アシックスのDX:「ランニングNo.1」目指し顧客との接点拡大 4カ国体制でデジタル戦略をグローバルに推進 | NEXT DX LEADER

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アシックスのDX:「ランニングNo.1」目指し顧客との接点拡大 4カ国体制でデジタル戦略をグローバルに推進

ASICS x CASIO MOTION SENSOR -成長は、走る姿にあらわれる- | ASICS RUNNING | アシックス より

アシックスは1949年、鬼塚商会として発足。同年、鬼塚株式会社に改組し、スポーツシューズの専門メーカーを目指して開発、生産を開始しました。1950年のバスケットボールシューズ発売を皮切りに、競技用シューズを幅広く展開。1977年に、商号をアシックスに変更しました。

現在の事業セグメントは、地域別に「日本」「北米」「欧州」「中華圏」「オセアニア」「東南・南アジア」「その他地域」の7つ。2022年12月期の海外比率は、セグメント売上高(調整前)の76.1%、同営業利益の84.6%を占めるグローバル企業です。(NEXT DX LEADER編集部)

「ECチャネルの伸長」が粗利率改善に貢献

アシックスの2022年12月期決算は、売上高は4846億円で7年ぶり、営業利益は340億円で8年ぶりに過去最高を更新。仕入為替悪化や米欧での物流費高騰の悪影響があったものの、チャネルミックスの改善や販売価格の適正化に努めた結果によるとのことです。

「2022年12月期決算補足説明資料」(2023年2月10日)より

「2022年12月期決算補足説明資料」(2023年2月10日)より

特に、全世界における「EC」の売上高は前期比35.3%増の863億円と引き続き伸長。2018年12月期には4%だったEC売上比率は18%にまで増え、2023年12月期には20%台の半ばまで増やすことを目指しています。

ECの粗利率は、全チャネル平均50%に対して64%(2021年12月期第3四半期累計)と高く、EC売上拡大により連結粗利率の改善が期待できます。

また、売上高の53.3%を占めるランニングシューズの商品カテゴリー「パフォーマンスランニング」の売上高が前期比24.0%増の2,582億円と伸長したことも貢献しています。

アシックスでは2020年10月、長期ビジョン「VISION2030」を策定。2030年に目指すべき姿を「誰もが一生涯、運動・スポーツを通じて心も身体も満たされるライフスタイルを創造する」とし、パフォーマンス・アスリートのサポートを引き続き行いつつ、広い視野で心身ともに健康を向上できる商品、サービス、環境の提供を行うとしています。

「中期経営計画2023」(2021年2月12日)より

「中期経営計画2023」(2021年2月12日)より

そして、これまでの「プロダクト(製品)」「ファシリティ(施設、設備)とコミュニティ」「アナリシス(分析)とダイアグノシス(診断)」を加えた計3つのドメインで事業を拡張していくとしています。

  • プロダクト:お客様の嗜好、価値観の多様化に基づきパーソナライズされたプロダクトを提案し、心と身体の健康を実現
  • ファシリティとコミュニティ:スポーツを始める・継続するきっかけ、いつでもどこでもスポーツを行える場所を提供
  • アナリシスとダイアグノシス:お客様のプライバシーを守ったデータに基づいた分析診断を行い、パーソナライズされた運動プログラムを提供

また、すべての事業ドメインに共通して「デジタル」「パーソナル」「サステナブル」の3つのテーマを掲げ、進化を続けるデジタル技術を活用し、各個人に合わせてパーソナライズされた製品・サービスを、環境に配慮したサステナブルな手法で開発・提供していくとしています。

 

「パフォーマンスランニング」に経営資源を投入

アシックスでは、2021年2月に新たな「中期経営計画2023」を策定。戦略目標を「デジタルを軸にした経営への転換」「事業活動を通したサステナブルな社会の実現」の2本立てとしています。

「中期経営計画2023」(2021年2月12日)より

「中期経営計画2023」(2021年2月12日)より

方針を「収益性を高めることに注力し、将来の持続的成長のための安定した財務基盤を確立する」とし、ランニングでNo.1などの「収益事業の拡大」、アパレル事業などの「収益事業への変革」、次世代技術によるイノベーション創造などの「経営基盤の強化」を3つの重点戦略としています。

