三菱重工業のDX:「ΣSynX」でグループ製品をかしこくつなぐ デジタルイノベーション本部に関連機能を集約 | NEXT DX LEADER

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三菱重工業のDX:「ΣSynX」でグループ製品をかしこくつなぐ デジタルイノベーション本部に関連機能を集約

自動ピッキングソリューション紹介動画 より

三菱重工業は1884年、三菱の創業者である岩崎彌太郎が長崎で造船事業を本格的に始めた日を創立日としています。1934年に現在の商号に変更。1950年に過度経済力集中排除法により3社に分割されますが、1964年に再統合しています。

現在のセグメントは、火力・原子力・風力発電システムや航空機用エンジンなどの「エナジー」、製鉄機械や商船、エンジニアリングなどの「プラント・インフラ」、物流機器やエンジン、冷熱製品などの「物流・冷熱・ドライブシステム」、民間・防衛航空機や宇宙機器などの「航空・防衛・宇宙」の4つです。(NEXT DX LEADER編集部)

「収益性の回復・強化」と「成長領域の開拓」の2本柱

2023年3月期の売上収益は、1兆7917億円。セグメント別(除く全社または消去)の構成比は、エナジーが41.0%を占め、物流・冷熱・ドライブシステムが28.4%、プラント・インフラが15.9%、航空・防衛・宇宙が14.6%でした。

同事業利益でも、エナジーが43.3%で最多。同事業利益率では、航空・防衛・宇宙が6.4%と最も高かったものの、全体では4.6%と低水準にとどまっています。

三菱重工業は、2030年に目指す姿として “「エナジートランジション」と「モビリティ等の新領域」を成長エンジンとして、事業ポートフォリオを入れ替えつつ、企業価値の大幅向上を実現する” というビジョンを掲げています。

「2021事業計画(FY2021~2023)」(2020年10月30日)より

「2021事業計画(FY2021~2023)」(2020年10月30日)より

特に、物流・冷熱・ドライブシステムとプラント・インフラを合わせた「社会基盤」領域の事業においては、既存分野の強みと機械システムの知能化により、「物流」「CASE」「コールドチェーン」「電化コンポーネント」など成長性の高いモビリティ(物流、自動車、移動手段)等の領域で事業を拡大するとしており、DXによる新サービス開拓の意味合いが強くなっています。

2020年10月には「2021事業計画(FY2021~2023)」(PDF)を策定。「収益性の回復・強化」として、2023年度の事業利益率7%に向けてコストダウンや生産性向上を推進。「成長領域の開拓」として、エナジートランジション(エネルギー転換)とモビリティ等の新領域に1,800億円を投資し、2030年度の1兆円規模への拡大を目指しています。

特にモビリティ等の新領域については、「多様な製品や技術をデジタル化/AI化技術でシステム化し、新たな価値を提供」するとしており、取り組みにデジタル技術の活用が欠かせない課題となっています。

エナジー・環境領域で「サービス売上」を3割増へ

新領域のテーマとしては、「物流自動化ソリューション」「コールドチェーン(価値を損なわない物流)」「電化コンポーネント事業」「CASE化を支えるインフラ」があげられています。

例えばコールドチェーンでは、三菱重工業のさまざまな機器を通じて蓄積される「リアルデータ」と、データを解析する「モデリング&シミュレーション技術(デジタル・ツイン)」「AI技術」の組み合わせることで、「食・医薬の安心保証」や「省エネルギー」「流通ロスの削減」といった新しい価値を生み出すとしています。

「2021事業計画(FY2021~2023)」(2020年10月30日)より

「2021事業計画(FY2021~2023)」(2020年10月30日)より

また、サービス比率の低い事業を中心に、DXの推進によって「サービス比率」を拡大するとしています。グループ内の先進事例をベースに、グループ横通しのタスクフォース立ち上げるなど「共通基盤の強化」を図りつつ、「各事業の取り組み」を推進します。

「2021事業計画(FY2021~2023)」(2020年10月30日)より

「2021事業計画(FY2021~2023)」(2020年10月30日)より

各事業における取り組みテーマは、エナジー・環境領域では「スチームパワー事業におけるカーボンニュートラルに向けた改造提案強化」「コンプレッサ事業におけるグローバルサービス体制強化」「航空エンジン事業におけるMRO(維持・修理・操作)事業拡大、部品修理の内製化」があげられています。

社会基盤領域では「製鉄機械事業における顧客と保守JV設立、デジタル化」「エンジニアリング事業における交通システムのO&M(オペレーション&メンテナンス)参入強化」、防衛事業では「MRO&アップグレード、駐留米軍の修理事業推進」があげられています。

