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「2026年春の新卒入社は誰もいません」かつて大量採用していた警備会社が“新卒ゼロ”になった背景

画像はイメージ

「2026年春の新卒入社は誰もいません。私が数年前に入社したときは、毎年数十人から100人程度のまとまった人数が入社していましたが……」

かつての職場の惨状をそう振り返るのは、数年前に新卒で警備会社に入社した白井さん(仮名、20代女性)だ。

いつまで続くか分からない不規則な勤務形態、自分ではコントロールできない長時間労働がつらく、2年半で会社を去ったという。編集部は白井さんに取材し、当時の状況を詳しく聞いた。(文:篠原みつき)

就寝時間がバラバラで生活リズムが崩壊

入社後、白井さんは職場からの指示で、遠く離れた2つの現場を日替わりで担当することになった。

1つ目の現場は片道約50分で、朝7時から夕方までの勤務。2つ目の現場は片道1時間半もかかり、昼から夜9時までの勤務だった。

「昼から夜まで仕事をして翌朝7時からだと、睡眠時間は足りません。その反動で休みの日に寝過ぎてしまうこともありました。同じ週や月のなかで、日の出前に起きる日もあれば、ゆっくり起きられる日も混在していて、寝起きする時間がバラバラだったんです」

「生活リズムをつかめず、ふと底なし沼のような強い眠気に襲われる時もありました。入社前には予想していなかったことで、ギャップを感じましたね」

さらに、職場では制服の着用が必須で出退勤時に着替えるため、定時を迎えてもそのまま帰宅することはできない。バックヤードの距離が遠く、着替えて職場を出るまでに30分ほどかかる現場もあったという。

「お客さまや人の役に立っていることにやり甲斐を感じる事もありましたが、自分ではコントロールできない長時間労働をこれまでの人生で初めて経験したんです。当時は、ずっとこんな勤務形態なのか、一時的なのか、いつ終わるのかも分からなくて不安でした」

労基署の目もすり抜ける「略字シフト」

心身ともに過酷なスケジュールだったが、そのしんどさは他の人には伝わっていなかった。原因は、現場ごとに作られる「シフト表」にある。

シフト表はパソコンや紙で共有されるものの、詳細な勤務時間が書かれておらず、現場名が地名の漢字一文字で記されているだけだった。

「他の人が見たときに、その人が日によって色々な勤務地に行っていることは分かったとしても、勤務時間までは伝わりません。その人と一部の職場の人々、そして神のみぞ知るという感じです」

略字はシフトを一枚の紙に収めるための工夫だったようだが、これでは誰がどれほどの拘束を受けているのか可視化されない。

「年に一回程度、労働基準監督署の人がチェックに来るのですが、そのときも勤務形態がしんどいことは誰にも伝わりませんでした」

残業代などの給与は正しく支払われていたものの、個人の負担はその人と一部の人間しかわからない環境だったのだ。他の人も同じような働き方をしていたと思われるが、孤独感が強かったという。

退職代行の波紋と「新卒ゼロ」という結末

こうした異常とも言える働き方に、職場の人間は「割と慣れている」様子だったという。白井さんは「慣れって怖いな。色々な意味でやばいな」と静かに危機感を抱いていた。

そんな閉鎖的な環境のなか、別の現場で働く社員が「退職代行サービス」を使って辞めるという出来事が起きた。

「職場では『退職代行という物があるなんて知らなかった』という反応や、退職代行を使うということは現場に物を言いにくい雰囲気があったんじゃないか、という声が上がりました」

その後、白井さん自身も退職している。

会社側も、決して新卒社員を悪いように扱うつもりはなかったのかもしれない。しかし、不規則な勤務形態による心身の疲弊に加え、「退職代行を使わなければ辞められない」と思わせるような閉鎖的な空気が若手の離職を招いたのだろう。

白井さんは「こういった状況があるからなのか、どこかから伝わったのか分かりませんが」と前置きし、冒頭の通りかつては年に100人程度いた新卒入社が、今年ついにゼロになったことを在職中の社員から聞いたという。

新卒は諦めて中途採用に切り替えたのかもしれないが、こうした働きづらさがある限り人材の定着は難しそうだ。

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