ニッスイの長期ビジョンとDX:「生産性の革新」と「新規事業の開拓」でデジタル技術を活用 | NEXT DX LEADER

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ニッスイの長期ビジョンとDX:「生産性の革新」と「新規事業の開拓」でデジタル技術を活用

ニッスイブランドムービー より

創業110年以上の歴史があり、国内トップクラスの売上利益を誇るニッスイ(2022年12月に日本水産より社名変更)。2030年までの「長期ビジョン」を掲げ、達成に向けた施策の中に「IT活用」と「DX」を位置づけています。

課題のひとつは「生産性の革新」で、養殖事業におけるAI/IoTの活用や、食品加工事業におけるスマートファクトリー化、需要予測やホワイトカラーの業務効率化に向けたオペレーション改革に取り組みます。

もうひとつは、物流事業における「水産物の流通プラットフォーム構築」で、これに関する新会社を最近立ち上げています。(NEXT DX LEADER編集部)

営業利益で国内1位。バリューチェーンを幅広く握る

ニッスイは、1911年に創立された田村汽船漁業部を源流とする歴史ある大手水産会社です。2022年3月期の売上高は、業界トップのマルハニチロに次いで2位。営業利益はマルハニチロを上回る業界1位で、世界的にも最上位クラスの規模を誇ります。

ニッスイが手掛ける事業には、以下の4つです。

・水産事業:漁撈(水産物をとる)・養殖・加工・商事
・食品事業:加工・チルド
・物流事業:冷蔵倉庫・配送・通関
・ファインケミカル事業:医薬原料・機能性原料/食品および診断/検査薬の生産・販売

セグメント別の売上高構成比は、食品事業が47.3%、水産事業が41.5%、それ以外の事業が11.2%で、主要2事業が大半を占めています。

漁撈や養殖などの資源アクセスから、加工・生産、物流まで、水産業のバリューチェーンを幅広く握っていることが強みです。

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

一方で、新規事業にも力を入れており、ファインケミカル事業ではDHA・EPAといった「健康領域商品」や、フローズンチルドなどの「個食・簡便対応カテゴリー」、「代替タンパク」といった新しい商品を開発・提供しています。

2030年までに売上1兆円、海外比率5割を目指す

ニッスイでは長期ビジョン(2030年ありたい姿)として、「人にも地球にもやさしい食を世界にお届けするリーディングカンパニー」を掲げています。

そして、経営課題の2本柱として「事業ポートフォリオ・マネジメント強化」「サステナビリティ経営推進」を挙げ、企業価値の向上を図るとしています。

具体的な数値目標は、2021年に6936億円だった売上高を2030年までに1兆円とすること。海外売上比率を34%から50%に引き上げることを目指しています。

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

加えて、2021年に270億円だった営業利益を2030年までに500億円に増やし、「水産」「食品」に加え「ファインケミカル」を事業の3本目の柱とするとしています。

各事業における課題は、水産事業は「養殖強化」「食材化推進」「海外成長加速」、食品事業は「海外成長加速」「新規カテゴリー(の確立)」、ファインケミカル事業は「医薬原料(事業の伸長)」「海外販売強化」となっています。

基本戦略に「生産性の革新」「新規事業開拓」を掲げる

さらにニッスイでは、長期ビジョンを達成する3つのステップの1つ目として、2022年~2024年の3年間を対象とする中期経営計画「Good Foods Recipe1」を推進中です。この中で、DXの取り組みに関する方針を発表しています。

中期経営計画では、数値目標として、2024年度に売上高7,900億円、営業利益320億円、当期純利益225億円の数値目標と、ROIC(投下資本利益率)を5.5%以上、ROE(自己資本利益率)を10.0%以上というKPIを掲げています。

この目標を達成するために、ニッスイでは「①サステナビリティ経営への進化」「②グローバル展開加速」「③新規事業・事業境界領域の開拓」「④生産性の革新」「⑤財務戦略」「⑥ガバナンス強化」という6つの基本戦略を立てています。

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

6つの基本戦略のうちDXと直接の関わりが最も強いのは、4つ目の「生産性の革新」です。ニッスイでは、「重点成長領域での圧倒的差別化」「オペレーション変革」という“攻めと守り”両面の課題を挙げ、これを達成するために「Digital Transformation」と「IT活用」に取り組むとしています。

