オムロンのDX:自社デバイスと制御アプリ、実践ノウハウで顧客工場を支援。「人が活きるオートメーション」の実現目指す
オムロン 長期ビジョン「Shaping the Future 2030」 Brand Movie よりオムロンは1933年、立石一真氏が大阪市で創業した会社です。1960年に無接点近接スイッチ、1964年に電子式自動感応式信号機、1967年に無人駅システム、1971年にオンライン現金自動支払機を世界で初めて開発。その他にも、リアルカラー3次元視覚センサ、ウェアラブル血圧計など世界初、日本初の製品を数多く開発しています。
2023年3月期の売上高は8761億円で、事業セグメントは「IAB(制御機器事業)」「HCB(ヘルスケア事業)」「SSB(社会システム事業)」「DMB(電子部品事業)」の4つ。一般にはヘルスケアのイメージが強いですが、制御機器事業が売上高(消去前)の55.6%、営業利益(同)の68.8%を占めています。また、海外売上高比率が63%を占めるグローバル企業でもあります。(NEXT DX LEADER編集部)
「事業」と「企業運営・組織能力」両面のDXを推進
オムロンは2022年3月、長期ビジョン「Shaping the Future 2030」(SF2030)をスタートさせました。ビジョンステートメントは「人が活きるオートメーションで、ソーシャルニーズを創造し続ける」。この時点で、オムロンがDXを体現した会社であることがうかがえます。
経営環境の分析を踏まえ、「カーボンニュートラルの実現」「デジタル化社会の実現」「健康寿命の延伸」の3つを会社として重点的に取り組む社会課題(=成長機会)とし、事業を通じて4つの「社会価値」を創出していくとしています。
- インダストリアルオートメーション:「持続可能な社会を支えるモノづくりの高度化」への貢献
- ヘルスケアソリューション:「循環器疾患の“ゼロイベント”」への貢献
- ソーシャルソリューション:「再生可能エネルギーの普及・効率的利用とデジタル社会のインフラ持続性」への貢献
- デバイス&モジュールソリューション:「新エネルギーと高速通信の普及」への貢献
2022年度から2024年度まで3年間に実行する中期経営計画「SF 1st Stage」は、全社方針を「トランスフォーメーションの加速による価値創造への挑戦」と定め、「事業」および「企業運営・組織能力」の両面でのトランスフォーメーションに加え、「サステナビリティ」への取り組みを強化するとしています。
DXについては、企業運営・組織能力のトランスフォーメーションにおいて「DXによるデータドリブンの企業運営」という項目で取り上げており、4つの基幹業務領域で「付加価値の拡大」と「業務の効率化」を推進していくとしています。
- バリューチェーン:情報の連結による事業スピードの向上とコスト改善力の獲得
- 経営管理:成長ドライバと事業リスクのタイムリーなマネジメントによる企業価値の向上
- タレントマネジメント:グローバル全社員の見える化を通じた適所適材による組織能力の最大化
- ガバナンス:グローバルエクセレントカンパニー水準のガバナンスと生産性の両立
2022年4月のプレスリリースによると、オムロンはデータドリブンな企業運営に向けて日本IBMとパートナーシップを強化し、CSPJを推進していくと発表しています。
CSPJとは「コーポレートシステムプロジェクト」の略で、2029年度までにIT基盤の刷新のみならず、業務プロセスの標準化や将来的なデータ活用までも視野に入れた「グローバルの経営システム基盤の構築」を目指しています。
制御機器事業が進める「i-Automation!-Next」
オムロンの取り組みの特徴は、ビジョンステートメントをはじめとして、すべての経営および事業の要素にDXが関わっていることです。特別なDX戦略は設けられておらず、各事業戦略でDXが取り組まれています。
中核事業の制御機器事業(IAB)では、事業ビジョン「オートメーションで人、産業、地球の豊かな未来を創造する」を設定し、2022年度から3つの重点取り組みを進めていますが、このうち2つはDXと特に関係が深いものです。
1つ目の「i-Automation! の進化(i-Automation!-Next)」とは、2016年に提唱した独自のモノづくりコンセプト「i-Automation!」を進化させ、製造業が直面する
- 資本生産性と柔軟性の両立:人に頼りすぎる現場のリスク拡大
- 経済合理性と環境還元の両立:脱炭素という経営リスク
- 技術進化と人の習熟の両立:人財確保と早期の戦力化
