村田製作所のDX:自社の経営変革とともに、ノウハウを「IoTソリューション」として顧客に提供
Global No.1 部品メーカーを目指して【村田製作所ブランドムービー】 より村田製作所はスマートフォンやPCといった電子機器向け電子部品を製造する会社です。創業は1944年。主力製品の「積層セラミックコンデンサ」は電気を蓄えたり電気の流れを整えたりする電子部品で、世界シェアは40%。コンデンサ類で全社売上高の4割強を生み出しています。
このほか、電磁ノイズを取り除き電子回路を守る「ノイズ対策部品EMI除去フィルタ」で世界シェア40%、スマホの無線信号など高周波信号のやりとりに使われる「高周波インダクタ」で同60%を占めるなど、村田製作所の製品はグローバル市場で高いシェアを誇っています。(NEXT DX LEADER編集部)
海外売上高比率が9割超、「Global No.1部品メーカー」目指す
村田製作所の業績は、2022年3月期に売上高1兆8125億円、営業利益2928億円、当期純利益2536億円で、いずれも過去最高となりました。しかし2023年3月期は、売上高が前期比6.9%減、営業利益が同29.8%減となっています。
村田製作所の海外売上高比率は9割を超えており、2023年3月期は中華圏が50.0%を占めています。次いで南北アメリカが15.0%、ヨーロッパが10.3%、アジア・その他が15.7%で、日本は9.0%です。
村田製作所は2021年10月、長期構想「Vision2030」と「中期方針2024」を策定しています。Vision2030では、ありたい姿を「Global No.1部品メーカー」とし、これを実現するための2つの成長戦略を掲げています。
1つ目は「基盤事業の深化とビジネスモデルの深化」。長期視点で将来を見据えて多様なイノベーションを生み出すため、「標準品ビジネス」「用途特化型ビジネス」に「新たなビジネスモデル創出」を加えた「3層ポートフォリオ」を用いた経営を行うとしています。
また、基盤領域として「通信」「モビリティ」、挑戦領域として「環境」「ウェルネス」の計4つの事業機会を重点領域として、事業を展開するとしています。
2つ目は「4つの経営変革の実行」で、この中で「社会価値と経済価値の好循環を生み出す経営」「自律分散型の組織運営の実践」「仮説思考にもとづく変化対応型経営」とともに、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」が位置づけられています。
デジタル活用の徹底で「時間当たり生産性」を向上
Vision2030の「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」では、DXについて“ムラタ内外の人・組織(業務)を、デジタルで縦横無尽につなぎ、プロセスを短く、早く、かつ見える化を進めることで、飛躍的に顧客価値と競争力の向上をドライブし続けるもの”と位置づけています。
そのうえで、<ムラタDX方針>を以下のような形で掲げています。
デジタル基盤の継続投資、デジタル活用の徹底で時間当たり生産性を向上。データ利活用を促進、業務をつなぎ新たな価値を創出する。さらには3層目ポートフォリオ領域にも貢献していく。これらの実行・実践を通じて変革を起こし続ける企業風土を醸成する。
DXの推進体制については「全社DXの戦略推進組織」を新設し、実行組織とともに「強化領域」と「基盤領域」のあるべき姿の実現に向けて全体的なデジタル推進を加速するとしています。これを受けて2020年4月には、企画管理本部 情報システム統括部の管下にデジタル推進部が新設されています。
Vision2030実現に向けた中期方針2024では、4つの中期経営課題のひとつ「経営変革の推進」に「デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進」が位置づけられています。
ここでDXは“生産性を向上させ、新たな価値を創出するために組織や仕事の仕組みを変革させていく。デジタルはその実現のために活用するものとしてDXを推進するための基盤を整備する”と定義されています。
なお、前中期の中期構想2021下では、需要予測の高度化や生産計画の効率化を実現する「生産計画立案システム(SCP)」を導入したほか、スマートファクトリー化に向けてAGV(無人搬送車)やAMR(自律走行搬送ロボット)をはじめとする運搬業務の効率化や、データマイニングを通じた品質コスト削減をすでに進めているとのことです。
DXで「新価値創出」と「合理化・時間短縮」を実現
Murata value report 2021(統合報告書)には、時間当たり生産性を向上するための方策を「デジタル基盤×(新価値創出/合理化・時間短縮)」という式であらわしています。
新価値創出のテーマは「データをつなぎ、業務をつないで価値を生む」。具体的な取り組みとしては「ビッグデータ・AI活用による業務価値向上」「業務のありたい姿をデータで実現」「End to End視点の価値創出」が挙げられています。
合理化・時間時間短縮のテーマは「デジタル導入による時間当たり生産性向上」。具体的な取り組みとしては「既存ツールの徹底活用」「定型業務の自動化」「コミュニケーションの質向上」が挙げられています。
これらを推進するためのデジタル基盤として「DX人材とITプラットフォームへ戦略的投資」するとしており、環境保全やユニークな技術の獲得、リスクに対する準備とともに、DXを中心としたITインフラへの投資枠として2300億円が予定されています。
翌年のMurata value report 2021(統合報告書)には、DX推進のために重点的に取り組む領域がさらに具体化され、「事業軸では最適化が進んだ一方でサイロ化したバリューチェーン、業務、プロセス、システムの再構築」「DXの人材獲得・育成(制度・採用・育成)」「データマネジメント、データ連携・利活用の促進」が掲げられています。
また、デジタルを活用したモノづくりについて取り組みの領域を明確化するとして、以下の7つの領域を挙げています。
①多様な人材への対応:ロボット・AGV活用、加工指示システム
②製造品質の向上:加工条件自動制御、異常予兆検知、画像認識AI
③設備効率の向上:稼働状況監視、予知保全
④設計品質の向上:過去情報利活用DB、開発-製造情報相互接続DB
⑤生産複雑化への対応:生産計画、配台指示システム
⑥仮想一拠点化への対応:工場間、仕入先様、委託先様情報の一元化、遠隔支援
⑦省エネルギー化の促進:エネルギーマネジメントシステム
無線センサユニットと分析ソフトで「設備稼動率」の改善を支援
上記領域の取り組みは、自社のDXの取り組みやデバイス開発のみならず、先進的なパートナーとの連携を通じたIoT/ICTソリューションとして顧客に提供しています。
例えば「業務改善ソリューション mFLIP」では、村田製作所が有するソフトやハード、支援サービスを用いて、設備稼働状況の「見える化」の実現による改善活動のスピードアップを図り、幅広い業界の設備や製品に適用できます。
また「車内の幼児置き去りをWi-Fi電波で検知するソリューション」では、Wi-Fiの電波をセンサとして活用可能なOrigin Wireless社の独自技術と、自動車に最適な高信頼性ムラタモジュールで、車室内の子供置き去りや侵入者のリアルタイム検知を実現します。
「Google インテリジェンス搭載世界最小AIモジュール」では、村田製作所の小型パッケージ技術と、低消費電力かつ高性能な機械学習推論を提供するGoogle社製Edge TPU ICにより、小型AIモジュールを実現。製造や医療、農業の現場、自動車の安全運転支援などに活用される可能性があります。
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