京セラは1959年、稲盛和夫氏がファインセラミックスの専門メーカー「京都セラミック」として創業した会社です。1972年に東証二部上場、1974年に東証一部指定(現プライム市場)。「アメーバ経営」を掲げ、1982年に4社を吸収合併して京セラに社名変更後も、数々のM&Aなどで業績を伸ばして創業以来黒字経営を継続しています。
2023年3月期の売上高は2兆円を突破、海外売上高比率は約7割。創業からのコア技術である「ファインセラミック技術」に加え、携帯端末などで培った「無線通信技術」などを活用し、幅広い領域でグローバルに事業を展開しています。(NEXT DX LEADER編集部)
ビジネス機会を活かすべく3期間で最大1兆2,000億円を投資
京セラは2021年4月より、事業セグメントを3つに再構成し、各セグメントに担当役員を任命。管理部門をコーポレートへ集約しています。これにより「事業部門を超えた戦略立案・実行」「更なる人材の流動化・組織の活性化」「経営資源の効率化/有効活用」を可能にするとしています。
京セラの売上高の53%を占めているのは「ソリューション」セグメント。切削工具等の機械工具事業や、オフィス向けプリンター・複合機などのドキュメントソリューション事業、携帯端末などのコミュニケーション事業などが含まれます。
次いで、半導体製造装置用部品等の各種ファインセラミック部品や、セラミック・有機パッケージなどの「コアコンポーネント」が29%、コンデンサや水晶部品、コネクタ、パワー半導体等の各種電子部品やデバイスなどの「電子部品」が19%です。
「京セラグループの価値創造モデル」には、重点市場として「情報・通信市場(5G・IoT)」「自動車関連市場(ADAS・MaaS・EV)」「環境・エネルギー市場(カーボンニュートラル)」「医療・ヘルスケア市場(予防医療・デジタルヘルスケア)」があがっており、事業そのものがDXに関連の強い領域といえます。
2023年5月には、創業以来初となる「中期経営計画」を発表しました。6年後の2029年3月期までに売上高3兆円という高い目標を掲げ、これを達成するために、2024年3月期から3期間で売上高を2.5兆円に伸ばす計画を立てています。
背景には「半導体市場の中長期的な拡大」「AI/5G/ADASなど新技術の社会実装本格化」「世界的な環境意識の高まり」という大きなビジネス機会があり、これを活かすべく3期間で最大1兆2,000億円の投資を行うとしています。
投資額の半数近くは、高成長が期待される「コアコンポーネント」セグメントの「半導体関連部品」に集中。2027年3月期には長崎県諫早市の新工場で、半導体製造装置用ファインセラミック部品や半導体パッケージなどの生産を開始する予定です。
ウィズコロナでDXが「Should」から「Must」に
京セラは、早くから本格的なDXに取り組んでいます。2018年11月の「Kyocera IR Day」では、代表取締役社長の谷本秀夫氏が「AI・IoTの活用によるモノづくり改革と事業創造」の取り組みについて説明しています。
経営基盤の強化策として、各事業部門に「AI活用ツール」を提供。自動設計や設備予防保全の自動化、検査制度の向上を図っています。あわせて「ロボット活用」を支援し、モデルラインの構築と、各部門への展開を図っています。
また具体的な事例として「AIの活用及び自動生産ラインの導入によるモノづくりの高効率化」「工場IoTプロジェクト推進による競争力強化」「京セラが提案するコネクティッドカーソリューション」の取り組みを紹介しています。
京セラは毎年発行する「統合報告書」で、経営基盤強化の取り組みのひとつとして「デジタル化推進」を位置づけ、進捗状況を継続的に開示しています。「統合報告書2020」では、ウィズコロナでDXが「Should」から「Must」になったという認識を示しています。
「統合報告書2021」では、2020年4月に新設したデジタルビジネス推進本部について紹介。この組織は、各部門からシステムメンバーを兼務化し、横串を通すことで情報を共有し、共有機能をプラットフォーム化する役割を担っています。
谷本社長はトップメッセージとして、DXについて以下のように言及しています。
現在、 私たちは大きな変革期に直面しており、DX(デジタルトランスフォーメーション) の推進に加え、5G(第5世代移動通信システム)やADAS(先進運転支援システム)、 AI(人工知能)の普及、そして働き方改革など、変化の波は大きなうねりとなって押し寄せています。
「モノ売り」から「コト売り」へ5つの施策に取り組む
「統合報告書2022」はデジタル化による業務革新を超えて、「顧客接点のデジタル化」や「ものづくり・物流のデジタル化」に加え、「CX(製品・サービスのデジタル化)」や「BX(ビジネスの拡張・変革)」に取り組みの範囲を広げています。
そして「モノ売り」から「コト売り」へ、“デジタルビジネスへの変革”に向けて、京セラのデジタル化推進を以下の5つの施策として取り組むとしています。
1.全社での営業情報の共有と利活用
11本部にCRMツールを導入し、顧客情報の一元化を開始(2022年4月時点)。これまでの事業ドメインごとの営業活動を、営業情報の全社共有に変え、クロスセルや共同提案など事業拡大への活動が可能になっています。
2.データ収集/分析プラットフォーム
各部門から収集されたデータを整形化し、活用分析する環境を構築。人材を社内育成する体制を整え、製造現場での品質改善・生産性向上に活用しています。
3.製造現場での生産性倍増計画
スマートファクトリー化された新ラインが2021年4月に稼働。AI によるデータ活用とロボット活用により、大幅な生産性向上を進めています。
4.ネットワークとセキュリティ
ネットワーク構成の最適化を実施し、工場のIoT用のネットワーク構築も推進。外部からのサイバー攻撃の予防やセキュリティ事案に即応する部門も設置しています。
5.事務処理効率化とそのためのITスキルのボトムアップ
総務・管理業務の効率化について、Cloudベースの情報共有や、ノーコード開発環境の活用を推進。ボトムアップの人材育成も行っています。
「BX」に向けて社員の意識改革や風土改革も
DXの意味について、京セラは「統合報告書2021」の中で次のように明記しています。
当社が取り組むDX戦略は、目的ではなく手段であり、DXを通して課題解決に取り組み、社員の意識や企業風土の変革により持続的な成長を実現することにあります。DX をトリガーとして、CX(コーポレートトランスフォーメーション /構造改革)そしてBX(ビジネストランスフォーメーション /事業改革/新規事業)の実現が本来の目的になります。
そして「統合報告書2022」の中で、DX(デジタル変革)からBX(ビジネス変革)へ展開するためにはデジタル活用の取り組みだけではなく、社員の意識改革や風土改革に至るプロセス設計の必要性を強調。デジタル化施策の実行を通じて、部門間の壁を意識せずに活動できるように全社横断のスキーム(コミュニティ、兼務組織)を構築し、各部門のメンバーを育成することで顧客への貢献を通じた経営理念の実現を目指すとしています。
このプロセスの中で、CX(コーポレートトランスフォーメーション/構造改革)のためのルールや業務プロセスの変革と、EX(エンプロイートランスフォーメーション/従業員変革)によるモチベーション、ロイヤリティの向上が位置づけられており、これらに支えられて自発的・主体的DXが生まれ、新たなビジネス・イノベーション(BX)を生み出せる企業への変革がもたらされるという構図になっています。
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