入社当初は、営業職へスカウトされるくらいコミュニケーション能力が評価されていた。ただ、それがあだとなったのかもしれない。男性はいじめに遭った理由をこう推測している。

「きっかけは、当時エンジニアとしてはコミュニケーション能力がずば抜けて高かったため、悪い意味でも良い意味でも目立ちすぎていました。人望も厚く、いじめが始まる前はお客様を含めてみんなから『会社の雰囲気が明るくなった』と絶賛されていました」

絶好調な滑り出しだったが、それを「面白くない」と感じる人物がいた。

「いじめて来たのは、当初は一人でした。5年くらい先輩で20代後半の男性です。無口でいい加減なところがありましたが、プログラムの腕は優秀な方でした」

仕事はできるがコミュニケーションに関しては男性とは真逆の先輩に、こんな暴言を浴びせられた。

「『お前の横だと仕事に集中できない！』とか、『新人なんだから電話取れよ！』とも言われました。でも、電話を取ると『電話の声うるさいから、電話取るな！』と怒鳴られます。あとは『仕事できないくせに偉そうにするな！』『お前に教えることは何も無い！』とか……。知らないと仕事が進められない情報も教えてもらえない状況でした」

さらには「気持ち悪い」などと言われ心は萎えた。そんな中、あの飲み会での一件が起こる。

「暴力よりも私の失言の方を責められました」

「先輩から『苦手な人は誰？』と聞かれ、そんな人いないとひたすら逃げても、『強いてあげるなら？』としつこく言われ、渋々、『本当に強いて言うなら…』と話したら、『こいつ新人のくせに〇〇さん嫌いなんだって』と大声で言われました」

これに切れた〇〇さんからは、なんと「鼻血が出るほど殴られた」そうだ。20年前とは言えとんでもない暴力沙汰だ。社内で問題にはならなかったのだろうか。

「部長が二人いる中での出来事でしたが、暴力よりも私の失言の方を責められました。○○さんは温厚で有名な先輩で、無口な方でしたが、どちらかと言えば慕われていました。そのせいか、私の味方やフォローをしてくれる人はおらず……」

その後は、「50人ほどいた社員から無視される」という境遇に陥った。

「本当に泣きたくなるほど辛く、一日も早く転職したい思いが強かったです。しかし当時は就職氷河期で、三年勤めないと根性無しと言われ転職できない時代でしたので、ひたすら耐える日々でした。ストレス発散に昼休みにパチンコ行ったり、どうしても我慢出来ないときはトイレの壁を穴が開くほど殴っていました」

八方塞がりの苦しさの中、さらに追い詰められる事態が起きる。

花形部署から不人気部署へ「強制的に異動させられました」

社内で孤立無援となってしまった男性。ついに人事にまで影響が及んだ。

「所属部署の部長に『あいつがいるなら辞めます』と言われ、花形のプログラムの開発部署から、品質管理という当時は一番不人気な部署へ強制的に異動させられました。しかも前の部署と同じフロアー内だったのでいじめは続き、しばらくは逃げ場がありませんでした」

その後、部署の建物が変わって「人間関係は劇的によくなった」というが……。

「結局、三年我慢して退職しました。異動後から1年ちょっとです。その後何度か転職しましたが、不遇なことにパワハラの職場に当たりやすいらしく、転職先のうち2社でパワハラにあいました」

ただ、現在は「知人のツテでパワハラとは縁のない会社でマネージャー職」をしているという。やっと穏やかな環境で仕事ができるようになったのだ。

男性は「職場いじめ」について、切実にこう訴える。

「ストレスは誰もが抱える問題ですし、些細なことで腹が立つのは理解できます。ただ、捌け口にするために自分より立場が弱い人を巻き込むのは本当によくないことだと思います。いじめられる方に原因があると言われる事が、いじめられた当事者にとって一番辛いです。職場でいじめられると逃げ場がありません。私のような人が今後生まれないよう、世の中の意識が変わることを望みます」