AI/IoT活用やスマートファクトリー化に取り組む

「生産性の革新」に向けたひとつ目の課題「重点成長領域での圧倒的差別化」の具体的な取り組みを見ると、重点成長領域である「養殖」と、体質強化領域の北米水産加工商事をはじめとする「加工」に注力する姿勢が見えてきます。

・養殖事業モデルの先鋭化
・ITを活用した水産加工技能の伝承
・スマートファクトリー化(食品:SmartWork2025活動、ファインケミカル生産機能 等)

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

養殖事業の先鋭化では、「尾数カウンタ」「魚体重推定システム」「養殖環境の水質モニタリングシステム」においてAI(人工知能)/IoT(モノのインターネット)の活用が想定されています。

ITを活用した水産加工技能の伝承については、具体的な取り組みが書かれていませんが、製造業における技能伝承の方法として一般的に、動画マニュアルの作成やチャットボットの作成などが行われており、デジタルツールの活用が想定されます。

スマートファクトリーとは、ドイツで提唱された「インダストリー4.0」を具現化した工場モデルのことで、工場のさまざまな機器にセンサーを取り付けてデータを取得し、データ活用によって業務の生産性を向上させる取り組みです。

ニッスイの「SmartWork2025活動」は、2025年までに工数の削減や物的生産性の向上を目指す取り組みを指しており、ITを活用したスマートファクトリー化によってこれを実現していくものと見られます。

「水産物の流通プラットフォーム」で量販店を支援

「生産性の革新」に向けたもうひとつの課題は「オペレーション変革」ですが、こちらはITを活用した一般的な業務改善の取り組みと見られます。

・SCM(=サプライチェーンマネジメント)オペレーション効率化、AIによる需要予測
・スマートマーケティング(SFA=営業支援システム)
・研究開発におけるデータ活用強化
・ホワイトカラーの業務効率化(RPA=自動化技術、ペーパーレス等、業務変革PJ)
・働き方改革

またDXは、3つ目の基本戦略である「新規事業・事業境界領域の開拓」との関わりもあります。特に、物流事業における「水産物の流通プラットフォーム」の展開には、デジタル技術の活用が欠かせません。

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

ニッスイ「長期ビジョン/中期経営計画」(2022.4.20)より

ニッスイは2022年9月に、グループ会社の既存建物内に流通プロセスセンターを併設する形で株式会社アクアプラットフォームを設立しています。

鮮魚加工従事者の減少等により、量販店の水産売場等では水産物の軽加工を外部化する動きが強まっているとのこと。これに加えて、Eコマースではピッキング(保管されている商品を集める作業)や配送などの物流機能も求められていています。

そこで新会社では、量販店のバックヤードとセンター業務を代行し、「商品の保管管理」「受発注管理」「水産品の軽加工」「値付け」「商品の温度帯変更」「店舗別商品仕分け(ピッキング)」「商品出荷」などを受託します。

この事業により、ニッスイでは受託業務の売上のほか、日水物流の冷蔵倉庫の稼働向上を図り、将来的にはグループ企業各社の食材化商品の取り扱い拡大も期待できるとのことです。

「水産資源の持続的な利用」にもITが欠かせない

最後に、基本戦略の冒頭に掲げられている「サステナビリティ経営への進化」に向けて、「水産資源の持続的な利用」という水産業に関わる根本的な課題がありますが、これを進めるためにもITの力が不可欠です。

2020年に施行された改正漁業法(水産改革関連法)により、科学的手法を用いた「水産資源の持続的な利用」「漁獲可能量による管理」が求められるようになりました。

具体的な手法としては、TAC(Total Allowable Catch、漁獲可能量)制度の対象とする魚種を全漁獲量の6割から7~8割に引き上げることを目指すほか、漁業者ごとに漁獲量を割り当てるIQ(Individual Quota、個別割当)方式が採用されることになっています。

漁業の現場では魚群探知機といった高度な機器が使われていますが、魚を効率的に多く獲るためにしか使われていませんでした。このようなデータを、漁獲量の管理や加工、販売といったプロセスとも共有していくことが今後求められていくでしょう。

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YouTube:ニッスイブランドムービー

考察記事執筆:NDX編集部

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