2020-2022」には、デジタル・IT技術を活用したイノベーション創出活動として「データ活用R&D(研究開発)の展開・運用開始」を行うとしており、これを具現化した取り組みといえます。

中期経営計画2020-2022(2020年2月)より

中期経営計画2020-2022(2020年2月)より

帝人と日立は、各種データの一元管理が可能な「統合データベース」の構築を進めるとともに、蓄積したシミュレーションデータや実験データの分析などによって新素材開発を促進する「マテリアルズインフォマティックス(MI)」の取り組みを加速させます。また、研究者間で研究手法やノウハウを最大限利活用するための「サイバーフィジカルシステム(CPS)」の共同構築なども行います。

帝人の新素材の研究開発におけるDX推進に向けて協創を開始(2020年7月20日)

帝人の新素材の研究開発におけるDX推進に向けて協創を開始(2020年7月20日)

YouTube:テイジン/イントロダクションビデオ(会社紹介)

考察記事執筆:NDX編集部

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