トクヤマは1918年、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)国産化のため山口県徳山町(現周南市)に日本曹達工業として創業されました。1936年に徳山曹達に社名変更し、1938年にはソーダ灰事業の副産物を活かしてセメント製造を開始。1970年代には電子材料、ファインケミカルなど高付加価値分野へ進出します。
1980年代からは海外拠点も行い、1994年に商号をトクヤマに変更。現在、ソーダ灰と塩化カルシウムの製造を継続する唯一の国産メーカーで、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の生産能力は国内2位の規模。半導体用多結晶シリコンのシェアで国内首位、世界的にもトップクラスを誇ります。(NEXT DX LEADER編集部)
「電子」「健康」「環境」の成長事業に注力
トクヤマの報告セグメントは、苛性ソーダ、塩化ビニル樹脂などの「化成品」、セメント、生コンクリートなどの「セメント」、半導体用多結晶シリコンや乾式シリカ、電子工業用高純度IPA(イソプロピルアルコール)などの「電子材料」、メガネレンズ用フォトクロミック材料や歯科器材、医療診断システムなどの「ライフサイエンス」、イオン交換膜や廃石膏ボードリサイクルなどの「環境事業」の5つです。
2023年3月期のセグメント別売上高(除く消却・全社)の構成比は、化成品が31.9%、電子材料が25.1%、セメントが16.0%、ライフサイエンスが10.3%、環境事業が3.8%、その他(海外でのグループ製品の販売等)が13.0%でした。
同セグメント営業利益は、セメントが37億円の赤字、環境事業が利益ゼロ。黒字部分はライフサイエンスと電子材料、化成品が約3割ずつ、その他が8.7%でした。これにより、営業利益率はライフサイエンスが19.5%と突出し、次いで電子材料が7.7%、化成品が5.9%となっています。
トクヤマの2023年3月期の売上高は、3,517億円で過去最高を更新。その一方で、営業利益は143億円と5期連続減益となりました。
2021年2月に「トクヤマの新ビジョン 中期経営計画2025」を発表。「これまでの延長線上にない事業の構築・成長が必要」「収益力・競争力の確保は必須」という認識の下、「事業ポートフォリオの転換」「地球温暖化防止への貢献」「CSR経営の推進」の3つの戦略方針を示しています。
成長事業を「電子」「健康」「環境」に再定義し、成長事業の連結売上高比率50%以上(2023年3月期は4割弱)、2030年度には60%以上を目標に設定。一方、内需減退により縮小が予想される「化成品」「セメント」「その他」は、効率化を進めて持続的なキャッシュを創出するとしています。
「研究開発DX」でマテリアルズ・インフォマティックスに成果
中期経営計画2025は、重要課題と施策として「技術」「効率化」「国際展開」の3つをあげています。そして、効率化の中でDXに触れ、「DX推進などにより、全社規模で効率的なオペレーションを追求」するとしています。
DX推進については、「Phase1:企業存続への施策実行」「Phase2:変革への基盤整備」「Phase3:変革の推進」の3つの段階を設定し、最終段階では「MIによる開発速度向上」「顧客視点でのビジネスモデル創出」を図るとしています。
なお、MIとはMaterials informatics(マテリアルズ・インフォマティックス)の略で、人工知能(AI)をはじめとするIT技術を使って材料開発の効率を高める取り組みを指します。
2021年4月には、経営企画本部に「DX推進グループ」を新設し、変革を牽引するDXキーパーソンを各部門に配置。「ワークスタイルDX」「コーポレートDX」「研究開発DX」「製造DX」「SCM」「ビジネス変革」「デジタルプラットフォーム構築」「全社DX推進取り組み」の8つのDXカテゴリーを設け、具体策についての推進プロジェクトチームを発足させています。
製造DXでは、工場のスマート化を目標に、プラントの運転管理の高度化と操業の安定化を図るとともに、画像認識技術とAIを活用して原料から製品までの全工程における品質トレーサビリティを強化しています。
ワークスタイルDXでは、ペーパーレス化を前提とした効率的で働きやすい環境づくりに取り組んでいます。また、デジタルツールの導入とともに業務のあるべき姿を目指して変革を進め、全社員向けDXリテラシー教育も進めるとのことです。
研究開発DXでは、MIを適用した新材料の開発に着手しており、半導体分野などで成果が出始めているとのこと。加えて、実験ノートの電子化による実験データの共有を進め、研究者間の情報連携によるイノベーション創出を目指しています。
4つの改革で「DX推進」を格上げ、本格推進
トクヤマは2023年6月に開催した「2023年度経営説明会」の中で、資源価格の乱高下や為替の大きな変動など、計画策定時から事業環境が大きく変化していることを指摘。売上高目標を3,200億円に維持しつつ、営業利益目標を400億円から450億円、ROE目標を10%以上から11%以上に引き上げるなどの計画見直しを行っています。
そして、最重要課題とされる「事業ポートフォリオの転換」について「データとデジタル技術の利活用によりDXを推進」としてDXの位置づけを明確化。これまで「トクヤマDXプロジェクト」とされていた呼び名を「TDX PJ」にあらためています。
代表取締役社長の横田浩氏は、トクヤマレポート2023(2023年7月発行)の中で、中期経営計画2025を成功裏に完遂するために必要な変革を「組織風土改革」「研究開発強化」「DX推進」「国際展開加速」の4つとしています。
なお、計画策定時には重要課題と施策として「技術」「効率化」「国際展開」の3つがあげられていましたが、効率化の手段とされていたDXを、あらためて「DX推進」と定義し直し格上げしたうえで、横田社長は次のように述べています。
デジタル技術の導入を通じて業務の効率化を図るだけでなく、サプライチェーン管理システムの高度化や各製造拠点における生産性の向上など、多彩な分野でAIやIoTを活用し、仕事のやり方を根本から変え、トクヤマの競争力を一段と強化していきます。さらに、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)も活用し、研究開発の迅速化に役立てていく考えです。
これに先立ち、トクヤマは2023年1月、グループにおける「ITガバナンスの強化」や「サイバーセキュリティ基盤の整備」「IT支援業務の拡充」を一体となって推進することを目的に、情報システム関連業務を担っていたトクヤマ情報サービスを吸収合併しています。
メールマガジン「NEXT DX LEADER」をメールでお届けします。 DX関係の最新記事、時事ネタなどをお送りする予定です。