伊藤忠商事のDX:「川下を起点としたビジネスの創造」でファミマ活用 AI自動受発注システムの外販も | NEXT DX LEADER

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伊藤忠商事のDX:「川下を起点としたビジネスの創造」でファミマ活用 AI自動受発注システムの外販も

伊藤忠商事 企業紹介映像 より

伊藤忠商事の源流は、1858年に初代伊藤忠兵衛が創業した麻布類の卸売業です。1949年に大建産業から丸紅など3社とともに分離する形で、伊藤忠商事として再発足。いわゆる5大商社の一角を占め、2023年3月期の収益は13.9兆円、当期純利益は8,005億円です。

現在の事業は「繊維」「機械」「金属」「エネルギー・化学品」「食料」「住生活」「情報・金融」に、ファミリーマートを擁する「第8」のディビジョンカンパニーを加えた8セグメントで展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)

中期経営計画を次々と前倒し達成する急成長

伊藤忠商事は、2018年5月に発表した中期経営計画「Brand-new Deal 2020 “いざ、次世代商人へ”(2018-2020年度)」で掲げた当期純利益4,500億円を、1年前倒しで2019年度に達成して完了しました。

次の中期経営計画「Brand-new Deal 2023(2021-2023年度)」で掲げた連結純利益6,000億円も、2021年度に8,203億円と大きく超過。2022年度の期首目標7,000億円も8,005億円で達成し、急速な成長を遂げています。

数値計画は達成しましたが、現在も「Brand-new Deal 2023」の基本方針の枠組みに沿った事業推進が行われており、その内容は「統合レポート2022」に詳しく書かれています。

2021~2023年度 中期経営計画(2021年5月10日)より

2021~2023年度 中期経営計画(2021年5月10日)より

代表取締役会長CEOの岡藤正広氏は「統合レポート2022」のCEOメッセージの中で、伊藤忠商事の特徴について「情報・金融カンパニー」を有しており、長年にわたってIT関係の知見を蓄積してきたことをあげています。

ITの知見が消費者接点から得られるデータを分析して新たな価値を生み出すうえで強みとなり、他の総合商社との差別化につながっているとし、DXの取り組みに対する自社のスタンスを以下のように述べています。

当社は、産業全体のプラットフォームを構築するといった壮大な構想を掲げるのではなく、各事業の収益力強化や、業態変革に繋がる現場主義のDXを推進しており、例えば、ファミリーマートの川下データを活用したサプライチェーンの最適化において、既に着実な収益力の向上をもたらしています。

IT・デジタル戦略部と情報・金融カンパニーがDX推進

代表取締役執行役員CSO(最高戦略責任者)兼CDO(最高デジタル責任者)・CIO(最高情報責任者)兼業務部長の中宏之氏も「統合レポート2022」の中で、伊藤忠商事のDXは「地に足をつけたDX」が特徴と評しています。

既存の事業基盤を活かしながら、「サプライチェーンの最適化」「業務効率化」といった早期の収益貢献が見込める個別のDX案件を着実に積み重ね、グループ内外の横展開を図るとのことです。

2021~2023年度 中期経営計画(2021年5月10日)より

2021~2023年度 中期経営計画(2021年5月10日)より

このような現場主義のDXを推進する組織として、伊藤忠商事では、ITシステムを担う「IT企画部」と、新規ビジネス分野を開拓する「次世代ビジネス推進室」の総本社のDX推進組織を2021年度に一本化して、全社組織の「IT・デジタル戦略部」を新設。伊藤忠単体のコーポレートDXと、グループ全体でのビジネスDXを両輪で支援・推進しています。

今後は、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC。完全子会社・非上場化に向けてTOB実施中)を傘下に置く情報・金融カンパニーと、IT・デジタル戦略部が中心となり、ビジネス課題の解きほぐしから、実証実験・費用対効果検証、実用化までの全工程を一気通貫で支援し、プロジェクトの着実な実行を推進していく予定とのことです。

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

「統合レポート2022」でプロジェクトの一例に挙げられているのが、日本アクセス(伊藤忠商事の完全子会社)の物流センターのDX。ファミリーマート向け商材1,500品目を対象にAI自動発注システムを導入。川下データを活用することで、在庫の30%減、発注業務量の半減効果を実証しており、すでに全47か所のセンターでAIシステムの運用を開始しています。

