三井不動産グループのDX:リアルとデジタルの組み合わせで不動産を「サービス」に “Real Estate as a Service”を目指す | NEXT DX LEADER

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三井不動産グループのDX:リアルとデジタルの組み合わせで不動産を「サービス」に “Real Estate as a Service”を目指す

『三井のオフィス』オフィスライフ動画 より

三井不動産の源流は、三井家の所有する土地・建物を管理する三井合名会社の不動産部門で、1941年に独立しました。高度経済成長期には京葉臨海地区の埋立事業を行うなどデベロッパーとして事業を拡大し、東京ディズニーランドの運営会社であるオリエンタルランドの設立にも関わりました。

その他、日本初の超高層ビル「霞が関ビルディング」、日本初の高層マンション「三田綱町パークマンション」、日本初の大型ショッピングセンター「ららぽーと」を皮切りに、総合不動産デベロッパーとして「三井アウトレットパーク」「COREDO日本橋」「東京ミッドタウン」などさまざまな施設の開発に携わっています。(NEXT DX LEADER編集部)

長期経営方針で「デジタル技術の徹底的な活用」を位置づけ

三井不動産のセグメントは、オフィスビル・商業施設等の「賃貸事業」、業務施設等の「分譲事業」、賃貸事業における管理・清掃・保守事業等のプロパティマネジメントや仲介・アセットマネジメント等を含む「マネジメント事業」、新築住宅等の請負やホテル等の施設営業、東京ドーム、リフォーム工事等の「その他事業」の4つで構成されています。

2023年3月期の売上高は2兆2691億円、営業利益は3054億円、当期純利益は1969億円で、いずれも過去最高を記録しています。

「2024年3月期第1四半期決算説明資料」(2023年8月)より

「2024年3月期第1四半期決算説明資料」(2023年8月)より

売上高構成比(調整前)は、賃貸事業が32.6%、分譲事業が26.8%、マネジメント事業が22.1%、その他事業が18.5%。同セグメント利益の黒字部分に占める割合は、賃貸事業と分譲事業が約4割ずつ、マネジメントが2割弱、その他事業は423億円の赤字でした。

三井不動産グループは2018年5月、長期経営方針「VISION 2025~BE THE CHANCE~」を策定しました。「まちづくりを通して、持続可能な社会の構築を実現」「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」「グローバルカンパニーへの進化」の3つをビジョンに掲げ、テクノロジーの活用を強調しています。

ビジョン実現に向けた基本ストラテジーとして、「顧客志向の経営」「グループ経営の進化」「ビジネスイノベーション」の3つを設定。DXの取り組みは、ビジネスイノベーションの中の「デジタル技術の徹底的な活用」として位置づけられています。

「2024年3月期第1四半期決算説明資料」(2023年8月)より

「2024年3月期第1四半期決算説明資料」(2023年8月)より

主要な取り組み方針としては、「街づくりの一層の進化」「リアルエステートテック活用によるビジネスモデルの革新」「海外事業の飛躍的な成長」の3つを掲げています。リアルエステートテックとは、不動産関連サービスを進化させるデジタル技術を指します。

また、「VISION 2025」では、技術を活用した革新の方向性として「現在展開している商品・サービスにICTを活用し、競争力を向上」「不動産×ICTで新たなビジネスを創出」「オフィス・商業・住宅などリアルな空間でのデータ蓄積・活用」の3つを示しています。

100名以上の「DX本部」がグループ各社とともに推進

三井不動産グループでは、2017年を「DX元年」と位置づけ、IT技術職掌を新設してITスペシャリストの採用を強化。119名体制(2022年12月現在)のDX本部が、各部門やグループ各社と一体となってDXを推進しています。

「DX白書2022」(2022年12月)より

「DX白書2022」(2022年12月)より

2023年4月の組織改正では、三井不動産グループが推進する各DX領域における機能強化のため、DX本部の機能を拡充・再編すべく、サイバーセキュリティ、IT基盤を担う「DX一部」、新規事業支援を担う「DX二部」に加え、既存業務プロセス改革を担う「DX三部」を新設しています。