このようなDXによるサービス拡大により、サービス売上の増加を図るとし、対2020年度の2023年度サービス売上を、エナジー領域では30%、社会基盤領域では25%、防衛事業では15%増やすことを目指しています。

「戦略企画」「研究開発」「ITサービス」の機能を集約

三菱重工業は2022年7月1日付けで、「デジタルイノベーション本部」を新設すると発表しました。CTO直下に置かれ、「DI(デジタルイノベーション)戦略企画部」「コミュニケーション技術部」など6つの部を設けています。

三菱重工業の組織図(部分。2022年7月1日現在)

三菱重工業の組織図(部分。2022年7月1日現在)

デジタルイノベーション本部の説明資料(PDF)には、3つの部門とそれぞれの主要業務が説明されています。

1つ目の「デジタルイノベーション(DI)部門」のミッションは、グループ全体のDIをリードし、企業価値向上と事業発展・継続に貢献すること。「戦略企画」領域の主要業務としては、「グループ全体のデジタル戦略策定」「デジタル関連ビジネス推進」「デジタル人材育成、マインド・カルチャー変革」「デジタルブランディング」があげられています。

DIGITAL INNOVATION HEADQUATERS(2022年6月20日)より

DIGITAL INNOVATION HEADQUATERS(2022年6月20日)より

「デジタル・トランスフォーメーション」領域の主要業務としては、「機械を“かしこく・つなぐ”標準ソフトウェア部品の開発」「リモートでの働き方を広げる“SynX-Supervision”の開発」「デジタル・エクスペリエンスの推進」があげられています。

2つ目の「研究開発部門」のミッションは、最先端のICTでグループの製品・製造を革新すること。「製品システム研究開発」領域の主要業務としては、「制御」「シミュレーション」「機械学習/最適化」「画像・信号処理」「通信ネットワーク」「制御システム・セキュリティ」があげられています。

DIGITAL INNOVATION HEADQUATERS(2022年6月20日)より

DIGITAL INNOVATION HEADQUATERS(2022年6月20日)より

「生産システム研究開発/データサイエンス」領域の主要業務としては、「AI/IoT活用によるVCの業務プロセスを対象とした知能化/業務効率化」「現場を効率化するウェアラブルシステム/シミュレーション技術の活用」「データサイエンスを活用した意思決定支援、アフターサービスの高付加価値化」があげられています。

3つ目の「ITサービス部門」のミッションは、グループの製品開発部門が使用するICTを技術で支えること。「アプリケーション開発」領域の主要業務としては、「製造現場向けICTシステムの開発支援」「DXとデータドリブン経営をリードするデータ統合管理基盤」「新開発技術による低コストでフレキシブルなITサービス提供」「データに基づく意思決定のためのBI活用」があげられています。

「ITインフラ/情報セキュリティ」領域の主要業務としては、「サイバー攻撃へのセキュリティ対策」「グループ各社業務のコミュニケーション基盤整備」「グローバル・ネットワーク整備」「働き方を支えるインフラ基盤整備」があげられています。

「ΣSynX」で無人物流オペレーションを実現

三菱重工業では、グループ製品全体を自律化・知能化するソリューションコンセプトとして「ΣSynX(シグマ・シン・エックス)」を打ち出しています。

ΣSynXは、三菱重工業グループのデジタルイノベーションブランドで、人と機械が協調するために知恵と技術を結集し、「かしこく・つなぐ」ことを表しているとのこと。さまざまな機械システムを同調・協調させる標準プラットフォームの名称でもあります。

プレスリリース「“かしこく・つなぐ”でお客様のビジネスモデルを変革 「デジタルイノベーション本部」を新設」(2022年6月20日)より

プレスリリース「“かしこく・つなぐ”でお客様のビジネスモデルを変革 「デジタルイノベーション本部」を新設」(2022年6月20日)より

前出のデジタルイノベーション本部の説明資料には、三菱重工業だからこそできるデジタル改革の例として、「航空機や風力発電の製造プロセスの変革」「産業用機械の故障診断や予測」「発電プラントの消費エネルギーの最適化」をあげていますが、このような領域での取り組みで「ΣSynX」の名前が使われていくと考えられます。

ΣSynXが打ち出されている最近の例としては、2023年9月11日のプレスリリースで、「ΣSynX」搭載の新型無人フォークリフト「AGF-X」「DECCO」2機種を公開し、展示会において無人物流オペレーションを初めて実演すると発表しています。

特に「AGF-X」は、LiDAR(レーザーを主に使用する)SLAM(Simultaneous Localization and Mapping:自己位置推定と環境地図作成の同時実行)誘導方式とΣSynXを搭載することで、柔軟かつ効率的なオペレーションや、熟練オペレーターのようなスムーズな荷役動作を実現するとのことです。


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考察記事執筆:NDX編集部

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