2002年度にはファミリーマートの商流に加え、この取り組みによって培った知見をスーパーマーケット業態等に横展開することも予定しているとのことです。

「川下起点」「地に足のついた」「マーケットイン」を強調

「Brand-new Deal 2023」は、基本方針のひとつに“「マーケットイン」の発想によるビジネスモデルのバーションアップ”を掲げています。

具体的には、従来の視点を逆転して「川下を起点としたビジネスの創造」を行い、「商品縦割りの打破」で各カンパニーの連携強化を推進。「DXを活用したバリューチェーンの進化」により資産効率の向上を目指す考え方です。

この基本方針に基づき、7つの変革を行うとしていますが、「DXを活用したバリューチェーンの進化」に強く関わる変革は主に3つです。

1つ目の変革は「ファミリーマートが目指す再成長/ファミリーマートを起点としたバリューチェーンの進化」で、「地に足のついたデジタル化推進」の中で以下の取り組みを行っています。

  • AIを活用した発注リコメンド機能、人型アシスタントによる店長アシスタントによる店長サポートの実証実験を実施、拡大
  • 無人決済店舗・飲料自動充填ロボット導入による省人化に着手
  • 自前の定温配送コースシミュレーターを開発・導入
情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

これにより、販売予測の向上による店舗およびサプライチェーン上の機会ロス・廃棄ロスの削減や、省人化による店舗運営強化と効率化、配送コースシミュレーター活用範囲拡大による更なる店舗配送業務の効率化とコスト削減の実現、などが図られるとしています。

また、デジタル顧客基盤の強化としてアプリ「ファミペイ」利用者の拡大を図っており、2022年5月末で1,250万ダウンロードを達成。ファミマ利用者のリピート率上昇に寄与し、マーケティングへの活用が進展。2021年9月には「ファミペイ翌月払い」、2021年12月には「ファミペイローン」といった新しい金融サービスの提供も始めています。

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

このほか、店舗内デジタルサイネージへのコンテンツ配信を行うメディア事業会社「ゲート・ワン」を設立し、ファミリーマート独自の地域・時間帯別の広告配信メニューを拡充。集客による日商・利益増加や広告媒体事業の収益化を図るとのことです。

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

ブロックチェーン技術を活用したSDGsへの貢献も

2つ目の変革は「情報・金融カンパニーの市場の変化を先取りした自己変革」。情報・金融カンパニーは、伊藤忠テクノソリューションズやベルシステム24、コネクシオ、ほけんの窓口などを傘下に置いて、非資源分野の収益の柱として存在感を増しており、「マーケットイン型サービス」の提供を通じて成長を目指します。

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

また、伊藤忠グループでは、請求書のペーパーレス化やAI自動受発注システムなど、各現場での業務効率化やコスト削減につながるDXを積極的に推進しており、この知見やノウハウを、DX支援事業を通じた収益拡大につなげていきます。

このようなDX支援事業を行うために、経営・ITコンサルティングのシグマクシスや、デジタルコンサルティングのAKQA、GCPインテグレーションのGI Cloud、帳票・BIソリューションのWingArc1st、データ分析のBrainPadと資本業務提携等を行っており、バリューチェーン全体における機動的なDX推進を可能とする体制を構築しています。

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

情報・金融カンパニー・第8カンパニーにおけるデジタル戦略(2022年3月24日)より

もうひとつ、「SDGs」への貢献・取組強化にDXを活用する変革として「バリューチェーン強靭化による持続的成長」があげられます。インドネシアの会社が調達する天然ゴムにおいて、情報改ざんが難しいブロックチェーン技術を活用し、生産から加工までのトレーサビリティを確立しました。

これにより、供給された天然ゴムが違法採取や人権侵害等のリスクの小さいものであることを担保するプラットフォームを構築するとともに、トレーサビリティを付加価値としたプレミアムタイアの売上の一部を原資とし、天然ゴムの供給者である小規模農家に還元することで、産業全体のサステナビリティ向上につなげています。


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YouTube:伊藤忠商事 企業紹介映像

考察記事執筆:NDX編集部

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