資生堂のDX:「海外競合企業からの遅れ」を危機感に合弁会社を設立。「スピーディーかつ集中的に」変革を推進
みんな、いい顔してる。(Full ver.)|資生堂 より資生堂は1872(明治5)年、東京・銀座に日本初の洋風調剤薬局として創業されました。1897年に化粧品業界へ進出。1931年には東南アジア向け、1963年にはヨーロッパ向け化粧品の輸出を始めるなど、早くから海外展開を行っています。
創業150周年を迎えた2022年12月期の売上高は1兆674億円。地域別売上高は、中国が最大で2,582億円、次いで日本が2,376億円、米国が1,379億円、欧州が1,284億円、アジアパシフィックが680億円。トラベルリテール(空港等でのデューティーフリー事業)、プロフェッショナルおよびその他が2,372億円でした。(NEXT DX LEADER編集部)
ポストコロナで大きく遅れる「日本市場の回復」
資生堂の業績は2016年12月期から伸長し続け、2019年12月期の売上高は1兆1315億円、営業利益率は10.1%に達しました。しかしコロナ禍の影響で、2020年12月期の売上高は9209億円で前期比18.6%減、当期純損益は117億円の赤字に陥っています。
その後は、2021年12月期の売上高は1兆10億円、2022年12月期は前述の通り1兆674億円と徐々に回復しつつあります。
ただし地域別にみると、日本市場の回復が大きく遅れており、2019年12月期に4,310億円あった売上高は2022年12月期に2,376億円まで減少、セグメント利益も765億円から96億円へと大きく落ち込んでいます。
なお資生堂は、2021年7月に「TSUBAKI」や「SENKA」等を展開するパーソナルケア事業の国内事業を合弁会社(ファイントゥデイ)に事業譲渡、また2022年12月期より国際会計基準を適用しており、売上高の減少にはこれらの影響もあります。
資生堂は2018年3月、「2018-20年度経営戦略・計画」を発表。“Building for the Future”のスローガンのもと、ブランド事業のさらなる「選択と集中」などとともに、「デジタライゼーションの加速・新事業開発」を重点戦略としていました。
具体的な課題としては、マーケティング関連の「EC事業の強化」「ECのケーパビリティの強化」「デジタルマーケティング・CRMの強化」、新事業開発関連の「パーソナライゼーションへの対応強化」、それにインフラ関連の「ワークスタイルの変革」「グローバルオペレーションの基盤強化」をあげています。
DXビジョン「No.1 Data Driven Skin Beauty Company」を掲げる
コロナ禍による事業環境の激変により「2018-20経営目標」で掲げた財務目標が達成目前で未達となる中、資生堂は2021年2月に「WIN 2023 and Beyond」と題した中長期経営戦略を発表しました。
2030年に実現したいビジョンを「Personal Beauty Wellness Company」をとし、主要戦略として「高収益構造への転換」「スキンビューティーへの注力」「成長基盤の再構築」の3つを掲げ、各課題の推進にデジタル技術を活用するとしています。
そして、DXビジョン「No.1 Data Driven Skin Beauty Company」を掲げ、2030年のEC売上比率35%を目標に設定。達成に向けて4つの取り組み方針をあげています。
- 店頭とオンラインが融合した体験・デジタルマーケティングの加速
- 診断を活用したコンシューマー体験
- データ活用・CRM強化
- 組織能力・DX基盤構築
また、「WIN 2023 and Beyond」は「グローバルトランスフォーメーション」実現の課題のひとつに「デジタル変革」をあげ、「デジタル・Eコマースを中心とした事業モデル転換・組織構築」「ICT基盤・オペレーション構築・「FOCUS」(後述)」をロードマップに配しています。
上記の課題を推進するために、グループ全体のDX戦略を担うチーフデジタルオフィサー(CDO)には、資生堂グローバル本社のエグゼクティブオフィサーであるアンジェリカ・マンソン氏が2021年に就任しました。
また、グループ全体のIT戦略の策定・実行や情報セキュリティの統括を担い、グループ全体のDX戦略をIT基盤の面でサポートするチーフテクノロジーオフィサー(CTO)には、資生堂グローバル本社のエグゼクティブオフィサーである高野篤典氏が就任しています。
業務変革プロジェクト「FOCUS」が進行中
2021年7月には、資生堂およびグループ会社にデジタルマーケティング業務とデジタル・IT関連業務を提供することを目的に、アクセンチュアとの合弁会社「資生堂インタラクティブビューティー(SIB)」を設立しました。
外資・日系企業のIT部門トップを歴任した高野氏は、SBIの共同代表も兼任。資生堂のDX上の課題について「統合レポート2021」に厳しいコメントを残しています。
「まず、基盤面の課題が挙げられます。(略)早期からIT投資を積極的に進め、目まぐるしく変化する環境に迅速に適合してきた海外競合企業と比べると、当社は、環境の変化に対する機動性・柔軟性を欠き、データの連携・統合も困難な状況にありました」
このような危機感を背景に、あらゆる事業活動の迅速化・生産性向上を目指し、業務プロセスの標準化と統合基幹システムの構築・導入を通じた業務変革プロジェクト「FOCUS」が、2019年11月から始まっています。FOCUSは「First One Connected & Unified Shiseido」の略。SAPのS/4HANAへのグローバル統一を採用し、2023年末に完了する予定です。
FOCUSは、顧客を起点とし、研究開発から調達・生産・物流、マーケティング・営業までが一気通貫したデータでつながるバリューチェーンへと変革し、最適なタイミング・チャネル・方法で商品・サービスを届けるべく、需給動向や生産・物流などの情報もリアルタイムで連動させることを目指しています。
また高野氏は、資生堂の体制上の課題についても指摘しています。
「資生堂では従来、外部パートナーへの発注を中心にシステム構築を行ってきましたが、外注依存度が高い中で機動性・柔軟性を上げるには限界があり、社内のデジタルIT専門人財も育ちにくくなります。専門人財の育成強化・獲得は、最重要課題だと考えています」
そして、変革をスピーディーかつ集中的に実行するために、外資コンサルティング会社とSIBを設立。高野氏は「先行き不透明な環境の中で機動性・柔軟性に後れをとる日本地域のDXを最重要課題と位置付けた」と述べています。
このような課題に直面する日本事業を担う資生堂ジャパンのチーフデジタルオフィサー(CDO)には、2020年に入社したエグゼクティブオフィサーのスギモトトシロウ氏が就任し、資生堂インタラクティブビューティーのDX本部長も兼任しています。