牛の蹄を削る「削蹄師」の仕事、年収1000万狙えるって本当? プロに聞いた。 | キャリコネニュース
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牛の蹄を削る「削蹄師」の仕事、年収1000万狙えるって本当? プロに聞いた。

牛の画像

年収1000万円って本当!?

牛削蹄師という仕事をご存知だろうか? 畜産農家の依頼を受け、家畜として飼育される牛の蹄(ひづめ、牛の足にある爪のこと)を整える仕事で、削蹄師は「牛のネイリスト」とも呼ばれる職人たちだ。

その職人技はYouTubeにもアップされ、密かな人気を集めている。そんな、ついつい見入ってしまう不思議な魅力に加え、なんと収入面でも「おいしい」仕事らしい。検索してみると、年収1000万円も目指せる仕事として削蹄師を紹介するブログ記事や、「月収30万円・経験不問」で削蹄師の助手を募集する求人も散見される。

本当のところ、どうなのだろうか? 牛削蹄師の認定試験制度を運営する日本装削蹄協会の牛削蹄教育課長・大沼純一さんに、実態を聞いた。(取材・文:伊藤 綾)

頑張れば1日で15万~20万円の稼ぎも!?

作業の様子

職人技で整えていく(写真:日本装削蹄協会提供、以下同)

牛削蹄師の免許を所有し、全国で牛削蹄師になるための講習会や資格試験で指導や採点をしている大沼氏。さっそくだが、牛削蹄師の気になる「稼ぎ」について聞いた。

「削蹄師は個人事業主として働く削蹄師と、畜産関係の会社に籍を置く削蹄師に大きく分かれ、給料や待遇は地域や会社・個人によっても幅があります。具体的に平均年収などは言えませんが、牛1頭の削蹄で平均3000~4000円が全国的な相場とされ、最新の設備などを使うと、削蹄師2人がかりで1日100頭以上の削蹄を行うケースもありますね」

丸1日頑張れば15万~20万円も稼げる計算だが、作業に当たる削蹄師の人数や熟練度、削蹄の設備や方法などで、削蹄頭数や収入は変わってくるという。

大沼さんは「実際にお客さんを得るまで、コンスタントに仕事がもらえるわけでもなく、そこまでいくケースは少ないと思います」と語る。

牛の削蹄は、まず、槌(つち)と鉈(なた)のような専用器具で、蹄を短削して形を整える。次に、一本ずつ牛の肢を持ち上げて蹄の底を平らに削る。そして最後に、ヤスリで綺麗に蹄の形を整えていく……という工程になる。

ひとことで「蹄を削る」というと、シンプルな話にも思えるが、実際は牛のペースに合わせた作業が必要など、実際は繊細で奥深い職人の世界。その知識や技術を競い合う全国大会が開かれるほどだという。

「削蹄に慣れている牛は大人しく肢を上げてくれますが、初めて削蹄する牛などは暴れてしまい、なかなか肢を持たせてくれないこともあります。削蹄を行うためには牛を保定する必要があり、自力で牛の肢を持ち上げて保定するか、枠場を使って保定するかでも作業時間は違います」

牛の扱い方の基本とされる保定は、削蹄師になる上では必須の技術。枠場を使わずに牛の肢を保持する方法は「単独保定」と呼ばれ、資格検定や大会の実技はすべてこの方法で行われるという。

「単独保定は削蹄の基本ですが、実際の業務で多くの頭数をこなす場合は枠場を使ったほうが効率的です。近年はボタンを押すだけで牛の肢が自動的に持ち上がる油圧式枠場を使い、電動削蹄機という刃が回転する機械に当てるようにして蹄を削る方法が普及しています。この方法だと作業時間は従来よりも格段に早いです」

ちなみに油圧式枠場や電動削蹄機といった設備は、数百万円単位とのことだ。

牛に蹴られて大怪我をするリスクも

作業の様子画像

作業の様子

そもそも、牛の削蹄はなぜ必要なのだろうか? 大沼さんはこう答える。

「乳牛も肉牛も蹄が伸びすぎてしまうと、寝起きや歩行といった動作に苦痛やストレスを感じるようになり、生産量や質の低下につながるんです。牛舎で飼育されている牛は運動量が少ない上、きちんと掃除もしていても牛舎は糞尿に晒されやすい環境なので、最悪の場合は蹄病という蹄の病気などに罹り、自力で立てなくなるリスクもあります」