アシックスの製品・サービスは5つに分けられます。機能性ランニングシューズの「パフォーマンスランニング」、テニス・バレーボールなど競技スポーツ用シューズの「コアパフォーマンススポーツ」、ファンランナー向けのランニングシューズやカジュアルシューズの「スポーツスタイル」、競技用ウエア・ファッションウェアの「アパレル・エクィップメント」、ライフスタイルブランド「オニヅカタイガー」です。

このうち、オニヅカタイガーとともに拡大すべき「収益事業」とされた主要事業の「パフォーマンスランニング」には、経営資源を集中し、No.1ポジション奪回に向けて利益を伴う成長を加速するとしています。

戦略目標である「デジタルを軸にした経営への転換」のために、アシックスでは「デジタルサービスと連携したランニングエコシステムを通して、一生涯、心も身体も満たされるランニングを体験」できるサービスを提供するとしています。

買収した海外アプリを「OneASICS」で連携

戦略目標実現に向けて、アシックスでは「Digital Business:売上の向上」「Digital Marketing:収益率の向上」「Digital Supply Chain:コストの削減」の3つのデジタル戦略を立てています。

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

デジタル戦略の策定にあたり、ランナーを中心とした「カスタマージャーニー」を作成。デジタルを活用することにより、ランナーがトレーニングやレース参加、商品購入検討、アフターサービスのそれぞれの接点を増やした、新しいビジネスモデルを作成しています。

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

2016年にはフィットネス・トラッキング・アプリ「Runkeeper」を運営する米Fitness Keepers社を買収。2019年にはレース登録プラットフォーム「RACE ROSTER」を運営するカナダのFast North Corporation社を、2021年にはレース登録プラットフォーム「Register Now」を運営する豪Registration Logic Pty社を買収しています。

これらのプラットフォームと、サプライチェーンのシステムを、グローバルで550万人のメンバーが登録している自社の「OneASICS」IDと連携することにより、全世界のデジタルユーザーとつながることができています。

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

「OneASICS」では、統合されたポイントプログラムによって、商品購入、リペア、トレーニング施設などで利用できるなど、ランニング関連情報と商品紹介の提供を通じロイヤリティの高いユーザーを増やして収益事業の拡大を図るとともに、会員から得られるマーケット動向をデータ取得し商品開発やマーケティング戦略に活用しています。

このようなデジタルを活用した「タッチポイントの拡大」によるECビジネスの成長加速を図り、「自社ECサイトのパーソナライズ・価値向上」「自社ECを中心としたオムニチャネル推進」「OneASICSによるロイヤリティ向上」「データドリブンによるマーケティングの強化」を図るとしています。

このほか、アシックスでは「デジタルとリアルの融合」を目指した取り組みを行っています。2020年には「Runkeeper」「RaceRoster」を組み合わせた世界初のバーチャル駅伝「ASICS World Ekiden2020」を開催。世界175カ国、1万3602チームの5万6000人が参加。2021年、2022年にも開催し、累計参加者数は9万6000人にものぼります。

東京と大阪で展開する低酸素環境下トレーニング施設「ASICS Sports Complex」では、施設内の各エリアへの酸素濃度計の設置や、会員用アプリによって、科学的なトレーニングの最適化をサポートしています。

また、カシオ計算機との協業で進めている「Runmetrix モーションセンサー」によるサービス(動画参照)は、スポーツ工学研究所で培った長年の治験と、ランニングデータから実現したデータドリブンな価値提供を行っています。

ECやマーケティングは米国の部門が担当

アシックスは、会社全体を「デジタルドリブンカンパニー」にするため、2018年から日本IBMで執行役員を務めた富永満之氏を常務執行役員CDO(最高デジタル責任者)・CIO(最高情報責任者)に迎え、日本、アメリカ、カナダ、オランダの4カ国400名体制でデジタル戦略をグローバルで推進する体制を整えています。

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

「アシックスのデジタル戦略について」(2021年11月17日)より

サプライチェーンやアライアンス提携は日本の部門が担い、ECやマーケティングは米国の部門が、デジタルビジネス推進、エンタープライズのITシステムのリードはそれぞれカナダとオランダの部門が担当し、デジタル関連のプロジェクトに取り組んでいます。


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考察記事執筆:NDX編集部

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