- 労働生産性と人の尊厳の両立:ワークライフバランスや働きがい
という4つのジレンマを、オートメーションにおける3つのイノベーション「integrated:制御進化」「intelligent:知能化」「interactive:人と機械の新しい協調」を融合させて解決するアプローチです。
具体的には、オムロンのデバイスと制御アプリケーション、ノウハウを活用した以下のソリューションを提供しています。
- 人を超える自働化:匠の技と感性の再現/変化を察知する自律設備/エネルギー制御と融合し進化する生産ライン
- 人と機械の高度協調:人と機械のシームレス連結/知能化され人を支援する現場/自在に協調する現場
- デジタルエンジニアリング革新:センシング&コントロール技術をベースに、デジタル空間上に“現場”で動く“現物”を再現し遠隔地からでも“現実”を正確に把握できる環境を構築する「デジタル三現主義」を実践し、上記2つのソリューションを下支えする
「i-BELT」でモノづくりをコトビジネス化
制御機器事業(IAB)の重点取り組みの2つ目は「サービス事業拡大」で、2017年から現場データ活用サービス「i-BELT」を提供しています。
顧客工場のモノづくり知見を踏まえ、オムロンがFA業界で現場革新に貢献してきた世界最多クラスの制御機器や革新的なアプリケーション、自社工場で培った現場実践ノウハウを活用し、現場に精通したスペシャリストチームが解決策を提案する「共創」サービスです。
顧客の課題に合わせ、生産性向上のための「製造管理」、歩留まり向上のための「品質管理」、稼働ロス低減のための「設備管理」、エネルギー効率UPのための「エネルギー管理」の4つの価値カテゴリーのサービスを提供します。外部パートナー企業の商品・サービスと連携することもあります。
「i-BELT」は、モノの製造・販売からサービスの提供への転換という意味で、モノづくりの「コトビジネス」化といえるでしょう。
ヘルスケア事業(HCB)は「Going for ZERO 〜予防医療で世界を健康に〜」を事業ビジョンに、「循環器」「呼吸器」「ペインマネジメント」領域において、脳卒中や心不全などの「脳・心血管疾患の発症ゼロ」、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの「呼吸器疾患の増悪ゼロ」、膝痛や腰痛などの「慢性痛による日常生活の制限ゼロ」の3つのゼロにチャレンジしています。
この実現に向けて、中国・インド市場の深耕により血圧計や高速の予測式電子体温計、ネブライザなどの販売をグローバルに拡大するほか、日本初となる「心電計付き上腕血圧計」(2022年3月発売)と専用アプリによる「家庭での心電図記録文化」創造へのチャレンジ、米英で保険適用化されている「遠隔モニタリングサービス」の利用者拡大、脱炭素・環境負荷低減に向けた取り組みを行います。
全国のローソンの統合保守体制を構築した実績も
社会システム事業(SSB)では、事業ビジョンを「Design Next Social Structure ~ソーシャルオートメーションで、 人と社会を有機的につなげ“ソーシャルグッド”を生み出す~」と掲げています。
SF 1st Stageで注力する事業は、住宅・産業・モビリティの3領域における「再生可能エネルギー制御」と、社会インフラ領域における現場システムの効率的な運用を支援する「マネジメントサービス」の2つです。
後者の「マネジメントサービス」の事例としては、全国1万5000店舗を運営するローソンにおいて、異なるメーカーの機器をすべて一元化し統合管理するプロジェクトを立ち上げ、全国ワンストップで対応可能な統合保守体制を8ヶ月で構築した実績があります。
電子部品事業(DMB)では、事業ビジョンを「我々の“繋ぐ・切る”技術を軸に、顧客と共に社会課題を解決する」とし、「DC機器・高周波機器によるソリューション」を提供します。主力のDCパワーリレーは、直流回路の高電圧・高容量緊急遮断を行う部品です。
具体的には、人が安全に操作できるEV充電器や、蓄電システムにおける低発熱・安全遮断、半導体の高速化・高容量化に伴う高周波対応ソリューション、エンターテイメント業界での感触インプット/アウトプットデバイスといったサービスです。
このようにオムロンのDXの取り組みは、社内の「企業運営・組織能力」のみならず、「事業」を通じた顧客および社会への価値提供にも及んでいます。
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