日清食品は1948年、魚介類の加工販売などを目的とした中交総社として大阪・泉大津市に設立。1958年に瞬間油熱乾燥法の「チキンラーメン」を開発し、現在の社名に変更しました。1970年に米国進出、1971年に「カップヌードル」を発売しました。
1988年に東京に本社移転し、シスコなど食品会社への資本参加で業績拡大。1992年に生タイプ即席めん「日清ラ王」の販売を開始、2008年に持株会社制へ移行。2020年に湖池屋を連結子会社化するなどして、2023年には年間売上高6,000億円の達成を果たしています。(NEXT DX LEADER編集部)
「海外」と「非即席めん」での成長目指す
日清食品のセグメントは大きく3つ。2023年3月期の売上高は「国内即席めん事業」(日清食品、明星食品)が2,607億円、「国内非即席めん事業」(低温・飲料事業、菓子事業)が1,609億円、「海外事業」(米州地域、中国地域)が2,430億円。同コア営業利益は「国内即席めん事業」が289億円、「国内非即席めん事業」が68億円、「海外事業」が298億円でした。
なお、2023年11月には2024年3月期の連結業績予想を上方修正し、売上収益は7,200億円、既存事業コア営業利益は800億円を見込んでいます。

2023年度 第3四半期決算報告(2024年2月13日)より
日清食品グループは2021年5月、「中長期成長戦略」を策定。「常に新しい食の文化を創造し続ける“EARTH FOOD CREATOR(食文化創造集団)”として、環境・社会課題を解決しながら持続的成長を果たす」というグループ理念を掲げています。

日清食品グループ 中長期成長戦略(2021年5月11日)より
このビジョン実現と持続的成長に向けて、中長期成長ストーリーとして、3つの成長戦略テーマに取り組むとしています。1つ目は「既存事業のキャッシュ創出力強化」で、「海外事業」と「非即席めん事業」のアグレッシブな成長によって、利益ポートフォリオを大きくシフトさせながら持続的成長を追求するとしています。
2つ目は「EARTH FOOD CHALLENGE 2030」で、有限資源の有効活用と気候変動インパクト軽減へのチャレンジ、既存事業のライフサイクルの超長期化に取り組みます。3つは「新規事業の推進」で、フードサイエンスとの共創による“未来の食”を開発し、テクノロジーによる食と健康のソリューション企業を目指すとしています。
長期的な目標/利益成長水準と戦略の方向性として、国内即席めん事業は「100年ブランドカンパニー」として市場成長率以上での成長を目指し、国内非即席めん事業は「即席めん事業に次ぐ第2の収益の柱」として1桁台後半の成長を目指すとしています。
海外事業は「高付加価値市場におけるトップカンパニー」として、1桁台後半から2桁台の成長により、利益に占める割合を2020年度の約30%から2030年度には約45%に拡大することを目指しています。
2024年2月には業績好調を受けて、2030年度までのグループ中長期成長戦略の目標値を引き上げ、売上収益1兆円、コア営業利益率10%、既存事業のコア営業利益は従来目標の800億円から1,000億円に引き上げています。
ペーパーレスなど「労働生産性の向上」に取り組む
中長期成長戦略の中で、日清食品グループは「Digital時代における事業構造改革の推進」に取り組むとしています。なお、この内容は2021年5月時点なので、すでに取り組みは進んでいると考えられます。

