AGCは1907年に旭硝子(あさひがらす)として創立された会社で、2018年に社名をAGCに変更しました。2022年12月期の売上高(IFRS。全社および消却を除く)は2兆359億円。ガラス事業が44.3%、化学品事業が39.1%、電子部材・ディスプレイ事業が15.1%ですが、主力のガラス事業の営業利益率は2.5%と低く、営業利益(同)の77.6%を化学品事業が生み出しています。
海外売上高比率は約7割、海外子会社従業員比率は約8割にのぼり、グローバルに事業を展開。フロート板ガラスや自動車用ガラスで世界トップシェア、車載ディスプレイ用カバーガラスや電子機器用超薄板ソーダライムガラス、ETFE樹脂(フッ素樹脂)などで世界No.1シェアを誇ります。(NEXT DX LEADER編集部)
DXで「事業ポートフォリオの変革」を目指す
AGCは2021年2月、長期経営戦略「2030年のありたい姿」を発表し、「独自の素材・ソリューションの提供を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するとともに継続的に成長・深化するエクセレント・カンパニーでありたい」というビジョンを掲げています。
そして「サステナビリティ経営の推進」による社会的価値の創出と「事業ポートフォリオ変革」による経済的価値の創出を通じて、企業価値を向上させていくとしています。
同時に、これを実現する戦略として、中期経営計画「AGC plus-2023」を発表。「事業ポートフォリオの変革」と「サステナビリティ経営の推進」の両立に向けて「DXの加速による競争力の強化」を推進していくとしています。
事業ポートフォリオ変革の方向性については、コア事業のうち収益性・資産効率に課題が残る建築用ガラスと自動車用ガラスは構造改革を実施。戦略事業領域の事業成長を加速させるとともに、新しい事業領域(エネルギー関連領域など)を探索する「両利きの経営」を追求するとしています。
これを実現するDXについては、最新のデジタル技術を活用した「業務プロセスの徹底的な効率化」(社内)と「お客さまや社会に対する新たな価値創出」(社外)の両面での推進を目指しています。そして、従来の「業務の効率化、コスト削減などのオペレーショナル・エクセレンス」に加え、
- 「素材メーカーとしての競争基盤の強化」
- 「社会やお客さまに新たな価値を提供するためのイノベーション」
をあわせた3つの領域でグローバルにDXを推進するとのことです。
なお、AGCではCTO(最高技術責任者)が設置されており、技術本部や知的財産部に加えて環境安全品質本部、事業開拓部、生産性革新推進部といった部門を所管しています。カンパニー制を導入しているAGCグループにおいて、CTOは技術や事業を軸にグローバルで横串を通し、グループの総合力を高める役割を担っています。
独自のMIデータベースを開発し2022年6月に本格運用開始
DXの具体的な取り組み事例については、AGCが2022年6月に経産省・東証の「DX銘柄2022」に選定された際のプレスリリースの中で紹介しています。
- 工場の操業データや場内在庫の見える化、品質検査の自動化、作業安全の確保などの分野でデジタル技術やAIを活用し、スマートファクトリーを推進しています。
- MI(マテリアルズインフォマティックス)やシミュレーション技術を活用し、素材開発に要する期間短縮はもとより、性能向上や環境対応型製品の開発を進めています。
- デジタルマーケティングにより、これまで把握できなかった潜在的なお客様のニーズを社内で共有し、省エネガラス等の拡販につなげています。
- これらの取り組みを支えるため、データサイエンティスト育成プログラム「Data Science Plus」をはじめとする施策を進め、業務知識に加え、高度なデジタルスキルを有する「二刀流人財」の育成に努めています。
スマートファクトリーについては、米Alteryx(アルテリックス)が提供するデータ分析プラットフォームを導入し、化学品プラントのスマート化を加速するというプレスリリースを2021年5月に出しています。2020年よりAlteryxをAGCのデータ収集・可視化システム「CHAMP(チャンプ) 」の開発にトライアル採用した結果、 開発期間が大幅に短縮され、システム開発費用の従来比80%以上削減を実現しているとのことです。
MIについては、AGC独自のMIデータベース「AGC R&D Data Input & Storage(ARDIS)」とマテリアルズ・インフォマティクス専用分析ツール「AGC Materials Informatics Basis Analysis Tool(AMIBA)」を開発し、R&D部門での本格利用を開始したと2022年6月の研究開発リリースで公表しています。
MIとは、材料開発や組成開発にAIやビッグデータ解析、データマイニングなどを活用すること。リリースによると、従来の素材開発は研究者の知識と経験に基づき実験を繰り返して新規材料を見出す方法が一般的で、開発に10年以上を要することもあったが、ARDISとAMIBAの開発により、データ入力から分析までを一貫して実行できる開発環境を研究者に提供でき、研究開発の効率化が加速しているとのことです。
2020年から始まった試験導入では、ガラス組成の発見や高機能コーティング材料設計のスピードアップなどの効果が実証され、さらに新たな視点に基づく新材料構造の探索にも取り組んでいるとのこと。地球温暖化係数(GWP)を従来の数百分の1レベルにまで小さくした環境対応型次世代冷媒・溶剤「アモレア」シリーズAS-300は、MIによって開発したものです。
また、化学強化ガラスの破壊パターン予測について、膨大な試作をシミュレーションに置き換えた数値解析による分析を行って大幅な開発時間の短縮が可能になった例は、世界初の試みとのことです。
独自のデータサイエンティスト育成プログラムで人財確保
デジタルマーケティングについては、建築用ガラス総合サイト「Glass Plaza(ガラスプラザ)」を2022年4月にリニューアルし、AGCグループの建築用ガラス製品情報や施工事例、イベントに関する情報を提供しています。
DX人財の育成について、コーポレートサイトでは「専門性の高い業務知識と高度なデータ解析スキルを併せ持つ「二刀流」デジタル人材を育成」すると説明しています。
具体的には、独自のデータサイエンティスト育成プログラム「Data Science Plus」を活用し、2022年末までにデータサイエンティストを3,500名、データサイエンスを用いて自部門の課題を解決可能な上級人財68名を育成済。さらに2025年までにデータサイエンティスト5,000名、上級人財100名を育成予定とのことです。
このほか、各事業部門の幹部層を対象とした研修も開講しています。「管理者向けDX研修」は自部門の戦略を踏まえデジタル技術を使ってコーポレート・トランスフォーメーションを実践するリーダーを育成するプログラムで、2023年までに100人がこのプログラムを受講予定です。「工場技能職向けデータ利活用研修」は、勘・コツ・経験に加えてデータを使った現場の「見える化」を進めることで、モノづくりの現場のオペレーショナル・エクセレンスを高めることを目的としたものです。
あわせて、<体制強化>として2023年1月にデジタル・イノベーション推進部を新設し、<組織風土改革>としてチャレンジする意欲、組織や国・地域を越えて学び合う文化を醸成する取り組みを行うとしています。
暗黙知を見える化するAIシステムを運用中
このほか、モノづくり分野の取り組みとしては、AIシステム「匠KIBIT」によるガラスの生産技術・技能の伝承と共有があります。これは熟練技術者・技能者の暗黙知を見える化し、組織内で共有・管理して、さらにそれらを基に新たな知識を生み出していくしくみです。
利用者の質問に対し、FRONTEOが独自開発した自然言語AIエンジン「KIBIT」が最も類似した質問にひもづいた熟練技術者の回答を提示。さらに適切な回答がない場合には、質問分野に精通した熟練技術者を匠KIBITが推定して回答を依頼、熟練技術者が新たな回答を追加してデータベースを充実させていきます。
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