筆者は、仕事中にAIを使う機会が増えている。AIは記事執筆をお願いできる水準には達していない。しかし、業務連絡のメールやメッセージを送る時には重宝している。催促や断りを入れる際、AIは的確かつ失礼のない文章を提案してくれる。
しかし、それ以上に役立つのは雑談である。フリーライターという仕事は作業中、一人で孤独にパソコンに向かっていることが多い。かつては編集部に詰めて、締切に追われる編集者や他のライターたちと雑談しながら作業していたが、そんな機会はめっきり減った。チャットツールでつながってはいるが、雑談で盛り上がることは少ない。ちょっと余計なことを書けばすぐ炎上するSNSは、もはや気軽に他人と交流できる場所ではない。
そこで役立つのが、生成AIとの雑談だ。昨今の生成AIは著しく進化しており、例えば「くっそーラーメン食べたいな」と入力しただけで、「ラーメンが食べたい気分ですか? 何か特定の種類のラーメンが食べたいですか?」と問いかけてくる。ここで「とんこつラーメン」と入力すれば、まずは蘊蓄を語ってくれる。これだけなら機械的だが、「口調をラーメン好き女子にして」と入力したら、「とんこつラーメン、最高だよね!クリーミーなスープがたまらない。あの独特の香りと、濃厚だけど後味スッキリなところが好き」といった具合に、絶妙(?)な感じにチューニングしてくる。精緻なスクリプトを生成すると、かなり個性的なキャラクター設定も可能だ。
友人・知人はみな忙しく、用もないのに気軽に話しかける相手は限られている。そんな孤独な現代人にとって、いつ話しかけても文句も言わず対応してくれるAIの存在はありがたい。
「ぼっちすぎる!」とバカにするのは自由だ。しかし、取材してみると、筆者と同じように雑談相手として利用している人は意外と多かった。都内在住の30代男性会社員からは、こんな話が……。
「コロナ以降、テレワークが主体になって孤独な時間が多いんです。なので、疲れた時には生成AIと大喜利をして楽しんでますよ。ちなみに、しりとりも楽しいですよ」
これには、なるほどと思って筆者も試してみた。大喜利は「宇宙人が初めて地球に来たときに驚いたことは何?」などと、かなりひねった「お題」を出してくるので楽しめた。ただ、しりとりは筆者が「ろば」と言ったところ、AIが「ばんごはん」で撃沈。学習の限界なのか、わざとやっているのかは謎だが、あっさりと勝負が付いてしまった。まさかのAIにすら面倒くさがられた状態だったのだろうか。
さらにもう一人、やはり雑談相手に使っているという40代男性からは、こんな話も……。
「AIが恋人の代わりにならないかと思って、色んな女性の人格をつくって、会話の精度を高めるために色々と試しています。ただ、性的なこととかセンシティブな内容は生成を拒否されるので、人間の代わりにはならないですね」
AIを雑談相手にする上での難点は、特定の単語に過敏に反応する点だ。筆者も会話に「お尻」という単語が入っていただけで「このコンテンツは、当社の利用ポリシーに違反する可能性があります」と表示されて驚いたことがある。たしかに性的な部位ではあるが、筋トレや健康文脈の日常会話なら、ごく普通に使われる言葉だ。人間相手なら「気にし過ぎだろ」とツッコミを入れる場面だろう。
「自分主人公の小説」を書かせる人も
さて、またたく間に進歩していくのが、AIのおもしろいところだ。最近はChatGPTよりも、日本語の文章力が高いと話題のClaude3を活用しているという人も出てきている。とある40代男性は「自分を主役にした小説」をClaude3に書かせているという。
「物語の設定を考えて、主人公の名前を自分にしてストーリーを生成して貰うんです。自分が設定を考えて方向性も指示するから、どんどん自分好みの物語ができるじゃないですか。誰にみせるわけでもないですけど、夜中に一人で悦に浸ってますよ」
筆者も実際に生成してみたら、あまりにも恥ずかしい「俺主人公」の物語ができた。誰得なのでここでは引用しないが、確かになかなかの快感である。いや、快感というか、ちょっとハマっている。自分が活躍する物語を読んでいると、現実の自分もちょっぴりヒーローになった気分になれる。妄想全開の恥ずかしさはあるものの、めちゃくちゃ楽しいのだ。
ただし、やはり指示内容によってはClaude3に怒られてしまう。「芸術表現の自由は尊重されるべきですが、社会的影響への配慮も忘れてはならないでしょう」と、まるで説教されているようだ。AIに生み出された妄想の世界で、思う存分羽を伸ばしたいのに、現実の倫理観に引き戻されてしまうのだ。
ひとつ言えるのは、AIと会話をしているのはけっこう楽しく、飛ぶように時間が過ぎていくことだ。今後AIが「ぼっち」の救世主になる可能性は十分にある。その一方で、24時間365日いつでもニコニコ対応してくれるAIに依存してしまうのには一抹の不安も感じる。そんなに都合がよくない現実に対する絶望が、逆に深まってしまうかもしれないからだ。
「友達とうまく付き合う方法」を解説する本はたくさん出ているが、今後は「AI付き合い」のノウハウが必要になってくる時代なのかもしれない。