三菱マテリアルのDX:「MMDX2.0の実行力強化」でIT機能子会社を新設 ものづくり領域の取り組み推進
MITSUBISHI MATERIALS Advanced Products Campany より三菱マテリアルは1871年、三菱グループの源流となった九十九商会が紀州新宮藩の炭鉱を租借して鉱業事業に着手したことから始まります。1918年に三菱鉱業を設立、1973年に三菱鉱業と三菱セメント、豊国セメントの3社が合併して三菱鉱業セメントが誕生。さらに1990年に三菱金属と合併し、現在の社名となっています。
報告セグメントは2023年3月より、銅加工品・電子材料の「高機能製品」、超硬製品の「加工事業」、非鉄金属精錬の「金属事業」、エネルギー関連・環境リサイクル関連の「環境・エネルギー事業」、セメントやエンジニアリングの「その他の事業」の5つとなりましたが、現在はさらに再編が行われています。(NEXT DX LEADER編集部)
直近の目標は「ROIC(投下資本利益率)の改善」
2023年3月期のセグメント別売上高(除く調整額)の構成比は、金属事業が56.1%と過半数を占め、高機能製品の27.2%を加えると8割を超えます。同セグメント利益は、金属事業が46.1%、加工事業が23.7%、高機能製品が13.6%などと続きます。
一方、同セグメント営業利益率では、環境・エネルギー事業が15.0%と最も高く、次いで加工事業が10.0%。売上利益の半数を占める金属事業の利益率は2.5%、高機能製品は1.5%と低く、収益性の向上が課題となっています。
三菱マテリアルは2023年2月、2023年度から2030年度までを対象とする「中期経営戦略2030」を策定。目指す姿に「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」を掲げ、強みをもとに金属資源の循環を構築。対象範囲、展開地域、規模の拡大により、バリューチェーン全体での成長を目指します。
そして、企業価値向上に向けて「事業ポートフォリオ経営」を推進。成長性と収益性の2軸で事業ポートフォリオを管理し、経営資源の配分を最適化するとしています。
2023~2025年度のPhase1では「競争力強化」局面として、ROIC(投下資本利益率)改善による収益性向上を目指し、2026年度以降は「事業拡大」局面として、全事業(長期の先行投資を要する資源事業含む)でROICスプレッドがプラスに転じる(ROICが資本コスト(WACC)を上回る)状況を目指します。
なお、前述のセグメントについては2023年4月1日付けで、「環境リサイクル事業」を金属事業カンパニーに統合し、「再生エネルギー事業」を戦略本社に新設する再生可能エネルギー事業部に移管。環境・エネルギー事業カンパニーを廃止し、製錬・資源循環による効率化を図り、事業価値向上を加速するとしています。
そのうえで、中核事業の金属事業カンパニーは、「廃基板(E-Scrap)リサイクル処理能力 世界No.1」「家電リサイクル処理量 国内No.1」の強みを活かし、2030年度の目標を「非鉄金属の資源循環におけるリーダー」としています。
19のテーマを選定し「MMDX実行計画」を推進
中期経営戦略2030では、各カンパニーにおける事業戦略のほかに「経営基盤強化」の項目を立て、「ものづくり戦略」「研究開発戦略」「人事戦略」「DX戦略」「IT戦略」の5つの個別戦略を策定しています。
三菱マテリアルグループでは、前中期経営戦略(2020年3月公表)からDXの積極的な取り組みを行っています。データとデジタル技術を活用し、以下の3本柱でDXを推進しており、この柱は新しい中期経営戦略でも引き継がれています。
- ビジネス付加価値向上:顧客との連携を強めるとともに、製販連携の強化、開発上市の迅速化を実現
- オペレーション競争力向上:IoT、AI等のデジタル技術を活用し、攻めの品質、ものづくり力別格化を図る
- 経営スピード向上:徹底したデジタル化によるデータ共有・活用によって、迅速な経営とガバナンス強化の両立を実現する
2020年4月には、DX推進本部およびCDO(最高デジタル責任者)を新設。DX推進本部は、「今を強くする:既存事業をデジタルで強化、業務改革」「明日を創る:新たなビジネス・サービスを共創する」「人を育てる:改革を継続的に進めるための仕組みと人材を強化する」の3つのミッションを掲げています。
そして、上記3本柱を推進するために、DXの重要視点である「顧客接点強化」「プロセス連携の強化」「経営スピードアップ」と、DXの推進基盤となる「システム・データ基盤の整備」「人材育成・風土改革」に照らして、優先的に取り組むべきテーマを選定し、事業部門とIT/デジタル部門が一体となった活動を進めています。
これらの取り組みは、三菱マテリアルグループのDX=「MMDX」と名付けられ、21のDXテーマを選定するとともに、施策実現に向けた詳細検討を行い、2020年度から2025年度までの6年間の「MMDX実行計画」を策定しました。2022年度からはテーマを19に整理し、あわせて体制強化、プログラムマネジメント(PM)の強化を図っています。
E-Scrapのビジネスプラットフォームを運用中
MMDXの事例としては、E-Scrapビジネスプラットフォーム「MEX」(Mitsubishi Materials E-Scrap EXchange)があげられます。E-Scrapとは、金や銀、銅、パラジウムなど有価金属が高い濃度で含まれる各種電子機器類の廃基板などのこと。三菱マテリアルグループでは、これを世界中から受け入れ、精錬して有価金属へと再生する「資源循環事業」を行っています。
「MEX」は、納入予約から買鉱価格の確認までの取引情報をオンラインで提供する、業界初のプラットフォーム。2021年12月に運用を開始し、取引の透明性やステークホルダーの利便性を高めることに貢献しています。
ユーザーは海外を含めたE-Scrapビジネスに関わるリサイクラー(再資源化事業者)や商社。2022年4月には受領書の電子化、2022年10月には「MEX」上で引合い相談を受け付けられるようにし、2023年2月にはスマートフォン表示に最適化されたデザイン対応を行っています。
このような成果が出始めている一方、テーマ設定や実行力不足、現場従業員のMMDXの理解浸透不足などが課題になっており、2022年度からは「MMDX2.0」として「ものづくり領域の強化」「実行体制の強化」「ボトムアップ活動の活性化」の3点に重点的に取り組んでいます。
具体的には、これまでものづくり・R&D戦略部が取り組んできた「スマートファクトリー活動」をDXテーマとして取り込み、DXの実行主体である事業部門にDX推進本部のスペシャリストを異動させました。
また、グループの業務受託子会社であるマテリアルビジネスサポートからIT機能を分離し、本社DX推進部の一部従業員も合流したシステム機能会社「三菱マテリアルITソリューションズ」を新設。DXの中心となるデジタル領域の強化と、従来型のIT領域の実行力強化と先進技術活用を推進しています。
新会社は、中期経営戦略2030で掲げた、事業を支えるITモダナイゼーションの推進と、全社デジタル化戦略としての「MMDX2.0」をはじめとしたグループ施策の実行にも取り組んでいくとのことです。
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