あわせて、デジタルソフトの加速に対応するオムニチャンネル化の推進強化等を目的として、商業施設運営部を二部制に分割。ロジスティックス事業部内に「イノベーション推進室」を新設しました。

三井不動産グループでは2022年12月、「DX白書2022」を公開しています。VISION 2025で掲げたビジョンの1つである「テクノロジーを活用し、不動産業そのものをイノベーション」の実現に向けて、“最も重要で必要な手段”がDXと明確に位置づけ、以下の2つを目的にDXを推進しています。

  • お客様への価値提供のためのDX( 「働きやすい」「暮らしやすい」「楽しい」など)
  • ビジネスプロセスの効率化のためのDX(お客様の満足度向上と生産性向上の両立)

菰田正信社長は「DX白書2022」の冒頭で、リアルとデジタルをお客様それぞれに合わせて最適に組み合わせることにより、不動産をお客様に「モノ」としてではなく、ハードとソフトの合わせ技で「サービス」として提供する“Real Estate as a Service”を実現していくと述べています。

「DX白書2022」(2022年12月)より

「DX白書2022」(2022年12月)より

住民向けポータルサイトで個人に最適化したサービス提供

三井不動産グループのDXは「事業変革(顧客志向・社会課題解決)」「働き方改革(生産性・従業員満足度向上)」、そして「推進基盤」強化の3つの柱で取り組んでいます。

「事業変革」の取り組みの例は12件。東京ミッドタウン八重洲やららぽーと、東京ドーム、ガーデンホテルといった施設ごとの取り組みのほか、健康経営支援サービス「&well」や日本初のBCP定額・会員制コンサルティングサービス「&Resilience」などの自社サービス、物流施設MFLP(三井不動産ロジスティックパーク)のロジスティックスDX、テック系ベンチャー企業との共創といった取り組みもあります。

「世界の未来像」の具現化を目指して三井不動産が街づくりに携わる柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)では、国立がん研究センター東病院敷地内の「三井ガーデンホテル柏の葉パークサイド」と連携し、ヘルスケアサービス開発のエコシステムを構築しています。

「DX白書2022」(2022年12月)より

「DX白書2022」(2022年12月)より

柏の葉キャンパス駅から半径2キロ圏内に居住する住民を対象に、生活をより便利にするポータルサイト「スマートライフパス柏の葉」を2020年11月に開設。提携サービス間のデータ連携の同意を得て、最適な健康増進活動の提案や病気の重症化予防など、個人に最適化されたさまざまなサービスを体験できる環境を整えます。

法人向けシェアオフィス「ワークスタイリング」では、QRコードを用いた非接触システムを導入し、スマートフォンをかざした入退館が可能に。1人用個室には音環境やプライバシーに配慮したサウンドマスキングを完備しています。個室特化型の「ワークスタイリングSOLO」では、コンシェルジュによるオンラインサポートが受けられるなど、サービスを拡充しています。

「ワークスタイル改革」の取り組みでは、社内用の決裁システムと会計システムを統合してフルクラウド化。BPRを徹底し「ペーパーレス化」「モバイル化」「脱ハンコ」を進めることで、受発注・会計業務の大幅な削減(約5万8,000時間、35%)に成功。この取り組みは、企業情報化協会の「IT賞(マネジメント領域)」を受賞しています。

「DX白書2022」(2022年12月)より

「DX白書2022」(2022年12月)より

「推進基盤」強化の取り組みでは、2022年4月より全社員1,700名を対象としたDX研修「DxU(ディー・バイ・ユー)」を開始。デジタル知識だけでなく「プロセス効率化」「プロジェクト管理・運用」を含めた多面的なスキルアップを図っています。


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考察記事執筆:NDX編集部

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