旭化成のDX:デジタル社会等を背景とした「10の成長事業」を選定 データ活用によるビジネス変革で増益に貢献
Asahi Kasei DX Vision Movie 「道なき世界」篇 より旭化成の創業は1922年、レーヨン糸を製造販売する旭絹織に遡ります。創業者の野口遵は日本初のアンモニア合成を実現し、日窒コンツェルンを作り上げますが、戦後の財閥解体で解散。傘下企業のひとつが後の旭化成となります。
現在は、繊維・化学品・エレクトロニクス関連素材などの「マテリアル」、ヘーベルハウスや建材などの「住宅」、医薬・医療などの「ヘルスケア」の3領域で事業を展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)
成長事業へ重点リソース投入し事業構造を転換
2023年3月期は全領域で増収となり、連結売上高は2.7兆円。売上高構成比はマテリアルが48.5%と半数近くを占め、住宅が33.1%、ヘルスケアが18.3%でした。
連結営業利益は2,131億円。セグメント利益は例年マテリアル領域が最大ですが、2023年3月期はリチウムイオン電池向けセパレータ事業を手掛ける子会社の米polyporeが1850億円の減損損失を計上。この影響で当期純損益も913億円の赤字に陥りました。
旭化成は2022年4月、「新中期経営計画2024~Be a Trailblazer~」を発表しました。Trailblazerとは先駆者のこと。2022年5月に創業100周年を迎え、あらためて次の100年に向けて新たな挑戦を続ける姿勢をあらわしています。
長期展望として、2030年度ころまでに営業利益4,000億円、ROE(自己資本利益率)15%以上、ROIC(投資資本利益率)10%以上を目指す目標を設定。コロナ禍などで業績が悪化した「戦略再構築事業」の改革完遂と、次の成長事業への重点リソース投入を行い、旭化成の目指す姿との適合性を踏まえた「抜本的事業構造転換」を図るとしています。
次の成長事業については、「脱炭素社会」「デジタル社会」「健康・長寿社会」を背景に、5つの価値提供分野で次の成長を牽引する「10のGrowth Gears(GG10)」を選定。重点的にリソースを投入し、2030年度あたりにはGG10が生み出す営業利益が全体の70%超となることを目指します。
現場密着型「デジタルプロ人材」を2500人育成
新中期経営計画2024は、経営基盤強化に向けてグループ全体で取り組む4つの重要テーマとして、「グリーントランスフォーメーション」「デジタルトランスフォーメーション」「“人材”のトランスフォーメーション」、そしてこれらの組み合わせによる「無形資産の活用」をあげています。
これを踏まえ、2022年12月に「中期経営計画におけるDX戦略~デジタル創造期の3つの柱~」を発表しました。2024年度までに「デジタルプロ人材10倍」「デジタルデータ活用量10倍」「重点テーマ増益貢献100億円」とする目標が掲げられています。
そして、現中期経営計画の3年間を「デジタル創造期」と位置づけ、3つの柱でDXによる経営革新を実現するとしています。
1つ目のデジタル基盤強化では、「デジタル人材の育成」「アジャイルの浸透」「データ活用促進」の3つを課題としています。
デジタル人材の育成では、全従業員4万人を対象にデジタルリテラシーを高める受講制度を実施。社内eラーニングシステムにオリジナルの学習コンテンツを公開し、テストの合格者にはオープンバッジを付与しています。
さらに、化学・材料×デジタルの「マテリアル・インフォマティックス(MI=ITを活用して材料開発の効率化を図る技術)人材育成」、生産・製造×デジタルの「パワーユーザー育成」など現場密着型のデジタルプロ人材を2500人育成する計画です。
アジャイルの浸透では、イノベーション創出やDXのためのアプローチ手法・支援プログラム「Asahi Kasei Garage」を開始。社内外の交流を促進してDX基盤の強化とビジネスの創出を目指すデジタル共創ラボ「CoCo-CAFE」を、2021年には東京・田町に、2022年には宮崎・延岡にオープンしています。
データ活用の促進では、データマネジメント基盤「DEEP」を2022年4月より本稼働。実験表や報告書、過去データや機器・設備のデータを統合・蓄積し可用化する「R&Dデジタルプラットフォーム(DPF)」によるデータ活用の強化も進めています。
これらの取り組みにより、MI初級を受講した現場のメンバーがプログラミングスキルを習得し、高圧ガス検査資料の自動作成を行って5日かかっていた作業が5分で完了するようになったり、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを使った現場スタッフが独自のダッシュボードを作成して、日々現場の問題解決に活用するようになったりするなど、データ活用が促進されています。
デジタルツインによる「スマートファクトリー」で成果
2つ目の柱「経営の高度化」では、「データに基づく経営」「サステナビリティ経営」「R&D変革」「スマートファクトリー」を進めています。
例えば、サステナビリティ経営について、2022年からは「全社標準CFP(カーボンフットプリント=温室効果ガスの出所と排出量)算定システム」の開発に取り組み、削減ポイントをあぶり出して工場や事業の早期アクションにつなげる取り組みを行っています。
また、スマートファクトリーでは、3Dモデルやプロセスデータ、マニュアルなどを読み込んだデジタルツインを構築し、スマートグラスを使って運転の最適化、保守保全の高度化と遠隔管理、オペレーター作業の負荷低減を実現しています。
3つ目の柱「ビジネス変革」では、重点テーマとして「GG10」「事業モデル変革」「新規事業」「事業の共創」をあげています。
GG10の事業においては、DXの取り組みによって成果が出ているものがあるようです。例えば水素関連では、世界最大級の「アルカリ水電解システム」のプロセス設備をデジタルツイン化し、運転の最適化や保守保全の高度化と遠隔監視を実現しています。
環境配慮型住宅・建材においては、太陽光発電パネルの施工に対し、音を利用した独自の「ボルト締結管理システム」を開発。工程を3分の1に大幅短縮し、資材・労務費高騰のなかで施工効率化を推進しています。
また、新規事業の可能性として、ブロックチェーンを活用したプラスチック資源循環デジタルプラットフォーム開発プロジェクト「Blue Plastics」を展開しています。ファミリーマート店舗にて消費者参加型の実証実験を実施。現在、各種メーカーやソフトウェア会社など61社が参加するプロジェクトに発展しています。
元IBMのCIOが「デジタル共創本部」を牽引
これらの取り組みを支えている社内組織が、2021年4月に設置された「デジタル共創本部」です。IT統括部やインフォマティックス推進センター、スマートファクトリー推進センターなどを擁し、マーケティング&イノベーション本部や研究・開発本部と連携して、経営におけるDX定着と全社のDX推進を加速しています。
組織のミッションには「旭化成グループの強みである多様性を活かしてビジネスモデルを変革し価値の創造をリード」「各事業に加えて旭化成グループ全体の経営におけるDXの定着」「デジタルと共創による変革の加速」を掲げています。
組織トップは久世和資氏。日本IBMのCTO(最高技術責任者)を経て、2020年に旭化成の執行役員エグゼクティブ・フォローに就任。現在は同社取締役兼専務執行役員 DX統括 デジタル共創本部長を務めています。
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