横河電機のDX:世界初「AIによる化学プラント自動制御」に成功 DXコンサルティング会社を新たに設立 | NEXT DX LEADER

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横河電機のDX:世界初「AIによる化学プラント自動制御」に成功 DXコンサルティング会社を新たに設立

会社紹介ビデオ(2022年)短縮版 より

横河電機は1915年に電気計器の研究所として設立され、日本の電気計器国産化の先駆けとなった会社です。現在はプラントや工場におけるプロセス制御システムの分野で世界トップレベルのシェアを誇り、ABBやハネウェル、シーメンスなどと並び「グローバル・ビッグ6」の一角を占めています。

セグメント別の売上高は「制御」が9割超を占め、内訳は顧客ごとに、石油・ガス・電力・再生可能エネルギーなどの「エネルギー&サステナビリティ」、高機能化学・紙パルプ・鉄鋼などの「マテリアル」、医薬品・食品などの「ライフ」となっています。(NEXT DX LEADER編集部)

「自動化」を越えて人間の関与を最小限にする「自律化」へ

横河電機は2013年3月期以降、売上高4,000億円前後、営業利益率8%前後を推移してきました。2023年3月期は、主に為替の影響により売上高4,565億円など過去最高業績を更新しましたが、さらなる伸長に向けて事業ポートフォリオの変革を目指しています。

2021年5月には長期経営構想を見直し、パーパスを「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす」、10年後におけるお客さまへの提供価値を「Smart Manufacturing」「IA2IA」による「System of Systems(SoS)を通じた価値提供」としています。

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

「Smart Manufacturing」とは、デジタルトランスフォーメーションを通して製造業のパフォーマンスを向上すること。原料調達から物流までのサプライチェーン管理や、エネルギー供給、生産の最適化や運転管理、プラント設備管理などさまざまな業務を対象としています。

「IA2IA」とは横河電機の造語で、「Industrial Automation (自動化)からIndustrial Autonomy(自律化)への移行」という意味です。事前にプログラムされたタスクを自動的に実行するAutomationにとどまらず、オペレータの監視や指示をシステム自らが行うAutonomyによって人間の関与を最小限にする考え方です。

「System of Systems(SoS)」とは、運用や管理に独立性のあるシステムが連携し、単独では実現できない目的をシステム全体として実現することを指します。

長期経営構想の見直しとともに、2021年5月に中期経営計画「Accelerate Growth 2023」を発表。「社内オペレーション最適化とマインドセットの変革」など4つの基本戦略を掲げ、Digital Transformation(DX)を中心に置いた「既存事業の変革」「新事業とビジネスモデル変革への挑戦」「グループ全体最適による生産性向上」に取り組む方針を示しています。

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

Internal DXの成果をショーケース化し顧客に提供

前中期経営計画の「Transformation 2020」では、特にInternal DX(社内への価値創出)において「基幹系システムのグローバル展開による経営の可視化・簡素化」「グローバルデータレイク構築とBIツールによるデータドリブン経営」「RPAのグローバル展開による業務効率化」といった領域で成果をあげています。

2020年度末時点で残された課題としては、Internal DXのさらなる加速とともに、External DX(お客様への価値提供)における「お客さまのDXを推進するパートナーへの変革」「Industrial Autonomyの実現に向けた、DXの活用および強化」をあげています。

現中期経営計画の「Accelerate Growth 2023」では、DX方針について、従来から横河電機が得意としていた物理空間における「OTソリューション」と、仮想空間における「DX/ITソリューション」をつなぎ、お客様に独自のソリューションを提供するとしています。

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

OTとは「Operational Technology」の略で、工場などで利用されている運用・制御技術の総称。プラントの制御や運転の監視を行う「生産制御システム」や、製造工程の管理や運転員の支援を行う「製造実行システム」を含みます。

なお、横河電機では、2021年10月にNTTコミュニケーションズと業務提携を行い、製造業界のDXを支援する「共同利用型OTクラウドサービス」の共同開発および提供を行っています。

そして、Internal DXの目指すところを「YOKOGAWA自身のDigital Enterprise(DE)化によるDXのユースケース化と社員の生産性向上の実現」、External DXを「仮想空間におけるお客様のDE化と企業間取引のSystem of Systems(SoS)化の実現」としています。

なお、DX-Journeyにおける2021年末時点の自社を「Digitalization」(個別の業務・製造プロセスのデジタル化)と位置づけ、2023年度以降に「Digital Transformation」(組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化、“顧客起点の価値創出”のための事業やビジネスモデルの変革)を行い、2028年度以降に本格的な「IA2IA/SoS」を実現するとしています。

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

中期経営計画 Accelerate Growth 2023(2021年5月)より

「製造業DX支援」を行う横河デジタルを設立

DXの推進組織体制について、社員の生産性向上を図るInternal DXは「デジタル戦略本部」が担当し、External DXは、既存ビジネスのDX化と新規DXビジネスの創出は各事業本部が、お客さまへの提供価値向上は「デジタルソリューション本部」が担当するとしています。

2022 Yokogawa DX説明会(2022年12月)より

2022 Yokogawa DX説明会(2022年12月)より

デジタル戦略本部のミッションは「横河グループが、従来の製造業から、OT/ITが統合されたワールドクラスのソリューション・サービスカンパニーに変革することに貢献する」。そしてInternal DXの成功事例を、External DXのショールームとするとのことです。

横河電機では2022年3月、化学メーカーのJSRとの共同実証実験において、世界で初めてAIによる化学プラントを35日間自動制御することに成功しました。

2022 Yokogawa DX説明会(2022年12月)より

2022 Yokogawa DX説明会(2022年12月)より

これにより、実際のプラントにおいて「強化学習AIが安全に適用できる」こと、既存の制御手法が適応できずに運転員が制御で使用するバルブの操作量を自ら考えて入力する「手動制御のみでしか対応できなかった箇所をAIが制御できる」ことを確認しています。

2022年7月には「横河デジタル」を設立。製造業の現場でDX経験を積み重ねているYOKOGAWAの強みを活かし、成果に結びつくDX支援を提供し、IA2IA/Smart Manufacturingのビジネス加速とスケールアップを図るとしています。

2022 Yokogawa DX説明会(2022年12月)より

2022 Yokogawa DX説明会(2022年12月)より

日本の製造業における「製造DX」は、プラントごとに最適化されたオペレーション・システムはあるものの、プラントを超えた横断的なデータ連携が難しい点にあります。新会社はグローバル全体最適を実現する「製造業DX支援」を行う会社として、経営コンサルティングからクラウドシステム構築、運用・保守まで一貫したDX戦略を提供し、「System of Systemsインテグレーター」を目指すとしています。

2022年12月のDX説明会では、2021年度においてDX関連KPIが順調に進捗していることと、2023年度の目標を確認しています。


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YouTube:会社紹介ビデオ(2022年)短縮版

考察記事執筆:NDX編集部

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