大林組は1892年、創業者の大林芳五郎が土木建築を請け負う個人企業として大阪市に創業したのが源流で、1918年に株式会社化されました。1972年にインドネシアにジャヤ大林を設立し、その後は東南アジアと北米を中心に海外展開をしています。
現在のセグメントは6つ。2023年3月期の外部顧客への売上高の構成比は、「国内建築事業」が53.3%と過半数を占め、「海外建築事業」と「国内土木事業」がそれぞれ17.3%、「海外土木事業」が5.3%、「不動産事業」が4.2%、「その他」が2.6%でした。(NEXT DX LEADER編集部)
7つの経営基盤戦略のひとつに「DX戦略」掲げる
大林組の2023年3月期の業績は、工事損失引当金計上の影響で利益が大きく落ち込んだ前期から、不動産事業における大型物件の売却などもあり増収増益。2024年3月期の業績予想は、売上高が2兆2800億円と過去最高となる一方、営業利益が740億円、当期純利益が550億円と前期比減となる見込みです。
大林組は2022年3月、2023年3月期を初年度とする5ヶ年経営計画「大林グループ中期経営計画2022」を策定しました。
「事業基盤の強化と変革の実践」をスローガンに、「建設事業の基盤の強化と深化」「技術とビジネスのイノベーション」「持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充」「持続的成長のための事業ポートフォリオの拡充」の3つを基本戦略としています。
このうち「技術とビジネスのイノベーション」においては、実現の方向性のひとつである「技術のイノベーション」に、「デジタル技術とロボティクス技術等のイノベーションによる革新的な建設生産システムの構築(生産性の向上)」をあげています。
また、「技術とビジネスモデルを活用した社会課題の解決へのアプローチ、顧客提供価値の創造」の実現に向けた手法として「DXやオープンイノベーションによる加速」を示しています。
さらに、基本戦略の実現を支える7つの経営基盤戦略のひとつとして、「DX戦略」をあげています。方向性を「事業基盤の強化と変革の実践に向けたDX」とし、推進フェーズを、デジタル化を中心とした「デジタイゼーション/デジタライゼーション」と、変革を伴う「デジタルトランスフォーメーション」の2つに分けています。
デジタイゼーションから「変革の実践に向けたDX」へ
DX戦略推進の1つ目のフェーズ「デジタイゼーション/デジタライゼーション」では、取り組むテーマを「時間外・長時間労働の縮減、ムリ・ムダ・ムラの解消」「工事量最盛期に対応できる施工能力の獲得」「社内データ活用と顧客提案力の強化」の3つとしています。
具体的な取り組みとしては「BPRによる抜本的な業務プロセスの変革」「BIM生産基盤への完全移行による建設事業の情報基盤強化」「全社的DX:社内システムのスリム化、データプラットフォームの整備/業務の自動化・省力化、インテリジェントオートメーションの採用」をあげています。
2つ目のフェイズ「変革の実践に向けたDX」では、新たなテーマとして「カーボンニュートラル、ウェルビーイングといった社会課題の解決に資するデジタル技術の追求」「建物とデジタル技術の融合による快適な空間・付加価値の提供、ウェルビーイングへの貢献」「新たな収益確保、雇用機会創出に向けたDXによる新領域ビジネスの開拓」の3つをあげています。
また、DX領域の新たな事業機会としては、以下のものをあげています。
- スマートシティ、スマートビルマネジメント
- デジタルツイン都市、デジタルトリプレット
- ロボット・自動施工技術の革新的な建設システム(安全性確保、高品質、短工期、生産能力の向上)
- 建設ライフサイクルマネジメントシステム
デジタル空間で街全体を3次元化した「スマートシティ」を推進
事業機会の1つ目「スマートシティ、スマートビルマネジメント」について、大林組では2022年2月、スマートシティ関連事業に向けたソリューションを提供する「スマートシティ推進室」を営業総本部配下に新設しています。
大林組は2012年、3次元モデルと建築情報を統合化したBIM(Building Information Modeling)を発展させ、街全体を3次元化したSCIM(Smart City Information Modeling)の構築を進めています。
SCIMでは、BIMの3次元情報を駆使することで街全体をコンピューター上で詳細に再現。街のあらゆる面を「見える化」し、行政やエネルギー事業者、発注者、設計会社、施工会社などと共通の情報を一元化し、コーディネートするプラットフォームとなります。
スマートシティ推進室では、2025年大阪・関西万博やスマートシティ関連事業に対し、利用者の視点によるデータ活用を通じたソリューションの提供を行います。また、そのために、全社のスマートシティに関する施策の立案や推進、情報の収集などを行い、建設のみならず関連する新規事業の創出と推進を図るとのことです。
事業機会の2つ目「デジタルツイン都市、デジタルトリプレット」について、大林組では2021年発行の広報誌「季刊大林No.61」において、みんなの集合知によって街がつくりあげられる“「OWNTOWN(オウンタウン)」 構想”を策定し、ウェブサイトに掲載しています。
構想では、国や自治体が主導する従来の都市計画や街づくりでは一般市民の意思が反映される機会が少ないという問題意識のもと、デジタルツインの活用によって、さまざまな思いやアイデアをデジタル空間で具体化できると指摘。シミュレーションを重ねることで、相反する条件やニーズも含めて、最もバランスの取れた計画を作ることができる、としています。
事業機会の3つ目「ロボット・自動施工技術の革新的な建設システム」について、大林組では2022年7月、3Dプリンターとロボット打設技術によるコンクリート構造物の自動化施工システムを開発したと発表しました。
セメント系材料を使用した3Dプリンターによる外殻製造技術と、コンクリートの吹き付け/流し込みをロボットにより行う技術を用いて、コンクリート構造物の自動化施工システムを開発。プレキャストコンクリートの製造における省力化と工程短縮を実現しています。
DX本部を設置しトップダウンで業務変革を推進
事業機会の4つ目「建設ライフサイクルマネジメントシステム」について、大林組では1997年に「O・LCC」(Obayashi Life Cycle Cost evaluation system)をすでに開発しています。
建物のLCC(ライフサイクルコスト~建物生涯費用)を短期間でかつ容易に的確な評価を行い、最適な設計や既存建物のリニューアルを提案しています。LCCとはライフサイクルコスト=建物の生涯にかかる全費用のことで、建設費以外の修繕更新費や光熱水費、保全費や一般管理費、解体費などを含みます。
建設費はLCCの全体の15~20%にすぎず、大林組では、省エネ・省資源化による光熱水費の削減や、長寿命化による修繕更新費の低減、適切な維持管理計画の策定による保全費の削減などを提案しています。
なお、DX戦略においては、フェーズ共通の課題として「情報セキュリティの強化とデジタル人材の育成・確保」があげられています。
また、体制面では、DX戦略の立案から推進、監理までの権限を有するトップダウン型の「DX本部」を2022年2月に設置しました。DX本部は、IT基盤やシステム構築、生産デジタル、DX推進、BPR、BIM/CIMの全ての業務機能について、全体最適の意思決定と迅速性をもってデジタルによる業務変革を強力に推進するとのことです。
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