日清食品グループ 中長期成長戦略(2021年5月11日)より
単なるデジタル化にとどまらない「ビジネスモデル自体の変革」を目指した全社活動テーマ「NBX:NISSIN Business Transformation」として掲げているのは、「効率化による労働生産性の向上」と「ビジネスモデル自体の変革」です。
「効率化による労働生産性の向上」として、まずは全社的な「ツールの最大活用」をあげ、RPA等のツールやBPOを最大活用し、全社員がコア業務にフォーカスできる環境を構築するとしています。また、テレワークなどの「分散型労働」を恒常化する基盤も整備するとしています。
2020年7月の米UiPath社日本法人のプレスリリースによると、自動化ツール「UiPath」は日清食品における得意先への出荷案内業務の自動化を支援しており、在宅勤務スタッフの業務時間を月間170時間削減する見込みとのことです。
また、バックオフィス業務を中心に「ペーパーレス/ハンコレス」を推進。請求書処理・経費生産関連業務のデジタル化や、電子決裁システムによるペーパーレス・ハンコレスの実現と業務の迅速化に取り組むとしています。
2023年4月のファイストアカウンティング社の導入事例によると、請求書処理のメインシステムとして米Concur Technologies社の「Concur Invoice」を、ユーザーの請求書入力をサポートするAI-OCRとしてファーストアカウンティング社の「Remota」をそれぞれ導入。
Concur Invoiceのデータは、ERPシステムであるSAPと連携しているとのこと。これにより、74%の請求書についてペーパーレス/ハンコレスが実現し、年間9万枚の紙保管および年間約2.4万時間分の工数削減が見込まれるとのことです。
工場業務においては「スマートファクトリー」に取り組み、工場内のあらゆる情報をデータ化することで、リアルタイムに生産状況を可視化し、不良品発生率100万分の1以下を目指すとしています。
各国ERPのデータをクラウド上に集約
一方、「ビジネスモデル自体の変革」については、HR(人材)部門において「タレントマネジメントシステム高度化」に取り組み、Job型モデルへの移行の中で、専門性の向上と経営人材の育成をデータ活用によって両立するとしています。
2021年3月にはタレントマネジメントシステムの「タレントパレット」を導入。社内に散在していた人事情報を集約、分析・見える化し、人材の最適配置や適正な評価、有望人材の発掘、退職離脱防止などにつなげているとのことです。
マーケティング部門においては「360°消費者理解」を掲げ、パーソナルデータの活用により生活者・消費者理解を深め、より効果的なマーケティング活動に活かしていくとしています。
営業部門においては「データドリブンなソリューション提案」を掲げ、ショッパーマーケティング専門部隊を新設し、データに基づく販売機会の伸びしろを発見し、提案活動に活かしながらデジタル人材育成に取り組むとしています。
サプライチェーンマネジメント部門においては「サプライチェーンの清流化」を掲げ、アジャイル化による機会損失の回避と、徹底的にムダ排除によるスリム化を、データ連携によって高度に実現するとしています。
なお、日清食品では各国のERPからのデータを、日本発のiPaaSである「HULFT Square」を通してクラウド(SaaS型データプラットフォームの「Snowflake」)へアップロードし、クラウド上でデータを加工・編集して、BIツールへ送っているとのことです。
「定期宅配(D2C)」や「社員食堂」など新事業を展開
DXに関しては、「新規事業の推進」の取り組みのひとつとして「テクノロジーによる食と健康のソリューション企業へ」という方向性が示されています。
中長期成長戦略では、おいしさと栄養の完全バランスが取れた「日清のおいしい完全食」の展開のひとつとして「定期宅配(D2C)」事業をあげています。

日清食品グループ 中長期成長戦略(2021年5月11日)より
スマホアプリでの簡単オーダーやインテンシブ(集中)プログラムによって、おいしくて栄養バランスのいい食事を手間なく入手できるようにし、アルゴリズムによるデータ解析とアプリでのバイタル管理によって、健康状態の維持・改善の可視化を図ることによって、おいしい食事と健康管理を行える仕組みを構築するとしています。
2021年5月のプレスリリースでは、AI開発を行うPreferred Networksとともに「食と健康状態の解析モデル」の確立に向けた共同研究を本格始動し、日清食品の「完全栄養食」を最新データ解析とAI技術でさらに進化する取り組みを行うことが告知されています。
また、「社員食堂」事業では、従業員の「健康」と「健康経営」をサポート。プレゼンティズム(出勤しているがパフォーマンスが上がらない状態)の減少や業務生産性・従業員満足度の向上を図るとしています。

日清食品グループ 中長期成長戦略(2021年5月11日)より
2021年4月のプレスリリースでは、特色ある健康経営で知られる伊藤忠商事の協力のもと、伊藤忠商事社員に提供する試験的な取り組みをスタートしたと告知されています。
2022年8月のプレスリリースでは、岡山市の両備ホールディングスが、本社が入居する「杜の街グレース」にオープンした「MORINOMACHI PICNIC TERRACE」において、日清食品監修の「完全メシのカフェテリア」で社員の生活習慣改善プログラムを実施したと告知されています。
このほか、パートナー企業である米CRAIFとの協業により、尿から採取されるmiRNAの健康データを蓄積し、未病改善のアルゴリズムを食の個別化などサービスの高度化に活用するとのことです。