削蹄で起立・歩行が改善すると、牛の餌や水へのアクセス頻度が増加する、という調査結果があるそうだ。また、怪我につながる転倒や蹄病の予防、早期発見・治療もしやすくなるという。蹄は「牛の第二の心臓」とも言われ、その管理は、牧場の経営をも左右しかねない、重要な問題なのだ。

「牛乳や牛肉の生産では牛の健康を維持することが大切で、そのためには牛の体を支える土台となる蹄の管理が非常に重要になります。削蹄の前後で牛の動作や姿勢は大きく変わりますし、そういう意味では目に見えて成果を感じやすい仕事だと思いますね。ちなみに放牧で飼育されている牛の蹄は地面との摩滅で、あまり伸びません。多少の管理は必要になりますが、牛舎で飼育される牛ほど頻繁に削蹄を行う必要がないんです」

体重500キロにも及ぶ牛を扱うのは、体力が必須となる。

「削蹄の仕事って昔は典型的な3Kと言われることもあって、けっこうキツい仕事なんです。臭いがキツくて、力仕事も多いし、牛に蹴られて大怪我をするリスクもある。個人事業主の場合は頭数をこなすほど収入が増えますが、当然、怪我を負い仕事ができなくなることもあり得ます。ベテランと呼べるような経験を積んだからといって、誰もが独立を目指すわけではなく、会社で働き続ける人も多いです」

仕事の将来性は……?


作業の様子

丁寧に仕上げていく

ちなみに、牛削蹄師の認定資格には「2級」「1級」「指導級」の3ランクがあり、それぞれ講習会を受講して、認定試験に合格しなければ取得できない。

「2級の講習では牛の肢部分の名称などを覚える”解剖”、牛蹄の病気などの疾病、基本的な削蹄の手順、保定の仕方、使用する道具や削蹄判断などを説明します。1級では、牛の立ち姿勢や蹄の形、歩き方、飼育環境といった牛ごとの特徴を見極め、より技術的な削蹄を行うための “削蹄判断”の応用を説明します。指導級は名前通り指導を行える位置付けの資格で、2級・1級の内容をより突き詰めていきます。それぞれの資格を取得するための実技講習では、原則として各地域の指導級取得者に講師をお願いしていますね」

牛削蹄師の資格は5年ごとに事務手続き上の更新が必要だが、技術的な講習や試験を受け直す必要などはないという。約50年間で累計1万1000人以上がこれらの認定資格を取得し、現在は約2800人が更新しているそうだ。

2級認定牛削蹄師の受講対象者は「18歳以上」とのことだが、畜産業界での経験が全くない人でも牛削蹄師を目指せるのだろうか?

「まずはベテラン削蹄師さんの元で助手として働き、経験を積みながら資格を得てもらうのが一番ですね。2級の認定試験を受験する人の内訳としては、農業系の大学生の割合が高く、次に畜産関連企業の従業員、酪農家や獣医と続きます。女性比率はまだまだ低いものの、最近は作業の機械化が進んだことなどもあり、少しずつ女性の削蹄師も増えてきています」

大沼氏は「将来的にも牛削蹄師の仕事は一定の需要がある」と見込む。

「企業の畜産業への参入や助成金による牛舎の機械化・大型化が推進され、畜産農家の戸数が減少しても国内の畜産牛の頭数は現状維持、もしくは微増する傾向も見受けられます。本会では年2回以上の削蹄を推奨しており、北海道など特に牛の畜産が盛んな地域では年4回削蹄する農家さんもいる。地域によっては削蹄師さんが足りず、現場を回りきれていないような現状もありますね」

厳しさもあるが、将来性も見込めるようだ。向き不向きはあるだろうが、人によっては本当に「狙い目」の仕事なのかもしれない。

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